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命題、夢の消費期限は?  作者: 千秋 颯@3/6「選ばれなかった令嬢~」アンソロ発売!


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2 shot.自分がどうしたいか④

 それから暫くは別の話題が続いた。

 そして普段の生活なんかの話になった時、きょうこがふとくちをひり京子がふと口を開く。


「『Halu』さんは大学二年生だっけ? だと来年くらいから就活始まって忙しくなりそうだね」

「あ、はい。そうですね」

「何系の大学なの? あ、言いたくなければいいからね」

「いえ。情報系ですね」

「IT系とか? いや全然詳しくないけど」

「そうですね。就職先はそっち系で在宅ワークできる企業を選びたいなと」

「在宅いいねぇ」


 恭子の声に『Halu』さんが頷く。


「勉強する時間が欲しいので、出勤退勤の移動時間とか、できるだけ削減したいんですよね」

「「勉強!?」」


 とんでもない発言に私と恭子が声を上げる。

 『Halu』さんは慌てて首を横に振った。


「いや、違います違います。意識高い感じじゃなくて、ただ、服飾も勉強したくて。専門に通いたいんですよね」

「服飾……ってことは、衣装作ったり?」

「そうですそうです。社会人でも通えるところとかもあるので」

「衣装かぁ。レイヤーさんは独学でやってる人が殆どだけど、確かにきちんとした知識あった方が作りやすそうだね。『Halu』さんの場合はキャラクターや想定されるお客さんの需要的にも既製品はサイズ合わないこと多そうだし、作れたら費用的にも楽かも」

「いや、勿論それもあるんですけど」

「けど?」


 なるほどと頷いていた私は、自分の想像が少しズレていたらしい事を察して『Halu』さんに聞き返す。

 彼は無邪気な笑みを少しだけ潜めて続けた。


「仕事にしたいんですよね。好きな事を」

「……えっ」

「衣装を作って売る、みたいな」


 『Halu』さんは真剣な表情をしていた。

 本気なのだろうとその顔が思わせる。

 けど、私は不思議だった。


「どうして?」

「うん?」

「IT系って仕事としては今後も安泰でしょ。わざわざ不安定で成功するかもわからないような仕事を目指さなくても」

「……そうですよね」


 ある程度想定していたのだろう。

 私の問いに『Halu』さんは苦い表情をした。


「俺の話を聞いた人は皆んな同じ事を言います。俺も、コスプレに出会うまではそうでした。安定した職でちょっとした贅沢ができるくらいのお金を稼ぐ。そんな生活がいいに決まってるって。けど、今は逆に思うんです」


 『Halu』さんの顔から笑みが消える。

 真剣そのもの。

 迷いなんてものは微塵も感じられなかった。


「なんでお金を稼ぐ必要があるんだろうって」


 グラスに入ったストローで中を混ぜながら『Halu』さんは言葉を紡ぐ。


「生きる為だけなら、別に大してお金なんて必要ないじゃないですか。けど、そうじゃない。俺たちは娯楽とか――自分が楽しめる事を求めてる」


 何故金を稼ぐのか。

 なぜ仕事をするのか。


 社会人であれば当然過ぎて考えもしない疑問。

 それに対する見解を述べる『Halu』さんの言葉は何故だか私の心を大きく揺らした。


「少しでも多く好きな事に触れたくて金を稼ぐのに、金を稼ぐ為に時間を浪費するのって勿体無いと思ってしまったんです。そのくらいなら、好きなことに携わるような仕事を選びたい」


 私は『Halu』さんから目を逸らす。

 何故か、彼の顔を見たくはないと思ってしまった。

 彼は自分の欲望に素直で、忠実だ。

 そしてそれは大人ぶって、物分かりのいいふりをしている私にはないものだった。


「老後の為とか万が一の為とか、そういう保険の為にお金を貯めることもあるけど、そうやって長く生きながらえようとするのだって、未来に何かしらの希望やメリットを感じていないとしないはずなんですよね。……けど、明日死んでしまったら元も子もない」


 視界の外で『Halu』さんが小さく笑う気配があった。


「期待していた未来なんてなくて、今この瞬間死んでしまうとして。そうした時、今したいことをしておけばよかったなんて後悔は絶対にしたくないと思っています」


 彼の話は些か極端だ。

 だがわかりやすいし、私には何か過るものがあったら。


「いつだって『今』の自分に自信を持っていたい。いつだって、今自分がどうしたいのかを見落とさずにいたいなって思います」


 何故こんなにも後ろめたさを覚えてしまうのか。

 『Halu』さんの言葉を聞けば聞く程、それは明確になっていく。


「あるかもわからない未来を期待するより、今を楽しくする方が確実だと思いませんか?」


(ああ、きっとそうだ)


 ――『Halu』さんは、私が本当に望んでいたものを体現している人だ。

 そう思った。


「だから俺はコスプレをするし、好きな事のためなら安定を捨てます。……『ユッカ』さんはどうですか?」


 顔を上げる。

 これから同年代の子達よりも困難な綱渡りへ踏み出そうとしている彼の瞳は相変わらず無邪気に輝いていた。


 漸くわかった。

 今の私がすべき事。考えるべき事。

 自分が、どうありたかったのか。


 ずっとモヤモヤとしていた頭の中が急にすっきりとした。

 気楽さを覚えた私は長い溜息を一つ吐く。


 私は緩やかに笑みを浮かべ、『Halu』さんの問いに答えるのであった。

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