ep70.今はただ
鏡の奥。
灰色の街。
音のない世界。
そこに立つ佐久間咲は――笑っていた。
目を細め、
両手を広げ、
まるで舞台の幕が上がった瞬間みたいに。
「……あぁ」
吐息が震える。
「成功してる」
視線の先には、ハルたち。
十年前、選んだ子どもたち。
白パレット。
黒パレット。
時間を弄る者。
魔法を使う者。
王に触れる者。
全部、揃っている。
「ねえ」
くすくすと笑う。
「やっぱり間違ってなかった」
表の世界は崩壊寸前。
王は暴れ、
塔は立ち、
死者が蘇り、
封印が壊れ、
能力が解放されている。
地獄絵図。
でも。
咲の目には、それが祝祭に見えている。
「ハッピーエンドだよ」
「これ」
笑いが止まらない。
「あの事件はハッピーエンドだった」
「ちゃんと芽が出てる」
「ちゃんと育ってる」
「ちゃんと世界を動かしてる!」
一歩、前へ出る。
不気味なほど静かな足取り。
「僕の能力は知ってるよね」
共犯者。
「君らは被害者」
「うん、そうだよ」
「でもね」
指を立てる。
「当時、もう契約は済ませてる」
空気が冷える。
「助けた」
「救った」
「未来へ送った」
その瞬間。
成立してるんだよ。
「僕らは共犯者だ」
ハルの影が揺れる。
天音の視線が鋭くなる。
咲は笑う。
底なしの笑み。
「さぁ」
両手を広げる。
「どうする?」
「この壊れた世界」
「立て直す?」
「壊しきる?」
「僕と君らなら、今はもう簡単だよ」
それは本気だ。
今の咲にとって、
この状況は最高潮。
駒が揃った。
舞台が整った。
神に近づいた。
「でも」
少しだけ、顔が曇る。
「あーあ」
小さく舌打ち。
「邪魔が入ったな」
目が細くなる。
「片桐」
名前を吐き捨てる。
「ほんと、あいつは言うこと聞かない」
声色が変わる。
冷たい。
「どう始末するかな」
一瞬だけ、
優しさが完全に消えた。
鏡の街に、
不穏な静寂が落ちる。
咲はもう、
救済者じゃない。
設計者でもない。
これは――
完成した実験を楽しんでいる観測者。
「ねえ」
また笑う。
「楽しいよね?」
「最高じゃない?」
表が地獄であるほど、
裏は祝福になる。
それが、
共犯者の世界。




