2 shot.自分がどうしたいか③
『Halu』さんの問いに私は言葉を詰まらせる。
「あー……」
今日の出来事を振り返る。
確かにコスプレは楽しい。何も考えず趣味にだけ没頭できる立場にあるなら決してやめようなどという判断はしないだろう。
「うん、そうだね」
「……そうですか」
『Halu』さんは残念そうに顔を曇らせた。
折角の打ち上げで空気が重くなってしまうのは本意ではない。
私は話題を逸らす意図もあって『Halu』さんへ問いかけた。
「『Halu』さんはどうしてコスプレをするようになったんですか?」
「俺ですか?」
「あ、確かに気になるかも」
恭子も身を乗り出して『Halu』さんの返答を待つ。
『Halu』さんは苦く笑いながら首を横に振った。
「そんな大層な理由はないですよ。多分皆さんと似たような、ありきたりな理由です」
「いやいや、別に話自体に面白さは求めてないって」
さあさあと続きを急かせば、『Halu』さんは苦く笑いながら口を開いた。
「アニメや漫画、ゲームなんかが好きだったのはやっぱりありますね。好きが高じて、好きなキャラクターのようになれればいいなと興味本位で始めました。ただ」
『Halu』さんは照れくさそうに頬を掻く。
「初めはやっぱり、ウィッグを被っただけ、衣装を着ただけみたいな感じで……正直見るに耐えない姿だったというか」
「わかるなぁ。活動初期の写真とか直視できないもんね」
「あと、俺の場合理想のキャラクターと俺の体格がだいぶ違うので、余計に」
「あー」
『Halu』さんの話の最中、頼んでいた料理が運ばれる。
料理に手をつけながら『Halu』さんは話を続ける。
「解釈違いで結構苦しんだんですけど、拙い技術を駆使してコスプレして、初めて参加したイベントで、同じジャンルが好きな方に声を掛けてもらえたんですよね。好きな事を共有できるのも、自分の好きな事を受け入れてくれるのも、すごく嬉しくて」
コスプレの魅力的なところ。
それは勿論架空の人物のようになれる事、その世界観を疑似体験できることなどが主だ。
けど、それだけじゃない。
イベントに参加する人の中にはコスプレ仲間と和気藹々としたり、新たな同士を求めたりといった目的を伴った人達も多くいる。
私も恭子も、イベント参加の時は撮影目的より交友目的の事の方が多い。
「男性レイヤーって、女性のレイヤーさん視点、正直苦手な人は苦手じゃないですか。特に女装レイヤーは。SNS上で募集される大型併せなんかも、初対面はOKでも男はお断りとか。勿論、万が一の時のトラブル回避の観点からそういう制限を掛けていることも多いのでしょうが」
「あー、まあね……。これは女性の男装にも言えることだけど、異なる性別に成り切るのって凄く難しいから。クオリティ重視のレイヤーさんからすると愛が足りない! って苦手意識を持ってしまうみたいな話も聞いたことはあるねぇ」
「今はSNSでもそれなりに認めてもらえるようになったし、あまり気にはしてないんですけど、初めてすぐの頃はやっぱり肩身が狭いなって思ったりしました」
パスタをフォークに巻き付けながら『Halu』さんは目を細める。
それを一口食べてから彼は続けた。
「だから余計に、受け入れてくれる人の存在って大きくて。俺がコスプレを続けたのはそういう人達に出会えたのが大きいですね……と、だいぶ話が逸れてしまいましたね」
「いーよいーよ。オタクのそういう話が面白いんだから」
『Halu』さんのコスプレへの熱意は相当なものらしい。
あまり口数が多くないイメージがあったが、話が振られた途端彼が饒舌になったのは明らかだった。
「コスプレをするようになったのはやっぱり憧れのキャラクターに近づきたかったからですね。続けているのは、腕を磨けば磨くほどそのキャラクターに近づける実感が湧いてきたのと、先程のように好きな事をしている自分を理解してくれる人達に出会えたおかげで自信を持てるようになったからです」
「憧れのキャラクターといえば、『Halu』さんは女性キャラをやることが多いの?」
「そうですね。八割くらいは女性だと思います。あ、性自認は男ですよ。ただ、精神的に強い人に惹かれる傾向があって」
私は『Halu』さんがコスプレをしていた二人のキャラクターを思い浮かべる。
確かに、彼の好みの傾向に当てはまるようなキャラクターだと思った。
「勿論男性キャラクターにもそういう人は多いんですけど、バトル系の作品で戦うキャラクターの中でも、身体的な能力など何かしらの観点においてハンデを負いながらもそれを乗り越えたり、立ち向かっていく人達が好きで。女性のメインキャラクターは特に情緒を大切に描写されていたり、弱点がありつつをそれを克服するだけのタフなメンタルを持っている人達が多かったりしますから」
「まあ純粋な腕力で異性を圧倒する女性キャラクターは確かにあんまりいないかも」
「そうなんですよね。俺の好みの傾向にわかりやすく当てはまるのが女性キャラクターに多いだけで、男性キャラクターの中にも推しはいますよ、全然」
『Halu』さんは楽しそうに笑みを溢しながら自分について沢山話してくれたのだった。




