森で生きる者
少女の顔の真横から風切音が聞こえた。
顔の横からオオカミへ矢が飛んできたのだ。
「嬢ちゃん!大丈夫かい!?」
60代くらいの男性が弓を持って少女に近づいた。
「どうしたんだこんな暗い時に...近くに私の家があるから来なさい。」
少女はそっと頷き、男性についていった。
しばらく歩くと、森の中にポツリと家があった。
家に上がると、明るい空間を目の当たりにして、安心からか涙が溢れてきた。
「嬢ちゃん、名前は?」
少し様子を伺うように聞いた。
「...アトリエ・フィルノート」
ボソッと言った。
「そうかアトリエか、私は猟師をしているオルバ・セグナだ。」
オルバはアトリエに食べ物を渡した。何かの肉が入っているシチューだった。
もう外は明るくなってきた。
アトリエは恐怖体験が立て続きに起き、お腹を空かせていたのでそのシチューにがっついた。
オルバは
「嫌なら全然言わなくていいんだか...何があったんだ...?」
アトリエは俯きながら
「魔物が攻めてきたの。私以外の住人は全員虐殺された...。」
「そうか...それは災難だったな...。」
オルバはアトリエに同情している。
「...にしてもよく逃げ切れたな。逃げ足が速いのか、私に似ている...。」
「どういうこと...?」
「私の村も昔襲われたんだ。魔物領との国境付近だったからな...。」
「...どうなったの?」
シチューを食べ終わり、アトリエはオルバの話を聞き始めた。
「アトリエと同じ、両親や兄弟は殺され、私はその村からすぐに逃げた。」
オルバは朝日が昇った窓を見て、黄昏ながら話した。どこか悲しそうな顔をしていたと思う。
「私の家庭は代々魔法使い一家だった。自分で言うのもあれだが、村の中で一番信用されていたんだろう。だが、私はそんな一家の誇りを捨てて逃げた。村での生存者は私以外いなかった。」
アトリエは悲しそうなオルバを顔を見てこっちまで悲しくなってきた。
「私は最低なんだ。君と違い、皆を救える力をもっていながら、恐怖によって全ての責任から逃れ、森で一人籠った。
あのとき家族と共に魔物に対抗していたら、村を守れたかもしれない。」
「...あの!」
オリバはいきなり叫んだアトリエにびっくりした。
「...どうした?」
「私に魔法を教えてくれませんか?私は将来魔法使いになって魔王軍に立ち向かいたいです!」
アトリエの瞳には希望が詰まっている気がした。
「魔法なんてそんないい物じゃない、使えば使うほど寿命が縮む。私は魔法を捨てたおかげでこんなジジイになるまで生きているんだ。だが子供の頃は魔法を酷使していた。そろそろ私も死ぬだろう...。」
「...私が逃げ切れたのは、私の足が早いからじゃないんです!
私は魔物に殺されるのを座って待っていました。
私に近づいてきたのは私の両親を殺した魔物でした。
親の仇に殺されるのは嫌だなと思いながら、逃げる気もなく、殺されるのを待っていました。
けど殺される直前、私は突然逃げました。私にも理由は分かりません。
しかし魔物は走ったところで、逃してはくれませんでした。
私に迫る魔物の魔法、私は死を覚悟しました。
その瞬間、見たこともない女性が私を助けてくれました。
自分の寿命を減らしながら、知らない村の赤の他人の私を助けてくれました。
私はあの女性のように生きたい!魔法の力で自分の身を削っても人類のために戦いたいんです!」
オルバは考えた。
「...もう必要ない命だ...このまま野垂れ死ぬより未来に繋ぐ方がいいのかもしれないな...」
オルバはアトリエに目を合わせた。
「私はもう50年は魔法を使ってない、成長できる保証なんてないが、私でいいか...?」
「はい!」
アトリエは元気いっぱいに返事をした。
「私の命はもう長くない、一日休んだら修行を始めよう。」