家族と家族
「え...?」
ネオンは驚いていた。
「流石にと思っていたけど、その反応もしかして合っているのかい?」
「何でそれを...?」
驚いているネオンの代わりにアトリエが聞いた。
「私も曖昧でね。大体8歳くらいの時、魔物に村が襲われたらしくてね。家族は皆死んだそう。私は一人で逃げたようなんだ。そして逃げるのに必死になりすぎて崖からすっ転びてね。」
エヴァンは気を失っていた。
目が覚めると木造の家の中にいた。
体のあちこちがとても痛かった。
「嬢ちゃんや、目が覚めたかい?」
お婆さんがエヴァンに話しかけた。
「ここ、どこ?」
エヴァンは不安気に言った。
「あんたが傷だらけで倒れ込んでるもんで、びっくりしたで。なにがあったんや?」
お爺さんがエヴァンに言った。少し言葉に訛りが入っている。
「思い出せないの...」
「そりゃ可哀想やな。多分あの崖から頭から落ちたんやろな。」
「嬢ちゃん、自分の名前わかるかい?お母さんとお父さんの名前は?」
「わからない。」
エヴァンは何も思い出せないと言う恐怖を味わっていた。
「けど、あんたほんまに運がええな。あんな崖から落ちてそんなに重症やないの、まぁ連れてきて10日経ってけどな。」
「わたし...10日も...。」
10日前と聞いてお婆ちゃんが何かを思い出したような様子だった。
「そういや貴方、ちょうど10日前くらいに少し近くの村が魔物に襲われなかった?」
「そうやな、こっちに来んのもそろそろかもな。」
「そうじゃなくて、嬢ちゃんはあの村の生存者じゃないのかい?」
「その可能性が高いな。」
エヴァンは、
「ならわたしすぐそこ行きたい!」
と会話に割り込んだ。
「ダメや、いくら重症やなくてもまだ傷は治ってへんし、魔物がうじゃうじゃおるかもしれへん。」
エヴァンは少し俯いた。
「なら!治ってからなら...」
「...ダメや」
「なんで!?」
「何でダメなのよ、貴方。」
お爺さんは黙り込んだ。
「俺にはあの村に昔からの友達がおった。文通をしてたんやが、10日前から途切れてもうたんや。実は俺は隠れながら様子を見に行ったんや。」
「あの日は狩に行って来たって言いましたよね?」
「すまんな。心配されると思てな。」
「どうだったの...?」
エヴァンは心配そうに聞いた。
「...多分...全滅や。魔物はおらへんかった。けど一応猟銃を持って村をまわった。友達の家に一直線やったが、生存者はおらへんで死体がそこらじゅうに転がっとった。俺の友達も魔法によって死んどったわ。生きとる確率は低いやろな。」
「...。」
「そんな顔すんな。あんたはまだあの村に住んでいて家族がいたっていう確証はない。そこらへんの森の一軒家の娘かもしれへん。」
数秒の沈黙が続いた。
そしてお婆ちゃんが口を開いた。
「まぁ、そんな深いことは考えずに今はケガを完治させることに集中しましょ。」
1ヶ月経った。
「よぉ、ケガはどんな感じや?」
「結構動かせれるようになったよ。」
「ええ感じやな、まぁやけど今調子乗って動くのが一番あかんからもう少し待てよ。」
「...うん。」
「ほら、さっき獲ってきたオオカミの肉のシチューや。」
「うん、ありがとう。えっと...。」
「どないしたんや。」
「いや、私貴方達の名前聞いてなかったなって。」
「言ってへんかったっけな。俺の名前は『ネブロス・テール』や。嫁は『ハリナ』っつうんや。」
「そうだったんだ。ありがとう。」
さらに半月後。
「よし、もう完治やな。」
ネブロスがケガを見て言った。
「よかったねぇ。」
「うん、本当にありがとう。」
「...ケガが治った瞬間言うことでもねえへんやが...。」
「...。」
「近くの猟師の家に聞いてみたんやが、娘がいなくなったやつはおらへんかった。」
「それじゃ...。」
「多分やがな...これ以上は言わせへんでくれ。」
「...うん。」
ネブロスは悲しそうな顔を、エヴァンとハリナは涙を流していた。
「んで...。これからなんやが、あんたうちの子にならんか?」
「え?」
エヴァンはとても驚いた。
「俺らはもうあんま長くない、けどあんたを放っておくのもできへん。」
「遠慮しなくていいからね。嫌なら嫌って言ってもいいんよ。」
「二人がよろしかったら!お願いします!」
「わかった。あんたは今日からうちの次女や!」
「次女って、どこかに娘さんがいるの?」
「ああ、どっかにおる、俺はまだ諦めてへん。」
「どう言うこと?」
ハリナは少し暗い顔をしている。
「もう50年近くは前に、いきなりいなくなってね。魔法が大好きな子で、魔法の研究に行ってくるって言ったきり...。」
「お名前は...?」
「『ネオン・テール』って言ってね。素直で好きなことに没頭するまっすぐな子だったわ。」
「ハリナ。せっかく家族になったんや、あんま暗い話はすんな。」
「あら、ごめんなさい。」
「すまんがこれだけ暗い話をさせてくれ。あんた、あの襲われた村に行きたいか?」
「...。私はこのまま記憶が蘇らずに生きたい...。」
「そうか...。まぁ今日はめでたい日や!宴会でもするか!」
「もう貴方ったら。」
3人で笑った。本物の血で繋がった家族のように。
3年後になった。
ネブロスと、ハリナで相談し合い、少女はエヴァンと名付けた。『エヴァン・テール』が彼女の名前である。
「ただいまー。」
「おかえり。エヴァン。」
ネブロスは歳からか足が悪くなり、狩に行けなくなってしまい、狩猟はエヴァンに任せていた。
「ハリナさんも、ただいま。」
とエヴァンは遺影に言った。
ちょうど1年前、ハリナは持病によって亡くなった。
「今日は猪だよ。」
「エヴァンは流石やな。」
「何がいい?」
「何でもええ。」
最近エヴァンは森へ狩猟に行った時、隠れてやっていることがある。
魔法の訓練である。
独学ながら、自分のような不幸な人間が少しでも減ってくれることを祈り、将来は魔物に攻め込まれる村を守る人になると心に決めていた。
こんな生活が続いた。
しかし、そんな平穏な生活、この世界で続くわけもなかった。
ダッダッダッダッ、と大量の足音が聞こえた。
「何の音??」
「これは...まずいな。」
「何かわかるの?」
「魔物や。多分ここら辺に魔王軍の集落を作るための偵察や。ここら辺の村は全部攻め尽くしたからな、あとは俺らみたいな家を殲滅して資材を集めに行くやろう。」
「ならまずいよ!早く逃げないと!」
「エヴァンだけ行きな。俺は足が悪い。逃げ切れへんわ。」
「でも!」
「でもやないわ!俺にまた娘を失えと言うんか?!」
「一緒に...!」
「うるさい!さっさと逃げろ!周りの奴らに知らせて避難させろ!」
「何でこんなことに...。」
エヴァンは泣き崩れた。
「これがこの世界や。仕方ないんや。さっさといけ。」
エヴァンは涙を止め、立ち上がった。
「待ってて、ネブロス...。」
「待て!立ち向かったところで意味あらへん!はよ逃げろ!」
「私は!もう家族を失いたくない!」
エヴァンは扉を勢いよく閉めて出て行った。
「エヴァン!!」
エヴァンの覚悟は決まっていた。
今こそ、訓練した魔法を使い、大切な人を守る時。
「前方!人間一人!戦闘体制!!」
魔物に感知された。
大将はいない。小さな家を襲うだけだから下っ端だけで事足りると思ったのだろう。
「殺れ!」
魔物軍が一度に魔法を撃って来た。
無数の魔法、これを防御魔法で守ったところで意味はない。
エヴァンは反射的に自分は知らない魔法を使った。
「「「反鏡呪!!」」」
エヴァンの前に大きな鏡が出て来た。
それは魔物が放った無数の魔法を全て跳ね返した。
その反射は強力で1000人はいた魔物の半分以上を倒した。
「何者なんだ!こいつ!」
「逃げろ!」
魔物は背を向け、逃げて行った。
エヴァンは不思議な感覚だった。
自分の知らない魔法をいきなり使い、それは今まで出した魔法の中で一番の完成度だった。
そして魔法の力で家族を失ったエヴァンが魔法の力で家族を守った。
すぐさま走ってネブロスの家に帰った。
「ネブロス!魔物を追い返したよ!」
「そんな...どうやったんや!?」
狩の時に魔法を使っていたことを告白した。
「にしてもすごいな。さすが俺の子や。」
と言った瞬間家の扉が爆発で吹っ飛んだ。
「次は何!?」
「お前...よくも俺のダチを...!」
魔物が杖を構え、エヴァンを狙った。
エヴァンは固まり、反撃ができなかった。
「「「死刻冥!!!」」」
その魔法は狙い通りに飛んだ。
魔物の頭を貫通し倒れた。
「ネ、ネブロス!?」
「俺の第一子は魔法が好きやった。よく見してもらったわ。見様見真似でできるもんなんやな...。」
ネブロスは掠れた声を振り絞って喋っていた。
「ネブロス!喋らないで!」
エヴァンは何かを察していた。魔法は自分の身を守り、身を削る。
「すまんな...。エヴァン...。俺は自分の命の代わりに娘を守ることができて...。本望や...。」
「ネブロス!!」
「エヴァン...。幸せにな...。」
「ネブロス!!!」
ネブロスは息絶えた。
魔法を使い、寿命を使い切ってしまったのだ。




