昇る朝日
「ウッ…なぜ…?」
ジャガーの横腹はアトリエの魔法によって貫かれていた。
横腹からは大量の血が出ており、今にでも失血死してしまいそうだった。
「「「夜体纏…」」」
ジャガーは血を出しながら影に隠れた。
「ネオン!ごめん!倒しきれてない!気をつけて!」
アトリエは魔法による寿命が吸い取られる感覚に陥りながらもネオンの方向へ走った。
「何でいつまで経っても起きてくれないのさ。」
「格上相手で怖くて動けなかったの!」
アトリエはネオンの場所へ走って駆け寄った。
「なぜ…私の魔法で眠っていないんだ…。」
ジャガーは2人から少し離れた場所に出てきた。
「僕がフィルの顔スレスレで君の魔法を止めたからね。」
アトリエが催眠魔法に当たる直前、魔法はネオンの防御魔法によって防がれていた。
「…まさか…。卑怯な…!」
「ご想像の通り。フィルには魔法にかかったフリをしてもらったのさ。」
「敵の横で無防備に寝るって怖いんだからね!」
「まぁいいじゃないか。これであいつを殺せる。」
ネオンはジャガーに視線を向けた。
フッとジャガーは横腹を抑えながら鼻で笑った。
「これで倒したつもりなら…頭がおめでたいな…。」
ジャガーは杖を構えた。
「フィル。」
「うん。」
アトリエとネオンはジャガーに杖を向けた。
『『『宵』』』
「!?」
「あー。」
アトリエ達はジャガーの聞いたことない魔法を警戒した。
「ネオン!あれ!」
「気をつけてね。」
ジャガーの足元から先程まで纏っていた影のようなものが辺りに広がっていった。
その影はアトリエ達の足元にたどり着いた。
「え?」
次の瞬間、2人の視界は真っ暗になった。
さっきまで月明かりで辛うじて見えていた風景は目を瞑ったかのように変わり果てた。
「ネオン!これ何!?」
「恐らく、影で視界が塞がれているね。これだから得意魔法使いは…。」
「ど、どうしよう!?」
「この状態であいつを倒すしかないね。」
ネオンは杖を構えた。
「「「死刻冥」」」
「残念、ハズレだ…。」
ネオンは魔法を放ったが、空を切った。
「…。」
ジャガーはネオン達に杖を構えたが、自分から出ている血の量を見て杖を下ろした。
「ネオン!どこにいるの!?」
「うーん、フィルの声が反響して場所がわからないな。これも魔法の能力かな。」
影により声が辺りに響き、音は聞こえても方向がわからなかった。
「ネオン!何かないの!?」
「どうしようもないね。今僕たちが生きているのを鑑みるに、敵は今止血でもしてるんじゃないのかな。」
「つ、つまり?」
「それが終わったら、僕たちは無防備のまま虐殺かな。」
「ねぇ!本当に何かないの!?」
アトリエは怖がりながらネオンに助けを求めた。
「何かあったらもうしてるよねぇ…。血の匂いさえ消せたらな…まぁ、とりあえず身を寄せ合おうか。」
「どうやって?」
「なんとかして。僕は周り警戒しとくから。」
「私に押し付けないでよ!」
「ほら、早くしないとみんな死んじゃうよ。」
「もう!」
アトリエは手を前に出してフラフラしながら歩き始めた。
「ん?」
アトリエの手に何か当たった。
「これ?」
「僕には触れてないよ。」
「ん〜…。木だった…。」
「僕はそんな硬くないよ。」
アトリエは方向を変え、また探し始めた。
「ねぇネオン、なんかない?」
アトリエはフラフラ歩きながらネオンに聞いた。
「ん〜…お、いいこと考えた。」
「ほんと!?」
「「「水弾陣」」」
「え?」
どこからか水音が響いた。
「なんでいきなり魔法を…?」
「「「水弾陣」」」
ネオンは方向を変えて魔法を放った。
「ねぇ…?ネオン…?私に何をする気かな…?」
「「「水弾陣」」」
ネオンはアトリエを無視し、魔法を打ち続けた。
「ねぇ…いつもは何考えてるか分からないけど、今ネオンが企んでることは分かるよ…。けどね、人間って服を着たまま濡れるのは嫌だと思うんだ…。もう寝起きにもぶつけられたんだしさ…。
ねえ…。あといつ来るかわからないのは本当に怖いんだよ…?」
「「「水弾陣」」」
「わぶっ!?ねぇなんで頭狙うの!?」
アトリエはネオンの魔法でずぶ濡れになった。
「こっちか。」
「そんな気はしたよ!早く寄ってきて!」
ネオンはアトリエの反応があった方向へ歩いた。
「これか…うわ、びちゃびちゃだ。」
ネオンはアトリエの肩に触れたが、すぐ手を離した。
「誰のせいでしょうね!って、寄ったけどその後どうするの?」
「今から考えるよ。」
「え!?考えてくれてないの!?」
「1人で考えてたら格好の的だろう?」
「どうするの!?魔物がいつ来てもおかしく…。」
土を蹴る音や草を踏み潰す音がアトリエ達の耳に響いた。
「この音…足音!?」
「みたいだね。ご到着されたようだ。」
「ねぇ!!何かないの!?」
「あったらもうやってる。にしても…血の匂いが周りからするけど、そんな血が飛び散ってるのかな?」
ネオンは杖を構えた。
いつもは左手で持ってるのに今は右手で持っていた。
ネオンは自分とアトリエの周りを防御魔法で囲った。
「まぁ防御魔法は貼っといたけど…耐えれるかわかんないね。」
アトリエとネオンの耳に呪文がどこかから響いた。
「「「幻光閃」」」
光はネオンの防御魔法を襲った。
「うわあ!!これ大丈夫なの!?」
ジャガーの光はネオンの魔法を継続的に削っていった。
「多分まだ破られてないけど、時間の問題だね。」
「どうしよう!?このままじゃ!!」
「うーん。後もうちょっとで思いつきそうなんだけどな。」
「早く!早く!」
アトリエはネオンの肩を掴み、ネオンを揺らした。
「だから濡れてる身体で…。」
アトリエの濡れた身体がネオンの肩に触れた。
「あれもこれも、フィルの寝起きが悪くて助かったよ。」
「え?」
「フィル、周りを防御して。」
「わ、わかった!」
疑問を抱きながらもアトリエは防御魔法を展開した。
ネオンが杖を左手に持ち替え、防御魔法を解いた。
ネオンは杖を真上に向けた。
「!?」
ジャガーは驚いた様子だった。
「「「潰涛水塊」」」
アトリエとネオンの頭上遠くに大きな水の塊が生み出された。
「何その魔法!?何が起きてるの!?」
アトリエはネオンが何をしているのかわからず、戸惑っていた。
「ねぇネオン!いきなり無言になる癖やめようよ!」
ネオンは黙って左手に持っていた杖を右手に持ち替えた。
「フィル、魔法を解除して僕に近づいて…ってフィル?」
ネオンが手を伸ばした先にはアトリエはいなかった。
「フィルを褒めるべきではないかも。」
「ネオン!どこ行ったの!?」
ネオンの大きな水の魔法は重力に引き寄せられ、ネオンの防御魔法に叩きつけられた。
激しい音が鳴り響き、水はネオンの周りを勢いよく流れた。
ジャガーは水に流されないように攻撃をやめ、自分を守った。
その横にはびちゃびちゃな髪が顔に掛かり、誰かもわからないような濡れたアトリエが立っていた。
「勝手に動かないでよ。」
「また水だよ!てか、ごめん!逸れちゃった!」
「何してんのさ。」
ネオンは見えているかのようにアトリエに近づいて肩を叩いた。
「そういや、なんでまた水を流し始めたの?」
「フィルの残した傷で辺りが血臭くてね。僕の鼻は魔物の血の匂いで機能停止してたけど、洗い流せばもう使えるだろう?」
「なら魔物の場所も!!」
ネオンはアトリエの口を塞いだ。
「フィルの目線から10時の方向くらいかな。呪文が聞こえたらそっちの方向を中心的に守って。僕は魔物を攻撃する、けど相手は優秀な魔物だ、だからまず向こうに攻撃させて、防御魔法が使えない状況で僕が叩く。フィル自身も僕もちゃんと守ってね。」
「不安だけど…わかった。」
アトリエはジャガーからの攻撃を待ち伏せ始めた。
ジャガーは水の魔法を掻い潜り、アトリエ達に近づいて来た。
「なんなんだあの水の魔法は?何のために…?」
ジャガーは次、攻撃に当たると命はないことを悟っていた。
「しかし…彼女達が私の魔法を見切る手段も、私に攻撃を当たる手段がもない…。私の体力がないことを踏まえてのブラフ…何か裏があると考えさせる賭けに出たのか…?」
ジャガーは無防備のアトリエとネオンに杖を向けた。
「いや…少し落ち着いた方が良さそうだ…片方はともかく、もう片方はとても優秀な魔法使いだ。無策に戦ってくるとは考えにくい。あの水の魔法はなんの意味があるんだ?なぜ防御魔法を使わない?」
ジャガーはネオンにだけ警戒を続けた。
「嗅覚…!忘れていた…!あの魔法使い…鼻が良い…!
彼女の辺りには私の血が飛んでいた…不覚にもその血に紛れ、私の匂いを嗅ぎ取れなかったのか…。だから水を使い、血を流し、匂いを嗅げるようにした…。
そして、今無防備に立っているのは、油断し切っている私の攻撃を待ち伏せ、片方は防御をし、片方は隙ができた私を攻撃する作戦か…。ならば…!」
「「「絨毯火爆!」」」
「!?」
アトリエはこの魔法に聞き覚えがあった。
ネオンが使っていた広範囲の地面に炎を広げる魔法。
この魔法では自身は守れてもネオンを守り切るのは難しかった。
そしてジャガーは魔法を放ってすぐに防御魔法を展開した。
相手にとっては完全に油断の魔法、だが決定打に欠けている。
燃え盛る体での相打ち覚悟の攻撃をジャガーは警戒していた。
炎は素早くアトリエの足元まで迫った。
「あち!ネオン!防ぎ切れない!…ってネオン?」
アトリエの横にネオンの気配は無かった。
「危なかったよ。君がこの警戒を怠ってくれて助かったさ。」
ネオンはジャガーの後ろに立ち、杖を突きつけていた。
「まさか…転送魔法…!」
「その通り。聞きたいことはたくさんあるけど、優秀な仲間がいるからね。君は用無しさ。」
「夢にも思わなかった…人間に負けるなんてな…。」
「「「死刻冥」」」
ネオンの魔法はジャガーの心臓を貫いた。
ジャガーを倒すと同時にアトリエとネオンの視力が戻った。
「ふぅ…もう朝だ。」
ネオンの目線の先には朝日が昇っていた。
「フィル、眠ってるエルを迎えに行くよ…って…。」
そこには服が穴だらけのアトリエが倒れていた。
「あー、そっか。燃えてたのか。」
「濡らされて!燃やされて!災難な1日だよ!!」
アトリエの声は日の照らされた山脈に響き渡り、山彦のようになった。
「まぁまだ朝だけどね。」




