ep71.合理的
鏡の裏世界。
灰色の空の下。
佐久間咲は、笑っている。
「あぁ、やっと揃った」
ハルを見つめる目は、優しい。
でもその奥は、壊れている。
「探してたんでしょ、僕を」
ハルは睨む。
「アマネを消したのはお前か」
間。
咲は、あっさり頷いた。
「うん」
空気が凍る。
「ここまで春を連れてくるために」
さらりと言う。
「世界から天音ちゃんには消えてもらった」
天音の指が震える。
「……消えてもらった?」
咲は続ける。
「でもさ、全員の記憶から完全に消えちゃったら」
「何を探してるのかすら分からなくなる」
「だから」
ハルを見る。
「君の記憶には残した」
静かに。
残酷に。
「導線だよ」
葵の方をちらりと見る。
「たまたま副産物も残っちゃったけどね」
零の影が揺れる。
怒りとも、別の何かともつかない感情。
咲は両手を広げる。
「本来なら、簡単だった」
「ここにいる全員で対黒局へ乗り込む」
「壊滅させる」
「そこに居座る強欲の黒を春が取り込む」
「零、魅魅、夢魔を吸収」
「憤怒を止め、吸収」
「最後に暴食と向き合う」
「世界は丸く収まる」
本気で言っている。
「簡単な話だろ?」
ハルの拳が震える。
「ならなんでそうしない」
咲は顔を歪めた。
「あぁ、そこ」
一瞬だけ苛立ちが滲む。
「異物が紛れ込んだ」
名前を吐き出す。
「片桐りり」
空気が重くなる。
「今頃、暴食、憤怒、パンドラを引き連れて対黒局と手を組みに行ったかな」
ため息。
「あーあ!!めんどくさい!!」
感情が爆発する。
「憤怒やパンドラはまだ分かるよ?」
「でも暴食をどうやって引き連れる?」
笑う。
「マイトマイン」
視線が夢魔へ向く。
「怠惰の君の真似事をしてる」
夢魔は気だるそうに目を細める。
「やり方さえ変えれば」
咲は続ける。
「意思を持ったまま仲間に引き入れることだって出来る」
「怠惰ちゃんにも出来たのに、めんどくさがったでしょ?」
くす、と笑う。
「流石、怠惰」
夢魔が顔を逸らす。
「……関係ない。面倒なだけ」
図星だった。
咲は満足そうに頷く。
「暴れてる朔も好きなら自由にさせればよかったのに?」
「止めててくれてありがとう」
それは本音だった。
暴食が完全に自由なら、日本は終わっている。
そして。
咲は、ゆっくりハルを見る。
「さて」
灰色の空が揺れる。
「我々は、この後どうしたい?」
一歩近づく。
「春」
名前を呼ぶ。
「零と魅魅を取り込む気はないんだね?」
核心を突く。
「王を吸収すれば、完成する」
「神に近づける」
「君はそれをしない」
「なぜ?」
咲の目が光る。
興味。
観察。
期待。
「取り込まない神なんて」
「欠陥品だよ?」
風が止む。
裏世界が、静まり返る。
今、選ばされている。
神になるか。
人でいるか。




