2 shot.自分がどうしたいか②
荷物を車へ置いた私たちは事前に決めていた目的地へ向かう。
野外博物館の中には主に明治時代の建造物が並び、食べ歩きができる店やレストランなども散見される。
一般客の迷惑にならないよう道の端を歩いているものの、やはりコスプレは目立つ。
しかしあまり嫌な顔をされる事はない。
時折、私たちがコスプレをしているキャラクターを知っている方ともすれ違い、はしゃぐような囁きが聞こえた時は安堵と同時にちょっとした喜びも覚える。
「夏目漱石宅から行こうか。大通りより人も多くないし、日本家屋の方が世界観にも合うから時間取ろ」
「そうですね。大通りの方はもう少し人通り少なくなってからがいいかもしれません」
恭子の提案に『Halu』さんが同意する。
そして私たちが大通りを逸れて斜面になっている小道を進んだ時。
前方からやって来る女性二人とすれ違う。
「ねぇ、あれって」
「やっぱそうだよね〜! えー、可愛い〜!」
「でもさ、絶対逆じゃない?」
「それはそうかも。そっちの方が原作準拠なのに……勿体無いねぇ」
(やっぱり身長差的にそうだよね)
私が特別背が低い訳ではないが、『Halu』さんのスタイルが良いのだ。
本来は成人男性と十歳の女の子という年齢差のあるバディ。身長を利用するならばせめて逆にした方が良いという意見は尤もではあった。
けれど、先程よりも私が感じる違和感は少ない。
きっと『Halu』さんは今コスプレをしているキャラクターに強い思い入れがある。
そしてそれは私だって同じだ。
隣を歩く『Halu』さんを見上げれば穏やかな微笑みが返された。
(コスしてないと、全然笑わないのに)
よっぽどコスプレが好きなんだろう。
それが素直に伝わってきて私は小さく吹き出すのだった。
「いい! いいよ〜!! 最高ッ!!」
嬉々として声を上げる恭子。
彼女は膝をつき、床に頭がつくのではないかというほど体を傾けてカメラを覗き込んでいる。
縁側に『Halu』さんが座り、私が後方から『Halu』さんの方に背を置く。
『Halu』さんは正面を向いた状態からゆっくりと振り向く一連の動作を恭子の指示で行っていた。
共に並ぶとどうしても顕著に出てしまう身長差だがローアングルから煽りで撮影したり、立ち位置やポーズを工夫する事である程度誤魔化すことができる。
(いや、それにしても…………かっっっわいいな……っ)
相手は高身長男性。
頭ではわかっていても脳がバグる。
原作準拠の、キャラクターらしい微笑みを浮かべる『Halu』さんを見ていると身長や本来の性別のことなど頭から吹き飛んでしまいそうであった。
その後、日本家屋内や周辺で撮影する予定だったツーショット、ピンショットをそれぞれ撮り終えた私達は移動の支度を始める。
「次は教会?」
「そーそー」
器具を纏める恭子へ縁側から私が声を掛ける。
彼女へ注意が傾いていたせいだろう。
よそ見をしながら縁側を降りようとした私はうっかり足を踏み外した。
「ギャ……ッ」
「ッ『ユッカ』さん……!」
咄嗟に『Halu』さんが私を抱き止める。
『Halu』さんの腕力は相応らしく、彼は軽々と私を抱き上げたのだ。
「だ、大丈夫ですか……!?」
「あ! ご、ごめん……!」
一瞬頭が真っ白になるも、『Halu』さんの声で我に返る。
その時、死角からカメラのシャッター音が聞こえた。
「…………良」
「おい」
『Halu』さんに地面へ降ろされながら私はカメラを構えていた恭子を睨む。
「いーじゃん、オフショよ、オフショ。ちゃんとしたのはもう撮ってるんだし中身空けてるのあったって良い思い出になるでしょ」
「あ、俺も併せのNGとか、本人気付いてない時のオフショとか結構面白くて好きです」
「そーそー、そんな感じ!」
「……『Halu』さんが気にしないなら良いけどさ」
原作やキャラクターをリスペクトした撮影が勿論メインだが、それとは別に休憩中など被写体がキャラクターとして生きていない姿を収めた写真のことをオフショ(オフショットの略)と呼ぶ。
正直私もどっちも好きだが、年下の男の子に持ち上げられた恥ずかしさを私は引きずっていた。
(重くなかったかな)
「さぁさ、ちゃっちゃと移動しちゃおー!」
恭子が先導し、私達は新たな撮影場所へと向かう。
その後も教会や大通り、湖の前など様々な場所を回り、たくさんのシチュエーションを写真に収める。
『Halu』さんはコスプレのクオリティも高いし、ポーズ一つ一つからもこだわりを感じる。
それに移動中の原作に関するお喋りなんかもすごく弾んで、正直……今日はすごく楽しかった。
だからこそ同時に、コスプレをやめることを惜しいと思ってしまった。
そして日が暮れ始めた頃。
私達は着替えを終えて山を下り、最寄駅付近のファミレスに寄った。
「んじゃ、お疲れ様。乾杯〜!」
「乾杯!」
「乾杯」
ソフトドリンクの入ったグラスを私が持ち上げる。
それに恭子、『Halu』さんの順で続き、三つのグラスが音を立ててぶつかった。
「いやぁ、撮った撮った。あとでデータ渡すねぇ」
「ありがと〜」
「お願いします」
「いや、マジでいいよ。目の保養過ぎた」
「今日はありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ」
「あの……『ユッカ』さん
『Halu』さんカメラデータを見始める恭子の向かいで『Halu』さんが頭を下げる。
私がつられて頭を下げると、彼は少し躊躇うような顔をしたあと、話を切り出した。
「本当にやめるんですか? コスプレ」




