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パレット  作者: 青原朔
19/38

-第19章- 異物

対黒局・内部記録


会議室は、窓がなかった。


照明は白く、影を作らない。

この場所では、立場だけがはっきりする。


「――なぜ、捕獲しなかった」


正面の男が言った。

肩書きは読み上げられない。

それで十分だった。


「対象は未所属。

 黒との親和性は想定値を超えている。

 現場で抑制可能だったはずだ」


対面に立つのは、前線部隊のリーダー鷹見朗たかみあきら

背筋は伸びているが、拳は軽く握られている。


「抑制は可能でした」


淡々と答える。


「ですが、捕獲は見送りました」


一瞬、空気が冷える。


「理由を」


「——相手は、まだ子供です」


会議室が、わずかにざわつく。


「年齢の話をしているわけではない」


上層の声は低い。


「結果として、

 彼は黒を処理している。

 被害も抑えている」


「それは事実です」


リーダーは否定しない。


「だからこそ、です」


一拍。


「彼は“正解を重ねている”」


沈黙。


「正解を重ねて、

 間違いに気づく機会を失っている」


誰かが鼻で笑った。


「感情論だな」


「違います」


即答だった。


「現場の判断です」


リーダーは、視線を逸らさない。


「彼は、自分が変わっていることに

 まだ気づいていない」


「だから?」


「だから、捕まえれば終わります」


声は、低い。


「壊れるか、

 従うか、

 どちらかです」


上層部の男が、椅子に深く腰掛ける。


「……我々は、

 そうやって世界を守ってきた」


「知っています」


リーダーは、ほんの少しだけ言葉を選んだ。


「ですが、

 彼の能力は例外です」


資料が投影される。


【黒パレット】

回収・保持・再利用の可能性。


「——資産だな」


誰かが言う。


リーダーの表情が、わずかに硬くなる。


「彼は、人です」


「今はな」


上層の声は、はっきりと言った。


「次はどうする」


リーダーは、少しだけ間を置いた。


「監視を続けます」


「捕獲許可は?」


「——保留を」


短く、強く。


「彼は、

 まだ引き返せる位置にいる」


沈黙。


「それは、お前の希望か?」


リーダーは、ゆっくり息を吸った。


「現場の判断です」


しばらくして、上層部は言った。


「いいだろう。

 だが次はない」


視線が、突き刺さる。


「次に“対応”を見送れば、

 責任はお前が取れ」


会議は、それで終わった。

_______

夜明け前、

対黒局の拠点は静かすぎた。


任務は完了している。

報告も、処理も、規定通りだ。


それでも、

リーダー、鷹見朗たかみあきらは椅子から立てずにいた。


机の上に置かれたライトを、指で転がす。

黒を怯ませる光。

人かどうかを選別する光。


便利で、正しくて、

そして——冷たい。


「……問題はなかった」


誰に聞かせるでもなく、そう言った。


未所属の少年。

変化の兆候。

管理対象としては、十分すぎる。


捕獲しなかった判断も、

線を引いた判断も、

上層部は“理解”した。


理解した上で、

次は対応になる、と言った。


それだけだ。


ハルの顔が、ふと浮かぶ。

反抗的でもなく、

無謀でもなく、

ただ「間に合わせよう」としていた目。


あの目を、

どこかで見た気がする。


——昔だ。


まだ現場に出たばかりの頃。

正しさを疑わず、

疑われることもなかった頃。


「……歳かな」


小さく呟く。


正義が鈍ったわけじゃない。

判断が甘くなったわけでもない。


ただ、

割り切れなくなった。


端末に目を落とす。

次の任務通知は、まだ来ていない。


それが、

妙に怖かった。


次が来たら、

今度は迷えない。


そういう段階に、

もう入っている。


リーダーは、深く息を吐いた。


「転職……するには、遅いか」


笑おうとして、やめた。


冗談にするには、

現実味がありすぎた。


ライトを引き出しにしまい、

静かに閉める。


まだ辞めない。

でも——


このままではいられない。


それだけは、

はっきりしていた。


________



___翌日。

対黒局・上層会議室


会議室は、いつもより人が多かった。


役員席の一つが、

いつの間にか埋まっている。


鷹見朗は、

その男の顔を見て、ほんの一瞬だけ考えた。


——こんな人、いたか?


違和感は、

名前ではなく“存在感”だった。


背筋は伸びている。

表情は穏やか。

声を張ることもない。


それなのに、

視線が自然とそこに集まる。


「では、次の議題に移ります」


議長が言う。


「未所属能力者への対応基準について」


資料が表示される。

数値、確率、被害想定。


正しい資料だ。

鷹見も、そう思う。


「捕獲基準を、

 現行より一段階引き上げるべきです」


穏やかな声が、会議室に落ちた。


さっきまで空席だった男だ。


「現場の裁量に任せすぎています」


反論は出なかった。

内容が、あまりにも“筋が通っていた”からだ。


「対象は子供です」


鷹見が言う。


言ってから、

自分でも驚くほど強く聞こえた。


男は、首を傾げた。


「年齢の話ではありません」


否定でも、叱責でもない。


「役割の話です」


静かに続ける。


「世界を守るために必要なものと、

 不要なものを分ける」


「それが、我々の仕事でしょう」


“我々”。


その言葉が、

鷹見の胸に引っかかった。


「……君は?」


議長が尋ねる。


男は、少しだけ微笑んだ。


「統です」


名刺も、肩書きも出さない。


「統?」


「はい。

 秩序を保つ役目です」


会議室が、

奇妙な沈黙に包まれる。


誰も反論しない。

できない。


言っていることは、

すべて正しい。


「感情で判断する段階は、

 もう終わっています」


統は、淡々と告げる。


「能力者は資源です。

 管理されるべき存在です」


鷹見は、

無意識に拳を握っていた。


「……人だ」


低く言う。


統は、鷹見を見た。


初めて、

個人を見る目だった。


「今は、そうですね」


その一言で、

鷹見は理解してしまった。


——この男は、

最初から人を見ていない。


「次の現場判断は、

 より迅速に行います」


統が締める。


「迷いは、被害を拡大させる」


会議は、

何事もなく終わった。


誰も傷ついていない。

誰も否定されていない。


それなのに。


鷹見は、席を立つことができなかった。


背後で、

統の声が、静かに追いかけてくる。


「鷹見さん」


振り返る。


「あなたは、

 良い現場指揮官です」


褒め言葉だった。


「だからこそ、

 判断を委ねてはいけない」


統は、微笑んでいた。


「人は、

 正しさに耐えられませんから」


その瞬間、

鷹見ははっきりと感じた。


——これは、黒だ。


だが、

誰にも証明できない。


統は、

もう役員席に戻っていた。


最初から、

そこにいたかのように。


書いてて思ったんですよね、そう言えばリーダー名前ないやって。

なので急にリーダーから鷹見に変わってますすみません。

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