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命題、夢の消費期限は?  作者: 千秋 颯@3/6「選ばれなかった令嬢~」アンソロ発売!


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9/10

3 shot.踏み出した先③

 私は苦く笑う。

 『Halu』さんが私のことを聖人のように見ているのではと思ったのだ。


「初めて会った時は年齢を知らなかったからね」

「でも、知ってからも変わらず接した」

「けどそれはウメコちゃんを気遣ったとかじゃなくて……」

「――ただ、コスプレをするのが楽しかったから」


 『Halu』さんの声に私は目を見開く。

 まさに私が言わんとしていた言葉。

 それに驚く私の隣で、図星だろうと彼は得意げに笑う。


「同じジャンルを好きな友人と、話したり遊んだり、コスプレという手間も時間もかかるような大変な趣味を共有したり……そういうのを、心から楽しんでいただけ。そうですよね」

「そ、うだけど……」

「傍から見てるだけでもわかりますよ。誰よりも無邪気な顔をしていたから。そういう、本当に何も気に留めていない、ただただ友人と趣味を楽しむ『ユッカ』さんだから、あいつは救われたと言っていました」

「えぇ~……恥ずかしいんだけど」


 顔が赤くなるのを感じて、私は慌てて手で顔を覆った。

 暗くなった視界の先で少し真面目なトーンの声が聞こえる。


「だからこそ、『ユッカ』さんがコスプレをやめるって聞いた時は本当に勿体ないと思った。……何より俺が、『ユッカ』さんにコスプレ界隈を去って欲しくなかったんです」


 手をどかす。

 指の隙間から、青空を眩しそうに見あげる『Halu』さんの姿が見えた。


「俺が一生懸命になっている趣味は、こんなにも人の心を擽らせるんだってわかって、間違ってないって自信が持てたから」


 私な何もしていない。けど、ただ全力で趣味を楽しむだけで気付かない内に誰かの心を動かしていたというのなら、こんなに素晴らしい事もそうないだろうと思った。


「やめなくてよかったぁ」

「でしょ?」

「ありがとね、『Halu』さん」

「こちらこそですよ」


 私がいちご飴を食べ終わり、『Halu』さんもタピオカを飲み終えた。

 ゴミ箱まで向かおうと立ち上がると、ひっそり待っていたらしい一般参加の人から写真を求められる。


 私達は顔を見合わせて笑い合うと、荷物を下ろして肩を並べる。

 パシャリ、とシャッター音が鳴り響いた。



***



 あれから数年が経過した。

 私は日々の仕事を熟しながらも趣味で充実した日々を送っている。

 転職した事で時間や体力、そして何より精神的に楽になったし、そのお陰で趣味を楽しみまくるだけの余力がある。


 元々出掛けるのが好きだった私は恭子や他のレイヤー友達を連れてイベントやロケ撮など、スケジュールを詰められるだけ詰め込んでいた。


 お陰でフォロワーも大幅に増え、新たなオタク友達も増え、推しジャンルの知名度は上がるという何から何まで良い事尽くしの連鎖を味わっていた。


 そんなある日、撮影の当日。

 もう数えきれない程撮影をしているというのに変に緊張してしまっていたこの日、私は恭子の車の中でそわそわとしていた。


「落ち着きないねぇ」

「や、だってさぁ……」

「わかる、わかるよ。正直私も楽しみだもん」


 皆まで言わずとも悟った恭子が同意を示す。

 今日の予定は私達を含めて三人、つまりあと一人を集合場所の駐車場で待っている状況だ。


「それにしても遅いねぇ、『Halu』さん」

「ね~、珍しい。電話してみるね」


 私はスマホで『Halu』さんへ電話を掛ける。

 しかし繰り返されるコール音の後、不在という表示が画面には表示される。


「あー」

「ん?」


 その時だ。

 全てを悟ったような声を恭子が漏らす。


「三時間前に仮眠取るって呟いてる」

「……あー」


 恭子が見せたのは『Halu』さんのSNSアカウント。

 今回の撮影の予定とは別に衣装の制作という使命を抱えていた『Halu』さんはどうやら志半ばで力尽きてしまった様だ。

 それがありありとわかるような呟きの工程に私は苦笑した。


「わざわざ来させるのも可哀想だし、迎えに行ってあげようか。前送ってあげたから場所覚えてるよ」

「そうだねぇ」


 『Halu』さんは一人暮らしな事もあって、突然訪れてもご家族の迷惑にはならない。

 今日の撮影はレンタルスタジオで行うこともあり、撮影ができる時間も定められている。

 故に私達は自宅まで彼を迎えに行くことにしたのだ。


 チャイムを鳴らして十秒後。

 何かがなだれ込むような、倒れるような、凄まじい音の連鎖を響かせた後に玄関扉が開け放たれる。

 『Halu』さんは顔を青ざめながら私達を見つめていた。


「やほー」

「迎えに来たよ~」

「す……っ、すみません…………っ!」


 『Halu』さんは顔を硬直させたまま深く頭を下げる。

 そんな彼の髪には絶賛寝起きであると主張するような寝癖がついていた。




 慌てて荷物を纏めた『Halu』さんを車に乗せ、私たちは今度こそスタジオへ向かう。

 更衣室で着替えをして恭子のいる場所へ向かうと、恭子と『Halu』さんの声が聞こえた。


「専門学校の制作課題ってやっぱ大変?」

「じゃなきゃ遅刻なんて絶対してませんよ……ほんとすみませんでした」


 珍しいな、と思う。

 普段ならば私の方が先に着替えを終わらせるのだ。

 だが『Halu』さんに先回りされた理由はなんとなく察している。

 恐らくはコスプレをするキャラクターが普段の系統と異なるからだ。


 私は曲がり角を曲がり、二人の前へ姿を見せる。

 すると軍服に身を包んだ長身の青年がすぐ近くに立っていた。



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