表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パレット  作者: 青原朔
27/37

-第27章- 開始の合図

裏口のドアが閉まる音がして、

喫茶アオハラに、いつもの空気が戻ってきた。


コーヒーの香り。

ミルの低い音。

カウンター越しの、変わらない距離。


「遅かったね」


火憐が言う。

責める口調じゃない。

確認に近い。


「ちょっと風に当たってただけ」


ハルはそう答えて、エプロンを外した。


美波はすでにカウンターの端に腰掛けていて、

足をぶらぶらさせながら、店内を見回している。


「ここ、落ち着くよね」


「客じゃないんだから」


火憐が即座に突っ込む。


「えー、いいじゃん」


美波は気にしない。


久我は入口付近に立ったまま、

誰の椅子にも座らなかった。


「全員いるな」


その一言で、空気が引き締まる。


葵は、カップを拭く手を止めずに言った。


「……夜、始まる?」


「もう始まってる」


久我は短く答える。


「ただし、まだ“表”だ」


「裏は?」


ハルが聞く。


「これからだ」


久我は、店の奥――

壁に掛かった時計を一度だけ見た。


秒針が、ひとつ進む。


「祭りが始まったら、

 所属を示す腕章が出回る」


「対黒局と、ヴィジランテ」


火憐が言う。


「それと、自衛隊」


久我は頷いた。


「非所属は、その時点で“判断対象”だ」


「捕獲、ね」


ハルが言うと、久我は一瞬だけ目を細めた。


「そうだ」


「じゃあ」


ハルは、ゆっくり言った。


「俺たちは、どこにも属さない」


火憐が、黙って頷く。

葵も、目を伏せたまま肯定した。


「目的は一つだ」


ハルは続ける。


「青原さんと、星崎アマネを探す」


名前が出た瞬間、

店内の空気が、わずかに歪んだ。


美波が、何も言わずにハルを見る。


久我は、短く息を吐いた。


「……了解した」


「協力はする」


「でも、線は越えない」


ハルは言い切った。


「それでいい」


久我は踵を返す。


「夜になったら、動く」


ドアに手をかけて、振り返る。


「生き残りたいなら、

 準備しとけ」


ベルが鳴り、久我が出ていく。


残された五人の間に、

短い沈黙が落ちた。


「……やっぱり」


火憐が言う。


「ただの祭りじゃないね」


ハルは、提灯の灯りを見た。


赤でも白でもない、

くすんだ光。


「うん」


静かに答える。


「だから、行く」


夜は、もう引き返させてくれない。


空が、ゆっくりと暗くなっていく。


提灯の光が街を縁取るように灯り、

人の流れが、わずかにざわつき始めていた。


鷹見は路地の奥で立ち止まり、

インカムに指を添える。


「聞こえてるな」


返事は待たない。


「今夜の合図は花火だ」


短く、はっきりと言う。


「一発目が上がった瞬間から、夜が切り替わる」


遠くで、発射筒の準備音がした。


「二班に分かれる」


間を置かず続ける。


「第一班。久我、神木」


「了解」


久我の声。


「地上を回れ。

 人の流れに紛れて異変を拾う」


「派手に動くな。

 目立った時点で、狙われる」


「第二班」


鷹見は視線を上げる。

提灯の列、そのさらに上空。


「美波、水卜、火野」


「上から、ですね」


美波が言う。


「そうだ」


「護衛と索敵を兼ねる。

 黒の兆候、能力行使、全部拾え」


「撃たれる前に下がれ。

 無理なら、即報告」


一拍。


「腕章の確認を最優先」


声が、少しだけ低くなる。


「光っていない者は、

 所属不明、非所属だ」


ハルが口を開く。


「……捕まえる?」


鷹見は、すぐには答えなかった。


「報告だけでいい」


ゆっくりと言う。


「判断は、俺がする」


その一言で、空気が締まる。


「無線は常時開放」


「花火が上がったら、配置につけ」


遠くで、一発目の花火が上がった。


乾いた破裂音が、夜に広がる。


祝祭の音。

それと同時に、街の“顔”が変わる。


「——行動開始」


鷹見はそう言って、インカムを切った。


花火の光が、提灯に反射する。


夜は、祝われながら始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ