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パレット  作者: 青原朔
104/105

ep73.契約者

咲は笑っている。


無邪気に。


壊れた楽しさの中で。


「取り込まない?」


「ほんとに?」


指を軽く鳴らす。


鏡の空間が震える。


「契約、覚えてるよね?」


ハルの背中に、冷たい感覚が走る。


十年前。


助けられた。


救われた。


同意した。


あの瞬間。


成立している。


咲が静かに言う。


「共犯者は、能力を共有する」


「助けた側も」


「助けられた側も」


「逃げられない」


空間が歪む。


黒が滲む。


「春」


咲がハルを見る。


「君の黒パレット」


影が広がる。


それは、ハルの力。


でも、


今、咲の手にもある。


「零も」


「魅魅も」


「夢魔も」


黒が三つの影に触れる。


零の瞳が鋭くなる。


魅魅が舌打ちする。


夢魔が面倒そうに息を吐く。


「理論上は、今ここで」


「取り込めるよ?」


咲の声は穏やか。


「君が拒否しても」


「僕は使える」


空気が張り詰める。


それは事実。


咲は全員の能力を扱える。


十年前の契約のせいで。


「だから」


咲は首を傾ける。


「止める?」


優しい声。


でも選択肢は残酷。


ハルは一歩踏み出す。


「やってみろ」


低い声。


「やれるならな」


咲の指が止まる。


「……へえ」


ハルは続ける。


「共犯は契約だ」


「でもな」


「使うかどうかは、お前の意思だろ」


咲の瞳が、わずかに揺れる。


「力があるから使う」


「それが神だって言うなら」


ハルは零と魅魅の前に立つ。


「俺はそんな神いらねぇ」


零が小さく笑う。


魅魅が囁く。


「ふふ、守るんだ?」


夢魔は欠伸をする。


「面倒くさ」


咲は黙る。


本気でやれば、出来る。


今この瞬間、


黒パレットを経由して


三王を吸収できる。


世界は一歩完成に近づく。


でも。


ハルの目が揺れない。


「止めるよ」


ハルが言う。


「お前がやるなら」


「俺はお前を止める」


敵じゃない。


でも。


超えなきゃいけない壁。


咲の笑みが、ゆっくり消える。


そして。


ふ、と息を吐く。


「……やらないよ」


黒が霧散する。


空間が静まる。


「出来るって見せたかっただけ」


悪戯みたいに言う。


でも、


ほんの少しだけ、


その目は寂しい。


「君が神にならないって言うなら」


「僕も今は使わない」


「でも忘れないで」


「君らは共犯だ」


裏世界の空が揺れる。


「止めなきゃいけないのは、僕?」


「それとも、君の可能性?」


静寂。


今、咲は止まった。

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