ドM魔王
異世界召喚された私、目の前に魔王がいました、魔王を討伐するために召喚された模様
そこを魔王と相談
「……わ、わかった」
魔王はしぶしぶと頷く。その姿はまるで親に叱られた子供のようで、正直滑稽だった。
「お主の望み通り、人間の術者を捕らえよう」
魔王が顔を上げ、真剣な表情になる。しかし、その目は微妙に泳いでいる。
「ただし、条件がある」
「はぁ? 条件ぉ?」
私は思わず眉間にしわを寄せた。
「そう、条件だ。我と契約を結んでもらいたい」
魔王が突然、偉そうに胸を張る。いや、正確には胸を反らす。なぜかマントがまたバサバサと風を切る。
「契約? 私が貴方と?」
思わず身を引いてしまう。契約という単語が、何か恐ろしい響きを持って聞こえた。
「そうだ。互いに利点のある取引だ」
魔王の顔が得意げに輝く。こいつ、こういう計算高い部分もあるのね。
「どんな内容よ」
半信半疑で尋ねると、魔王は咳払いをして姿勢を正した。
「人間の術者を見つけ、お主を元の世界へ送り返すまで、我が庇護下に入れ。代わりに、我が魔術の研究助手となるのだ」
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。魔王の魔術研究の助手? 私が?
「お主のような異世界の知識を持つ者がいると、我が魔術研究も飛躍的に進むであろう」
魔王は鼻高々に語るが、その内容は完全に自分本位だ。
「なんで私が? 魔族の魔術なんか興味ないし」
拒否しようとした私の言葉を遮るように、魔王が声を上げる。
「それと……もう一つ重要なことがある」
「何よ?」
警戒心を隠さずに尋ねると、魔王は急に声を潜め、周りを見回した。まるで誰かに聞かれたくない秘密でも打ち明けるような様子だ。
「実は……勇者召喚の儀式を行っていた人間たちの居場所が掴めておらんのだ」
「なんですって?」
予想外の発言に、私は驚いて魔王の顔を見つめた。
「召喚術を使った人間どもを探し出すためにも、お主の協力が必要なのだ」
「え……ちょっと待ってよ」
私の頭の中で急速に状況が整理されていく。
「じゃあ、結局私が自分の足で探さなきゃならないの?」
「それは……そうだな」
魔王は突然歯切れが悪くなる。
「あなたが探すんじゃなくて、私が探すのね?」
確認すると、魔王は視線を逸らし、明らかに気まずそうな表情を見せた。
「いや、その……お主の力があれば……」
「ないわよ」
「な、なに?」
「力なんてないって言ったでしょ!」
私は苛立ちを抑えきれずに叫んだ。「最初から期待しないでよ。ただの一般人をこんなところに呼んでおいて、勝手なことばかり言って」
「うぅ……」
魔王が後ずさる。その姿はまるで子犬のようだ。
「とにかく!」
私は腰に手を当てて魔王を見下ろす(といっても身長差がありすぎて全然見下ろせないが)。「契約はなしよ。自分で人間探しに行くから」
「待て、待ってくれ!」
突然、魔王が必死の形相になる。
「我に任せておけば必ずや……その、優雅に探してみせよう。お主はただここで快適に暮らしていればよい」
「快適? この灰色の牢獄みたいなところで?」
「いや、違う! 決して牢獄ではないぞ! 我が宮殿では最上級の客室を用意させる! 美しい衣装も、豊かな食事も、贅沢三昧だ!」
魔王の言葉に、一瞬心が揺れ動いた。正直、この不気味な城から出られるなら、その方がいいかもしれない。
「でも、結局私は助手になるんでしょ?」
念を押すと、魔王は急に顔を赤らめた。
「いや……その……少しぐらいは手伝ってくれても……」
「えぇ? 何それ? ハッキリしないわねぇ」
苛立ちが募る私に、魔王はさらに縮こまる。
「あ……あの、我がお主を元の世界に戻す方法を見つけるまでの間だけ! 協力してもらいたいのだ! な?」
魔王の懇願するような表情に、私は大きくため息をついた。
「……わかったわ」
ついに折れた。「ただし、条件があるわ」
「な、何でも聞くぞ!」
魔王が希望に満ちた表情で身を乗り出す。
「第一に、ちゃんとした衣類と寝具を提供すること。第二に、美味しい食事を毎日3食出すこと。第三に……」
私は人差し指を魔王の顔の前に突き出した。
「この城で自由に動き回れる権限をちょうだい。人間を探すためにも必要なことよ」
「それは……」
魔王が少し躊躇うが、
「わ、わかった! 全て了承する!」
慌てて頷く魔王の様子に、私はニヤリと笑った。完璧な契約条件を引き出したことに、内心満足している。
「じゃあ、早速案内してもらうわよ」
私は振り向き、出口に向かって歩き出した。
「どこへ行くのだ?」
魔王が慌てて後を追ってくる。
「まずはシャワー。そして着替え。その後はこの城を探索させてもらうわ」
「しゃ、シャワー……?」
魔王が首を傾げる。この世界にはシャワーがないのかもしれない。
「体を洗いたいのよ。この臭い鎧から解放されたいわ」
私は自分の着ている革鎧を指さした。
「ああ、湯浴みのことか!」
魔王が理解したように頷く。「すぐに準備させよう!」
こうして、異世界に召喚された私の新たな生活が始まることとなった。魔王を従えて、自分が元の世界に戻る方法を探す冒険。しかもこの世界の常識もない状態で。
「魔王様」
廊下を歩きながら、私はふと思い出して問いかけた。
「なんだ?」
「そもそも、この世界って何なの? 魔族と人間が争ってるの?」
魔王は驚いたような顔で私を見た。
「そんなことも知らぬのか?」
「異世界人ですから」
私は肩をすくめる。
「まぁ、いいだろう。我が世界について教えてやろう」
魔王は得意げに話し始めた。「この世界はエルデアールと呼ばれる魔法の大地。かつては魔族と人間が共存していたが、千年前の大戦争で分裂したのだ」
「ふーん」
「我ら魔族は西の大陸、ガルヴァンドールを治めており、人間は東の大陸、フィアナスを支配している」
「へぇ、まるでゲームみたいね」
「な、何を言うか! これは現実だぞ!」
「はいはい、わかってるわよ」
私は適当に受け流す。「それで、あなたが魔王なのね?」
「そうだ。我こそは暗黒の支配者、魔王ザグラム・ヴォルトス」
魔王は誇らしげに名乗った。
「長いわね、名前」
「何だと!?」
「ザックって呼んでいい?」
「ザック!? 我のことを、そのような……」
魔王は絶句した。
「いいじゃない。私だけの愛称よ」
私はにっこりと微笑んだ。
「愛称……?」
魔王の顔が急に赤くなる。その反応を見て、私は確信した。この魔王、ドM確定だわ。
「はい、ザック。これからよろしくね」
私は軽く頭を下げた。
「う……うむ……よろしく頼む……」
魔王—いや、ザックは照れくさそうに頷いた。
こうして、私とドM魔王ザックの奇妙な共同生活が始まったのだった。元の世界に戻れるかどうかは、もう少し時間がかかりそうだけど……今はこの状況を楽しんでみよう。少なくとも、この不愛想な顔をした魔王は、思ったより面白い相手になりそうだ。
ちょっと短めですがMっけの魔王を書いてみました




