2 shot.自分がどうしたいか①
『Halu』さんから併せのお誘いを受けて数日が経った頃。
相変わらず過酷な職場環境に放り投げられていた私は終電ギリギリで帰宅する。
身に付けたスキル烏の行水で入浴を済ませた私はベッドに倒れ込みながらスマホを確認する。
すると『Halu』さんからのDMの通知が届いている。
あの後、結局私は『Halu』さんの勢いに押されるように頷いてしまい、コスプレをやめる為の最後の思い出として彼と撮影をする事になった。
併せ――同じ作品で関係のあるキャラクターに絞った複数人撮影の事だが、私がコスプレをするキャラクターは先日のイベントと同じ。
元々私がコスプレをしていたキャラクターは原作でW主人公と言われているうちの一人だ。
『Halu』さんが丁度もう一人の主人公の衣装を持っていた事から話はトントン拍子に進み、二週間後に撮影を行う事になった。
場所は地元から比較的近くにある大規模の野外博物館。カメラマンは恭子が引き受けてくれた。
ロケ撮と呼ばれる形式のこの撮影は土地の所有者や管理人さんに事前に許可を頂く必要があるが、そちらも既に恭子が連絡済み。
更衣室まで貸し出してくれるという親切な返答を頂けたらしい。
『構図と撮影場所の候補なんですけど』
『Halu』さんのDMを開くと、そんなメッセージと共に幾つかの箇所に赤い丸が付け足された博物館全域の地図、そしてアニメや漫画のワンシーンを写した写真が複数添付されているのが目に入る。
『どうですか?』
実はロケ撮でこの野外博物館のお世話になるのは初めてじゃない。
それなりに通っていた事もある私は地図を見ただけで彼が示した建物の外観や内装を連想できた。
そして『Halu』さんの撮影場所の候補やシーンのチョイスは正直とても良かった。
私と好みが合うのかもしれない。
王道なシーンの再現だけではない、日常的なシーンやそのキャラクターへの愛情がなければ思い至らないような細かなシーンなども候補に挙げられている。
『いいと思う! 私が撮りたいと思ってたのともだいぶ被ってるし!』
『勿論気を付けるつもりですが、撮影時の接触の許容範囲とかあれば先にお伺いしたいです』
「律儀だなぁ」
男性レイヤーさんは女性レイヤーに比べて母数が少ない。奇異の目に晒されることもあるし、警戒心が高い女性レイヤーさんからは嫌厭されるというケースも残念ながらある。
だからこそ慎重に気を配ってくれているのだろう。
飲みの時の会話などから『Halu』さんがとても誠実な人だというのがわかっている私からすればそこまで気にしなくてもいいのに、というのが素直な感想ではあるが。
『手が触れる、顔が触れるくらいなら全然大丈夫だよ〜!』
『わかりました。ありがとうございます』
その後、私たちは撮影の詳細を更に詰めるべく何度もメッセージを交わすのだった。
***
ロケ撮当日。
最寄駅で集合した私達は恭子が運転してきた車に乗り、博物館を目指す。
暫く山を登った先にある駐車場に車を停め、私と『Halu』さんは荷物を詰めたキャリーケースを、恭子は一眼レフや撮影器具を持って入場受付へ向かう。
受付の人に名前を告げれば簡易的な更衣室へ案内され、私と『Halu』さんはそれぞれ別室で支度を整える事になる。
先に着替えを終えたのは私だった。
グループDMで着替えが終わった旨を連絡し、更衣室前で待っていると、少しして『俺も終わりました』と連絡がある。
それから程なくして更衣室から『Halu』さんが現れる。
黒くウェーブの掛かった長い髪。
服は和洋折衷とでも言えばいいのか、和服をイメージした型のワンピースが特徴的な女の子だ。
赤い瞳に添えられた睫毛はとても長く、人形のような精巧さを感じさせられる。
上半身だけを見るならば間違いなく美少女。
しかし……
「……おっきいね」
「それはもう仕方ないですね」
『Halu』さんは身長が181cmあると飲みで聞いた。
成人男性の中でも高い方に位置するだろう彼を見上げて笑えば『Halu』さんもまた苦く笑う。
「今更だけどキャラ、逆じゃなくてよかったの?」
「『ユッカ』さんは逆がよかったですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「じゃ、いいんですよ」
駐車場で待っている恭子と合流すべく、私たちは歩き出す。
『Halu』さんは空いている手で横髪に触れる。
「コスプレって、わざわざ時間とお金を掛けて用意をするじゃないですか。なりたいと思えるキャラクターがいるからこそ、そこまでの手間暇を掛けてでも支度を終わらせるんだと思うんです」
『Halu』さんが私を向く。
赤い瞳が朝日に反射して輝いている。
「この人のコスプレをしたいって思えるって、それだけの理由や熱意があるんだと思うんです」
「……だから、『Halu』さんもその子を選んだの?」
「はい」
車の前で手を振る恭子を見つけ、いきましょうと少し足を早める『Halu』さん。
軽やかに足を進めるその姿が眩しくて、私はそっと目を細めるのだった。




