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パレット  作者: 青原朔
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ep69.共犯者

鏡面が、波打った。


割れていない。


砕けてもいない。


ただ、液体みたいに揺れる。


その向こうに、人影が立っていた。


制服姿の少年。


どこか眠そうで、どこか醒めている。


「やあ」


声は軽い。


「入ってくると思ってたよ」


ハルは一歩前に出る。


「……佐久間咲」


少年は小さく笑った。


「覚えててくれたんだ」


「忘れるかよ」


咲は肩をすくめる。


「嬉しいな」


裏世界は静かだった。


建物はある。


道路もある。


でも、人はいない。


空は灰色。


影だけが濃い。


「ここが……」


天音が呟く。


「裏世界」


「うん」


咲が頷く。


「表の空想。現実の抜け殻」


「人だけを抜いた世界」


零が低く言う。


「黒はいる」


「いるよ」


咲は肯定する。


「でも今は大丈夫」


ハルが睨む。


「大丈夫?」


咲は、まっすぐハルを見る。


「助けたいから呼んだ」


その言葉は、軽い。


でも、嘘じゃない。


「能力名、知ってるよね」


ハルは黙る。


咲が続ける。


「共犯者」


静かに。


「助けるか、同意を得るか」


「どっちかが成立した瞬間、力は共有される」


「奪わない」


「借りない」


「背負う」


咲は一歩近づく。


「僕は選ばせる」


天音の視線が鋭くなる。


「選ばせる?」


「うん」


咲は微笑む。


「選んだ時点で、逃げられない」


少し間。


そして。


「ねえ」


ハルを見る。


「助けたい?」


「世界を」


「王を」


「彼女たちを」


ハルは即答しない。


咲は続ける。


「なら」


少しだけ、真面目な顔になる。


「同意して」


「僕と」


「共犯になろう」


その瞬間、空気が変わる。


これは契約だ。


一方的じゃない。


選択。


零が囁く。


「ハル」


魅魅が低く笑う。


「面白いじゃん」


天音はハルを見る。


咲は最後に言う。


「悲しい終わりなんて、今はいらない」


「いまはハッピーエンドの物語だ」


その言葉は、


予言みたいだった。


でも。


どこか、遠い目をしている。


まるで——


10年前を見ているみたいに。


――十年前


それは、ニュースにもならなかった事件。


男女問わず、年齢も問わず。


数名の子どもが、忽然と姿を消した。


捜索は行われた。


だが、見つからなかった。


証拠も、痕跡も、血痕すら残らなかった。


まるで最初から“いなかった”かのように。


主犯は――


佐久間咲。


当時、十四歳。


同人誌を描いて、少し笑って、少し浮いていた普通の少女。


ただ一つ違ったのは、


彼女が“能力”を持っていたこと。


能力名――《共犯者》。


助ける意思。


あるいは、同意。


そのどちらかが成立した瞬間、


能力は共有される。


奪わない。


支配しない。


だが、逃げられない。


それは契約。


それは、共犯。


だが。


本来その能力を持つべきだったのは、咲ではない。


母だった。


この世界が歪み始めた、その直前。


対黒局の内部粛清。


「協力的すぎる能力者は危険だ」


その理由で、咲の母は殺された。


救う力を持つ者は、


秩序にとって邪魔だった。


死亡した能力者は、結晶化する。


心臓が止まり、脳が静まり、


魂が抜けた瞬間、


能力は物質として残る。


透明で、


硬質で、


光を帯びた“核”。


それを咲は、拾った。


母の能力。


まだ温もりが残る、結晶。


泣かなかった。


十四歳の少女は、泣かなかった。


ただ、


理解した。


「私がやるんだ」


それが使命だと。


失われた世界を救う希望。


必要な能力は決まっていた。


白パレット。


黒パレット。


タイムゲイザー。


ガンマイスター。


火、水、土、風。


未来を変える力。


世界を塗り替える力。


それらを集め、


適切な器へ与え、


来るべき時代へ送り出す。


それが計画。


能力の譲渡は可能か。


可能だ。


死を経由すれば。


能力は結晶化し、


触れ、


同意を得れば、


共犯者の能力で“再接続”できる。


それは盗みではない。


受け継ぎ。


だが、世間はそうは見ない。


子どもが消えた。


能力者が消えた。


だから咲は、隠した。


証拠を消し、


裏世界へ引き入れ、


存在を曖昧にした。


救うために。


救うために。


救うために。


その言葉だけを、


何度も繰り返しながら。


十四歳の少女は、


子どもたちを未来へ送った。


悲しい終わりは、


今はいらない。


ハッピーエンドの物語を作るために。


十年後。


その物語の中心に立つのが、


神木春であり、


星崎天音であり、


火野火憐であり、


水卜葵であることを。


咲は知っていた。


だから今。


鏡の向こうで、


彼女は問う。


「共犯になる?」


これは悪ではない。


だが、正義でもない。


これは――


未来を選ぶ罪だ。


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