3 shot.踏み出した先①
ロケ撮から数週間が経った頃。
お風呂から上がった私はスマホが鳴っていることに気が付く。
「お」
通知を確認するとコスプレ友達からのリプライを知らせるものだとわかる。
そしてリプライが繋げられた大元の投稿は、ロケ撮の写真。
恭子のカメラ技術や『Halu』さんの高いコスプレ技術などもあってロケ撮関係の写真は私のアカウントの中でもピカイチの伸びを見せていた。
「ジャンル自体の人気もあるだろうけど……いやぁ、すごいなぁ」
自分の投稿を遡っていると中でも反響の大きいものを見つける。
ロケ撮で恭子が撮った、私の転びそうな写真だ。
他のオフショや感想を纏めて投稿したところ意外にも需要があった。
公式に沿った写真とのギャップや実際の身長差などに面白さを覚える人が多いようだ。
「あ。『Halu』さん」
自分の投稿を眺めていると、再び通知が届く。
『Halu』さんからのDMだった。
『こんばんは。改めて撮影データ見ていたんですけど、やっぱ023のデータとかめちゃくちゃ好きだなって思いました』
『Haluさんあのシーン好きって言ってたもんね笑』
『本当に楽しかったので、感想と、改めてお礼をと思って。失礼しました』
『いえいえ。いつでも連絡して来て!』
『Halu』さんは長くメッセージを交わすようなタイプじゃない。
今回も私の返信を最後に『Halu』さんのメッセージは止まる。
私は数分間スマホ画面を眺めて思案する。
そして思い立ったようにメッセージを送った。
『私、やっぱコスプレ続けようかなって』
直後、着信音が鳴り響く。
「どわぁっ!!」
取り落としそうになったスマホを受け止め、私は深く息を吐く。
『Halu』さんとは撮影関係の相談の為などに投稿型ではなくメッセージメインのSNSも交換していた。
そのアプリを経由しての電話が彼からかかって来たのだ。
「はい」
『ほんとですか、『ユッカ』さん』
「いや食い気味」
落ち着いたトーンではあるがやや早口気味な『Halu』さんの声に私は笑う。
「ほんとほんと。ロケ撮のあとのアフターでさ、『Halu』さん今楽しくなくちゃ、みたいな話してくれたじゃん」
『あー……自分語りですみませんでした』
「いやいやそうじゃなくて!」
私はクローゼットに入ったスーツを遠目に見つめながら笑う。
「なんか、馬鹿馬鹿しくなっちゃって。好きな事を潰してクソみたいな職場で働き続けるの」
『『ユッカ』さん……』
「だから、辞めてきたの。仕事」
『え』
「今は有給消化しながら転職中〜。もー、すっごい気楽でやばい」
『Halu』さんの話を聞いた私はすぐに行動に移した。
躊躇いが生まれる前にと私は退職に踏み切った。
嫌味や皮肉は沢山言われたけど、あんまり響いてはこなかった。
多分、自分の考えや決断に自信があったからだろう。
『……そうですか』
くすりと小さく笑う気配があった。
『でも転職中って事は、暫くはお忙しいですかね』
「そうだねぇ。職場見つかっても新しい環境慣れるまでは〜とか、あるだろうし」
『落ち着いてきたらまたコスプレしましょう。イベント同行でも、併せでも、誘っていただければ合わせるんで』
「ありがと〜。その時は連絡するね」
それじゃ、と話を切り上げ、私は通話を切る。
大きく伸びをしながら部屋を見渡せば、以前より片付いた空間が広がっている。
「……溜めてたゲームでもするかなぁ」
仕事という拘束から解放された私はそう呟くとテレビの前へと向かう。
職場が決まるまで続く不安定な生活。そこに対する不安がないわけではない。
けれど心は以前よりずっと軽くて、まぁなんとかなるでしょという前向きな気持ちがあった。
そしてその数日後。
私は面接先から採用の通知をもらい、難なく転職先を見つけるのであった。
***
それから一ヶ月と数週間が経った頃。
都心の大通りが歩行者天国となるイベントで私はコスプレイヤーさんたちの間をすり抜けて進んでいた。
袖を通したのは思い入れの強いあの軍服。
自分自身もリアルを忘れた姿になって、私は辺りを見回す。
手にしたスマホにはSNSのタイムラインが表示されており、私は移動しながらそれを確認する。
「確かこの辺なんだけどなぁ……あ!」
人の海となった大通りの中。
その中でも目を引く姿があった。
一般客の撮影に付き合い、楽しげに談笑をしている180cmほどの美少女。
そんなレイヤーは中々いない。
私は息を潜め、彼の後ろに回り込む。
そしてその背中を優しく叩いた。
不思議そうな顔をしながら『Halu』さんが振り返る。
「やほ〜」
「……『ユッカ』さん!?」
「声でか」
少女から出るとは思えないいい声で叫ばれた私はそのギャップから吹き出す。
『Halu』さんは驚きながら私の姿を観察する。
「来てたんですね。という事は生活はある程度落ち着いたんですか?」
「うん。新しい職場で気楽にやらせてもらってる〜」
「よかったです」
彼は顔を綻ばせたがしかし、すぐにもの言いたげな目つきに変わる。
「……連絡してくれればよかったじゃないですか」
「いやぁ、ごめんごめん。驚かせたくて」
「そういう魂胆だろうなと思いましたけど」
拗ねるように視線を逸らした『Halu』さん。
けれどすぐに彼は笑みを戻すと私の顔を覗き込んだ。
「よければ一緒に回りませんか。イベント」
「いいねぇ。行こ行こ。向こうに屋台もあったよ」
「あ、気になってたんですよね」
行きましょうと眩い笑顔を向ける『Halu』さん。
前は背中を見つめることしかできなかったその隣に私は並ぶ。
私たちは肩を並べて歩きだしたのだった。




