刺客
「数ヶ月間、地獄のような日々が続いた。鬼神、ネオンによって、私とエルフィンはバチボコにされた。」
「何1人で喋ってるんだい?」
「ネオンー!ちょっとは休憩日ちょうだいよ!」
「君たちは時間がないんだ。フィルは1日過ごすだけで寿命が減るんだから。」
エルフィンの過去を話した夜から3ヶ月が経った。
「まぁまぁ、ネオンさんの修行でアトリエさん確実に強くなっていっていますよ!あと少しです!」
「またエルフィンちゃんは!自分は終わったからって!」
1ヶ月ほど前、エルフィンはドラゴンの生首を持って返ってきた。アッシュの得意魔法を駆使し、ドラゴンに勝ったのだ。
最近はエルフィンはずっと個人で修行し、ネオンはアトリエに付きっきりだった。
「休憩日なんて魔王倒したらいくらでもあげるから。」
「ネオン、前に魔王を倒すのと同時に私の寿命を切らすのがベストとか言ってなかった?」
「フィルって天国信じてる?」
「うそでしょ!?」
「まぁ無駄話はここらにして...行くよフィル。」
「うぇ〜ん。」
「頑張ってください!」
ネオンに連れられ、アトリエは行ってしまった。
「私も私で修行しないと...。」
エルフィンは火を消し、少し離れた場所へ行った。
最近のエルフィンには悩み事があった。
3ヶ月前のネオンの話についてである。
自分は魔物を殺めてもいいのか。
殺めたら物語の彼女みたいになるのではないか。
そんなことをまた考えながら歩いていた。
パキッ
枝の折れる音が聞こえた。
少なくともエルフィンが発したものではなかった。
「ん?今音...が...。」
エルフィンは振り返った。
エルフィンは固まった。
左横腹からナイフが貫かれていた。
「ぐぁぁあああ!!!」
エルフィンは痛みから蹲った。
「う〜ん、殺しきれなかったか〜。君が避けるからだよ〜。今すぐ楽にしてあげるね〜。」
エルフィンの後ろには知らない女性がいた。
「...ッ!あなたは...魔物ですか...?」
エルフィンは力を振り絞り立ち上がって杖を構えた。
「そうだよ〜。東の城の自遊撃刺、『ブロブ・シェルマーダ』って言うの〜。ごめんけど人間はみんな殺せって言われてるんだよね〜。」
どこかゆったりとした話し方でそう言った。
「そうなんですか...!」
エルフィンはアッシュから取り出した仮面を身につけた。
「ん〜?なに〜?その仮面〜。」
「...ッ!」
エルフィンは右手で横腹を抑えながら左手で魔法を放った。
「「「裂空斬!」」」
エルフィンから素早い斬撃が飛び出た。
「おっと〜。いい魔法だね〜。得意魔法かな〜?」
ブロブの斬撃を受けた左腕は小さな切り傷になっていた。
「どんだけ硬い身体なんですか...!」
「鍛えてるからね〜。にしても君の斬撃〜、見たことなるな〜。何だっけ〜?」
エルフィンは敵が油断しているうちにまた魔法を放った。
「「「切刻無斬!」」」
これの魔法は防御魔法は貫通し、痛みはないが敵を切り刻むことができる。
エルフィンがドラゴンを討伐するのにも酷使した。
「まっ、いっか〜。早く終わらせてあげよ〜。」
「「「虚空術〜」」」
エルフィンの斬撃が着弾する直前にブロブの姿は無くなった。
「...?まさか、最初の時と...。」
エルフィンは最初に刺された時のことを思い出した。
周りに人はいなかった。
なのに突然自分の背後にブロブが現れてナイフを刺していた。
「...透明になるんですね...!」
エルフィンは杖を構えた。
「「「裂空斬!」」」
エルフィンは全方位に斬撃を飛ばした。
エルフィンの斬撃は木を斬りながら突き進んだ。
「私に実体があるのか確かめたかったんでしょ〜。ざんね〜ん。」
「クッ...。」
エルフィンの左肩はブロブのナイフで貫かれていた。
だがそこは義手の部分だった。
「ん〜?なんだ〜。肩から腕取れてるのか〜。反応が可愛いからもう少し痛めつけようと思ったのにな〜。」
「「「虚空術〜」」」
「「「裂く...。」
もうブロブは透明になっていた。
「出てくる方向さえ掴めれば...!」
しかしブロブには実体がない。
それに加え、出てくる時に音がしたりなどもない。
エルフィンはいつ出てきて刺されるかの恐怖心に駆られていた。
「ん?何かおかしい...。」
エルフィンの頭には一つの仮説が浮かんだ。
「このまま何もせず死を待つよりマシだ...!」
エルフィンは杖を構えた。
「「「裂空斬!」」」
エルフィンはまたしても全方向に斬撃を飛ばした。
エルフィンの斬撃は人に当たった感触はなく、辺りの木を切り刻むだけだった。
「仮説があってるとすれば奴はこの方向に来る...。」
エルフィンは目を瞑った。
日々訓練してきた瞑想を思い出した。
エルフィンは空気が変わったのを感じた。
「「「切刻無斬!」」」
エルフィンは向いていた方向の真逆に魔法を放った。
「えっ?」
ブロブの身体には斜めで大きな切創ができていた。
ブロブはその場に倒れた。
「うっ...やっぱり...合ってたんですね。」
エルフィンは最初に刺された左脇腹の傷が痛んでいた。
「な、なんで私が出る方向が〜?目を瞑るだけで全方位を賄うなんて不可能なはず〜...。」
「最初の攻撃の前、枝が折れる音が聞こえたんです...。あなたは魔法が関与しているものなら実体がないのですが、魔法が関与していなかったらあなたは触れれる…。」
「ま、まさかあの木を切り刻んだのは〜!?」
「はい...ちょうどいいとあなたが透明中に進んだ『枝のない道』、それは私が仕掛けた罠です...。」
エルフィンが放った仮説が浮かんだ後の『裂空斬』、あれは一つの方向を除き、全体に木の枝が散らばるように切り刻んでいた。
「人間はここまで頭が切れるんだね〜...。私の負けだ〜。」
エルフィンは倒れて動けていないブロブに杖を構えた。
「...!思い出した〜...!その斬撃...少し前から行方不明のアッシュ?の得意魔法〜。アッシュがいなくなったのは君が関与しているんだね〜。君は得意魔法をコピーする魔法でも持ってるのかな〜?その仮面も関係ありそうだね〜。」
「勘がいいですね。あなたの得意魔法もいただきます。」
「君の手で殺さないとコピーはできないとか、制約はある〜?」
「あったらどうするんですか?」
「舌を噛み切って自殺するさ〜。君はリマ様の弊害になるかもだから〜。」
「まぁそんな制約ないですけどね。この仮面も仲間が倒した死体から抜き取ったものですし。」
「私の魔法も悪用されちゃうのか〜。嫌だね〜。不快だね〜。」
「ごめんなさい。けど私は止まる気はありません。」
エルフィンの構えた杖は震えていた。
ブロブは何かに気づいたようだった。
「早く殺らないの〜?止まらないんじゃないの〜?」
「うるさいです...!」
エルフィンは震える杖を両手で押さえた。
「まさか人型の生物が殺せないとか〜?せっかくの強い得意魔法が勿体無いね〜。」
「...。」
またしてもエルフィンの後ろから音がした。
エルフィンはブロブに構えていた杖を後ろに向けた。
「エルー?なにやってるんだい?」
ネオンだった。
「ま、魔物を倒して...これからトドメを...。」
「この子私を殺すのが怖いんだって〜。私はこの子の事刺したりしたのに〜、優しいよね〜。けどそれで通用するのかな〜。」
「うっさいな。」
ネオンはブロブを睨みつけ、杖を向けた。
「そうやって仲間にトドメ指してもらわないと、戦えもしないんだね〜?」
「けど君負けてるじゃん。説得力ないよ。」
「...ん〜。」
「僕は今来たから状況はわからないけど、君の発言は全て負け犬の遠吠えにしか聞こえないよ。恥ずかしくないの?天下の"魔物様"が人間如きに負けちゃってさ。倍以上の寿命があって、猶予もあって、充分な環境もあったのに?面目丸潰れじゃない??」
ネオンは嘲笑いながら言葉を並べた。
「う、うるさい〜!!あなた達なんかリマ様に殺されてしまえばいい〜!!」
「もういいかな?ごめんね〜、君が"下"に居座ってるから首が痛くてさ〜。」
「なんなのさっきから〜!?自分が弱いからって
仲間に行動不能にさせて、自分がトドメを指すだけの無能のくせに〜!!」
「本当にキーキーうるさいね。殺そっか。」
「「「死刻冥」」」
ネオンがブロブに魔法を放った。
「結局君は私にトドメを指せないんだね〜!!」
ネオンの魔法がブロブにぶつかり、命を奪った。
「よし、仮面取っときな、エル。」
「あ、ありがとうございます...。あ、あの...。」
「にしてもすごい傷だね。今日はやめときな、フィルのところ見に来る?」
「ごめんなさい!」
「...。」
「わ、私、数ヶ月前ネオンさんが話してくれた昔話の主人公みたいになるのがどうしても怖くて...。けどそんなんじゃ魔王領で通用しないってものわかっています。...本当にごめんなさい...。」
「エルはさ、なんであの話の主人公になるのは嫌なんだい?」
「え?...えっと、嫌というか...私が私じゃなくなって、周りの人に迷惑をかけるのが怖くて...。」
「ふーん...。んじゃさ、もし、エルがあの話の主人公のようになったら...僕がエルを殺すよ。」
「え?」
エルフィンは困惑で固まった。
「これなら安心でしょ?」
「え?...いや...。た、確かに安心ですね...。」
エルフィンは複雑な感情になりながらも頷いた。
「なら、そういう事で。これからは怖がる必要はないよ。」
ネオンはエルフィンの肩を叩いて慰めた。
エルフィンの肩からは金属のような音が発された。
「殺害予告されて安心するのは変な気持ちですね...。」
「まぁ、エルが戦いの時に余計なこと考えないようになるならそれでいいさ。」
エルフィンは脇腹を抑えながらブロブの顔を触れ、仮面を取り出した。
「彼女の得意魔法はなんなんだい?」
「おそらくですが『虚空』だと思います。虚空に入り、透明になって、魔法が効かなくなりますが、虚空時にはこちらに干渉できず、足音などで感知される危険がある魔法だと考えます。」
「なかなか使えそうだね。傷の手当てをするから一旦拠点に戻ろうか。」
「わかりました。」
ネオンが伸ばした手にエルフィンは掴まり、ネオンは転送魔法を使用した。
「やっぱり便利ですね。」
「前ではよく疲れ果てたエルを運んだもんだよ。」
「仕方なかったんです。うっ...。」
エルフィンは刺された脇腹を両手で塞いだ。
「大丈夫かい?」
ネオンはエルフィンの手当てを始めた。
「エルフィンちゃん!?どうしたの!?」
アトリエが走って駆けつけた。
「アトリエさん...。」
「ん?フィル、待っといてって言っただろう?」
「喉乾いたから水を取ってこようと戻ったらこれだよ...。大丈夫なの?何があったの?」
「魔物に襲われた、けどエルが返り討ちにしたから安心して。」
「ハァ〜、びっくりした。エルフィンちゃん大丈夫?」
「...大丈夫です。」
「ならいいけど...。ネオンよく気づいたね。」
「あんな木が倒れた音がしたら嫌でも気づくだろう?」
「木?そんな大きな音したの?」
「集中してたんじゃない?」
「そうなのかな...。」
「まぁフィルは訓練を続けるから戻ってて、エルの手当が後で僕も行くから。」
「エルフィンちゃんはどうするの?」
「フィルの見学でもしてもらおう。流石に休んでもらわないとね。」
「...分かりました。」
「そうなんだ!なら先に行っとくね!」
アトリエは戻ってった。
「よし、さっさとやってフィルのとこ行かなきゃ。」
「...すいません、お手数かけて...。」
「謝らなくていいよ。なんなら褒めたいくらいだ。」
「...そう言っていただけると嬉しいです。」
ネオンが集中し始めて沈黙が続いた。
「よし、立ってみて。」
「結構マシになりました。ありがとうございます。」
「それじゃ行こうか。」
またしてもエルフィンはネオンの伸ばした手に掴まった。




