少女とドラゴン
アトリエとエルフィンは焚き火の火を見ながらネオンの話を聞き始めた。
「すごく長い昔話だから所々忘れてるけど許してね。昔、仲のいい姉妹がいたんだ。彼女達が生まれた時から親はいなくて、姉妹2人で手を合わせて生きていたんだ。
けど、ある悲劇が起きた。
子供しかいない家、格好の的として強盗に狙われたんだ。ボロボロの家のドアは一瞬で破壊され、強盗に縛られたんだ。
その時、妹は強盗に抵抗したせいで強めに当たられ、その場で亡くなったんだ。
姉は絶望した。
姉は頭から血を出して倒れている妹を見て、『不思議な力』が湧いてきたんだ。
それは魔法だった。
普通の才能の無い者の魔法はそれなりに訓練しないと魔法を使えない。
彼女はなぜか咄嗟に使えた。
後の話なんだけどこれは得意魔法だったんだ。
彼女の得意魔法は強盗を1人、殺めてしまった。
他の強盗は逃げ、家にはボロボロの内装と強盗、妹の死体しか残っていなかった。」
「結構暗い話ですね...。」
「...それさっきまでのエルにも言えるよ。」
「今のとこエルフィンちゃんの仮面とあんまり関係なさそうだけど。」
「まぁ話を聞きなよ。
その後殺してしまった強盗は仲間割れで片付けられて、彼女は子宝に恵まれない裕福な家庭に引き取られたんだ。けど、その家庭は魔法をあまりよく思っていなかったんだ。
彼女の魔法は使うことがなくなっていったんだ。
彼女は大人になっても、魔法を使って人を殺めてしまったことに対して罪悪感を覚えていた。
彼女は裕福な家庭を去り、旅を始めた。
この大地にいる、不幸な子供を少しでも減らしたい、妹の無念を少しでも減らしたいと考えていた。
彼女は守る手段として魔法を選んだ。
彼女は因縁を断ち切ろうとした。
...ふぅ。少し休憩。」
「咄嗟に使ったことない魔法が出たって...まるで昔のエルフィンちゃんみたい。」
「この話と合ってる所はここだけじゃないよ。」
「使ったことない魔法を使える得意魔法の種類って他にもあるんですか?」
「わからないね。聞いた話だと『鏡』の得意魔法も使えてそうだけど。」
「お姉さんね!確かにそんなこと言ってたと思う。」
「お姉さんってアトリエさんの命の恩人さんのことですか?」
「そうそう!そしてね、ネオンの妹でもあるんだ!」
「え!?そのお姉さん何歳なんですか!?」
「義理の妹だよ。お姉さんじゃなくてお婆さんになっちゃう。」
「へぇ〜世の中狭いですね…。」
「本当にね。よし、話を戻そうか。
ここから先、僕はあんまり覚えていないけど許してね。
その後、彼女は以前使った魔法の練習を始めた。
しかし、一度魔法を使えたのに、二度は使えなかった。
彼女は才能がないと思い込み、魔法を諦め、剣を持ち冒険に出た。
入った街で孤児の情報を聞き、食料を与えたり、家事の手伝いをした。
ある日住み込みで手伝いをしていた家に盗賊が入ってきた。
しかしその時には彼女はいなかった。
彼女は力がない孤児のために薪を運んでいた。
彼女が帰ってきた時には死んだ孤児とものを漁っている盗賊だけだった。
彼女は目を開けたまま動かない孤児を見てまたしても不思議な力が湧いてきた。
其の不思議な力は構えた剣の先から放出され、盗賊を薙ぎ倒した。
この時の彼女は盗賊1人を殺めてしまって罪悪感に浸る彼女とは違った。
盗賊が命乞いをしても、土下座をしても魔法を辞めなかった。
彼女は魔法で攻撃してる最中盗賊にいわれた言葉が妙に心に残ったんだ。
『この悪魔め!』と言う言葉だった。
彼女が盗賊を皆殺しにしたあと、この言葉について考えた。
一生懸命に生きている孤児をまるで格好の的のように扱い、大人数で孤児を追い詰め、殺し、ものを奪う。
こいつらの方が悪魔じゃないか。
しかしこんな奴らに悪魔と言われる私は...盗賊より悪魔なのではないか。
彼女は殺人に対して何も抵抗のなくなった自分に恐怖を抱いた。
自分は悪魔なのではないか。
この先、彼女は何の苦労もなく魔法を扱えれるようになった。
しかし、人を殺すたび、自分が自分でなくなるような感覚に陥っていた。
ある日、次の街への旅路の途中で1匹のドラゴンに会った。
そのドラゴンは大きいながらも傷だらけでどこか弱々しかった。
彼女は弱々しい無害なドラゴンを殺すまで堕ちてはいなかった。
彼女はドラゴンを無視し、進もうとした。
ドラゴンは彼女に話しかけた。
「お前は血の匂いがする。たくさんの人や動物を殺した匂いだ。それでもなぜ俺を攻撃しない?」
彼女はこう返した。
「可哀想だから」と。
続けて彼女は
「私は必要ない殺しは決してしていない。私が殺すのは守っているものを攻撃した奴だけだ。しかし、攻撃した奴らは揃って私を悪魔だと言う。君の目にも私は悪魔のように見えるか?」
と問いかけた。
ドラゴンはその問いに対し、少し考えた後
「...人によって正義に対する考えは違う。攻撃する者は攻撃することを正義と考え、守る者は守ることを正義と考える。この対立によって、攻撃する者は守る者を『悪』だと考え、守る者は攻撃する者を『悪』と考える。これは今この大陸で起こっている戦争と同じ物だ。俺の体もその邪心によって傷つけられた。」
と答えた。
「...。」
この後の会話はごめんけどあまり覚えていない。
ただ、この後彼女とドラゴンは急速に仲良くなり、己の正義のため闘い始めた。
彼女は自分の過去を打ち明けるほどドラゴンを信用していた。
ある日、盗賊が住む小さな村に攻め込んだ。
その大きな戦いの後、彼女の見た目が変わっていた。
彼女の性格はいつも通りだが、見た目は側に横たわっている盗賊そっくりだった。
ドラゴンの見立てによると、戦いが故に多くの魔力を使い、その魔力が体に残ったまま、顔に触れたからではないか、と。」
「これって、エルフィンちゃんのと似てる...。」
アトリエは驚愕の表情を見せた。
「確かに似ていますが、私はノインさん達の顔を触れる時、魔力を流した記憶はありませんよ?」
「何言ってんだい?その義手は魔力を流すことによってくっつき、自由に動くんだろう?偶々さ、偶々魔法の発動条件をクリアしたのさ。」
「けど...似ているのはそこだけですか?私のとは違って見た目が変わるだけで、魔法が使えるようになってはいないと思うんですが。」
「僕が似ていると思った発動条件をはこうさ。1、少年期に身内の死体を見て、魔法を発症している。
2、時間を置き、またしても死体を見て魔法を使っている。
3、その工程の後、死体に魔力を流しながら顔に触れることによって魔法を発動。
これがエルの過去と似ていると思った点だ。」
「確かに...なら私も仮面を駆使して見た目を変えるって可能なんですかね?」
「不可能ではないと思う。過去の記憶を見る能力の時、確かに僕の見た目は変わっていた。」
「2人の結末はどうなるんですか?」
「続きを話そうか。」
先ほどの戦いの後の冒険の途中、2人はある話を耳にした。
死者蘇生についてだった。
魔法を使わせ、寿命を奪う悪魔が行う儀式とのことだった。
条件は1000の命を奪ったことのある魂。
魂って言ってもその人が死んだりはないらしい。
彼女は恐らくこの条件をクリアしている。
彼女は信じなかったが、ドラゴンは信じようとしていた。
彼女は幼少期、強盗によって妹を亡くしている。ドラゴンは彼女が自分を人殺しと思い込み、ひどく悩んでいたことを知っていた。
彼女の妹が返ってくるだけで心の支えになり、少しでも邪心が消えてくれると考えた。
彼女はドラゴンに連れられ、ある大山の洞窟へと連れてこられた。
入り口は非常に大きく、ドラゴンも中に入れた。
そこには光源も何もないはずなのに少し明るく、地面には大きな魔法陣が刻まれてあった。
彼女達が辺りを見渡している時、聞き覚えのない声が聞こえた。
「ようこそ。ここでは亡くなった命を還らすことができる。行う者はどっちだ?」
辺りを見渡したが、声の元はいない。
2人の頭に直接言葉を流されているような感覚だった。
「儀式を行うのは彼女だ。」
とドラゴンは彼女に目を向けた。
「ふむ、確かに1000の命を奪っている。」
「...。」
「いいだろう。生き返らせたい者は誰だ?」
「彼女の妹だ。」
「そうか...面白い。」
悪魔がそう言った後、刻まれた魔法陣が光を発し始めた。
その後、彼女の胸から黒く光った魂が魔法陣に吸い込まれた。
「フフフ...。すまないがこの魔術には欠陥があってな。
『望んだ者を生き返らす魔法』
と
『世界を滅ぼすほどの力を手に入れることができる魔法』
のどちらかを選択できるようになってしまったんだ...。
其方は妹を還らすためにきたのだろう?では『望んだ者を生き返らず魔法』を選ぶのだ...。」
彼女の体の前に2つの本が開いた。
左側には緑色で表紙には天使の羽が描かれていた。
それに対し、右側の本は赤色で、悪魔の角のようなものが描かれていた。
彼女は右側の赤い本に手を伸ばした。
「...まさか。おい!」
「ドラゴン...私をここまで連れてきたことに礼を言う。」
「お前はあの時の...俺と出会った時のお前とは違う!お前は妹のような人を減らすために手を汚していたのではなかったのか!?」
「...そんな気持ちだとこの世界では生きていけないのだよ。ほら、これから先も私とこの世界で争おうではないか。」
「不思議だった...お前が盗賊の姿になった時、なぜお前は盗賊の死体に触れたのか...。お前はもう己の正義で人を殺していない。自分の『快楽』のために人を殺しているのだな!」
「何がダメなんだ?」
「は?」
「フフフフ...。」
「何がダメなんだ?なぜ自分の快楽の為に人を殺したらダメなんだ?お前の言う、正義と快楽は何が違うんだ?」
「ダメに決まってるだろ!」
「理由を言えよ。ダメダメ言うだけで世界は変わるのか?」
「ッ...。」
ドラゴンは何も言えなかった。
彼女は赤い本に手を伸ばした。
「おい!やめろ!」
「うるさいぞ邪龍め!貴様は何も関係ない!選択はこの小娘がするのだ!」
彼女は赤い本を手に取った。
「もう...手遅れだったんだな...。」
「「「死刻冥!」」」
ドラゴンは魔法を放った。
ドラゴンの魔法は少女の身体を貫いた。
「なっ...。」
意識が朦朧とする彼女は虚な目でドラゴンを見つめた。
「これが殺される側の気持ちか...。確かに...この私でもお前はこう見える...悪魔め...!地獄に...堕ちろ...!」
彼女は動かなくなった。
「ふん...余計なことしよって。儀式は終了だな。」
魔法陣の光は消え、彼女から出た黒い光は下へと堕ちてった。
ドラゴンは洞窟から出て、その大きな翼で羽ばたき始めた。
「...これがこの物語の結末だ。」
ネオンはそう言って話を閉じた。
「...。」
2人は考えさせられる終わり方に言葉が出なかった。
「さて、もう寝ようか。明日からも修行だ。」
「ネオンさん...私もこうなってしまうのですか?」
「別にエルもこうなるって言う因果関係は何もないさ。安心しなよ。」
「エルフィンちゃんは大丈夫だよ。」
「そうですかね。」
「さて。暗い話はここまでにして、さっさと寝るよ。」
アトリエ達は眠りについた。
しかし、エルフィンはなかなか寝付けず、先ほどのネオンの話を思い返していた。
自分はまだ人間も、魔物も殺めたことはない。
一度殺めた後、話の彼女みたいに快楽で人を殺めてしまうかもしれない。
エルフィンは巡らせた考えを払いのけ、眠った。




