①飛行船ってこんなの
「飛行船」という言葉を聞いてどういうものをイメージされるでしょうか?
例えば、ジブリの作品に出てくる乗り物、ゲームに出てくる乗り物……などの印象が強いのかもしれません。昔に外国で起きた炎上事故の白黒画像なんかを想像される方もいらっしゃるかも。
イメージされる形もきっと様々かと思います。楕円形の風船だと思う方もいれば、空飛ぶ要塞的な物々しい雰囲気のものだという方もいるのかも……
実際に見た事がある方も、一度も見た事がないという方も、何の事だかさっぱりわからないという方もいる事と思います。若い方なら尚更の事、馴染みのない人の方がおそらく多いのではないでしょうか。
私は、この飛行船というものが大好きです。
飛行機が好きとか、ブルーインパルスが好きとか、そういった趣味はきっとよく聞くと思うのですが……
「飛行船が好き」なんて、おそらくそんな人、周りに1人もいないですよね?
私自身、少し特殊な趣味であると自覚しています。
今現在の日本には、パイロットが乗り込んで操縦する有人飛行船は1機も存在していません。
様々な理由があっての事ですが、今後の日本に飛行船が復活するという事は、現実的に考えて難しい事であると言えるでしょう。
空にフワフワと浮かぶ飛行船が、地上の人達をワクワクさせていた温かな時代もあった事を、1人でも多くの方に忘れないでいてほしいなぁと純粋に思うのです。
私個人が思っている、ただそれだけの事なのですが、その為に出来る小さな事のひとつとして、ここに飛行船のお話をひっそりと綴っておこうと思いました。
このページの内容に興味がある方は、ほぼいらっしゃらない事と思います。正直な所、ほとんどの方にとってこの上なくつまらないものとなってしまう事を先にお伝えしておきます。
ついでに書いておくと、この記事は約5000文字くらいあります笑
それでも構わない、または飛行船に興味があるという方のみ、この先を読み進めて頂けると嬉しいです。
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飛行船は勿論実在する乗り物で、決して作品の中だけのものではありません。
過去に日本の空にも存在し、主に企業や行事などの宣伝目的で飛ばされていました。最盛期はおそらく1970~80年代辺り? なのではないかな、と。
私自身は昭和の終わり頃の生まれで、子供の頃に初めて飛行船を見ました。
某写真メーカーさんの飛行船で、実家の前の上空でホバリング(空中で停止)している所を父と一緒に見上げ、大変な衝撃を受けました。
私は北海道在住なのですが、地元は札幌などの都会からは離れており、飛行船が来るなんて全く思いもしておらず。小さな胸が歓喜に躍った事を、今でも覚えています。その時の事についてはまた別の機会にお話出来たらと思います。
・日本を飛んでいた飛行船
先ほども書いたとおりで、パイロットが乗って操縦する飛行船は、今現在の日本には存在していません。
宣伝の方法は様々、莫大な費用をかけて空からアピールをしなくても、今ではいくらでも見てもらえる機会がありますし(個人的には、それでも空からアピールしてほしいと常に思い続けているのですが)
少し調べてみると、おうち屋さんや携帯電話の会社さん、タイヤ屋さん、ビール屋さん、通販会社さん等々……
今現在でもその名前を聞けば誰だって必ず知っているような有名な会社さん達が、そう遠過ぎない過去に日本で飛行船を飛ばされていたようです。90年代、2000年代辺りの事なのかなと。
2005年の愛・地球博の際には、広報活動として外国の空も飛んでいたようです。この飛行船は、テレビなどで目にしたのか私も何となく記憶にあります。
ちなみに私が実際に見た事のある飛行船は、子供の頃に初めて見た写真会社さん、そして大人になり札幌に出て来てから見た、BMW、通販会社さん、そして保険会社さんの飛行船。札幌ではこれら3社の飛行船はとても頻繁に見ていました(同時に3機飛んでいたわけではなく、1年に1機、いずれも春~夏時期の事だったと思います)。他にもいくつか見たような記憶がありますが、鮮明に覚えているのはその3機です。
保険会社さんの飛行船は大きなスヌーピーの絵柄をつけた「スヌーピーJ号」。全長39メートル、総重量2トンの飛行船です(これでも飛行船の中では小さな方)。
もしかすると見た記憶のある方もいるかもしれません。日本で年間を通して運航されていたものの中では、これが一番新しい飛行船なので。
私はこのスヌーピーJ号のお陰で、飛行船ファンとしてとても素晴らしい時間を過ごす事が出来ました。スヌーピーJ号が北海道に滞在している間は、休日を全て飛行船鑑賞に当てるほどに追っかけをしていました。その事についてもまた別の機会に……と思います(今話し出すと、この記事がエンドレスになり兼ねません……笑)
年間を通して日本縦断をしていた飛行船はスヌーピーJ号が最後で、2016年いっぱいまで運航されていました。
その6年後の2022年、今からたったの3年前に、実は単発で一度だけ有人飛行船が復活していた時期がありました。それは90年代にも飛行船を飛ばしていたビール会社さんのリニューアルPR用のもので、2か月間の期間限定運航でした。
日本全国を縦断するという予定で、私の住む北海道も飛行ルートに入っており大変楽しみにしていたのですが、私は結局この飛行船を見る事は叶いませんでした。この時は人生で一番と言ってもいいほどの絶望を味わいました。その時の事もまた、別の機会に……と思います。
ただ、有人飛行船の復活は大変嬉しい出来事でした。今の日本でも、飛行船は飛べるんだ…! と、希望を持てたので。
物価高騰の嵐など、今では色々と不安要素が増えてしまいました。今は無理でも、今後またいつか……と、私としては常に希望を持って待ち続けています。
・飛行高度、ラッキーサイン
街の上空をゆっくり、フワフワと飛ぶ姿を目にした事がある方もいらっしゃると思います。
飛行船が宣伝飛行している時の高度は、約1000フィート。地上から大体300メートル前後くらいだそうです。
そして、飛行船のパイロットさんからは、地上にいる人達の様子がよく見えているそうです。
初めて聞いた時に信じられなかったのですが、飛行船に向かって手を振ると、パイロットさんが気付いてくれて、何かしらのリアクションを返してくれる、という事があります。
それは「ラッキーサイン」と呼ばれていて、ライトをチカチカとパッシングしてくれたり、旋回や、真上まで飛んできてくれたりと……
飛行船と、地上にいる人々とで、コミュニケーションを取る事が可能なのだそうです。
なのだそうです、と書きましたが、私も実際にパイロットさんに気づいてもらえた事が何度かあります。飛行船に向かってブンブンと両手を振り続けていると、遠くからゆっくりと自分の真上まで来てくれた……という経験が数回ありました。
今の時代にも飛行船がもし存在していたら、これはたくさんの人にやってみて頂きたいなぁと思う事のひとつです。
もしもいつの日か飛行船が復活する事があれば、是非。
・係留地、クルー
飛行船を飛ばすには、着陸後に停めておく為の「係留地」となる場所の確保も必要になります。
私は北海道内の係留地にしか足を運んだ事はありませんが、普段は使われていないような広大な空き地だったり、宇宙開発関連施設の一部だったり、飛行場の一部だったりと……とにかく広い広い敷地の中に停められていました。
飛行船は「マスト」と呼ばれる柱のようなものに、先端部分を繋ぎ止められる形で係留されます。常に地上からふわふわと浮いた状態で、風向きによって様々な方向に船体が振られます。今日右を向いていた飛行船が、翌日見に行ったら真逆の左を向いていた、という事も珍しくありません。
係留地には、飛行船のクルーさんが常駐されています。通常は1名、強風時には2~3名。見守り業務は24時間365日、晴れでも雨でも朝でも夜でも、本当に大変なお仕事だと思います。
飛行船の離着陸時になると、ワゴンに乗ってたくさんのクルーさんが係留地にやって来ます。飛行機などと違って、飛行船は離着陸に人力が必要になります。数人で空に押し上げたり、下りて来た所をキャッチしたりと……あれだけ大きな乗り物なのに、人の力がなければ上がり下りや移動が出来ないという所に、私は温かさを感じます。
そして私が何よりも感動したのが、クルーの皆さんの、見学客に対する姿勢でした。
彼らは係留地に飛行船を見に来る人々それぞれに、大変温かな対応をしてくれます。いつも笑顔でご挨拶をして下さり、他では手に入らない飛行船グッズをくれたり、ゴンドラに試乗させてくれたりもします。
私も、とても温かなおもてなしをたくさんして頂きました。
クルーさんがいつも使用されているアウトドア用のチェアを貸して下さったり、ペットボトルのお水をくれたりと……(お水を頂いたのはもう10年も前の事なのですが、その時のペットボトルは何となく捨てられなくて、今でもとってあります笑)
ゴンドラに乗せて頂いた事も2回あります。
私自身は、飛行船鑑賞は常にひっそりと、クルーさんや他のお客さんの邪魔にならないよう少し離れた所でするという、自分なりのルールを持っていつもやっていました。
なので基本的にはクルーさんとお話をする事はなかったのですが、こんな私にも温かく声をかけて下さった事で、唯一無二の貴重な経験がたくさん出来たと思っています。
係留地へ足を運んでクルーの方と触れ合ってみて欲しいというのも、飛行船が復活した時に是非たくさんの方にして頂きたい事のひとつです。
・パイロット
日本人の飛行船パイロットは現在、たった1人しかいないのだそうです。
Aさんというベテランの男性の方で、スヌーピーJ号も勿論この方が操縦されていました(1人でされていたわけではなく、実際には外国人パイロットさんと交代でのご勤務という形です)。
日本には今Aさんしか飛行船を操縦できる人がいないと思うと、大変貴重な存在ですね。
ちょうど10年前、札幌滞在時の係留地で一度だけ、私はこのAさんと直接お話をした事がありました。なぜ私なんかがパイロットさんとお話をする事が出来たのか……そこも、ここに書くと長くなってしまいますので、またの機会にと思います。
・北海道は避けて通れない
1年をかけて日本縦断していた飛行船ですが、年に一度「耐空検査」という法定点検を受けなければなりません(車で言う車検に当たるもの)。毎年その耐空検査が行われていたのが、北海道でした。
十勝にある大樹町と言う町。宇宙開発事業の施設があり、そこには巨大な格納庫があります。飛行船は毎年7月頃になると、耐空検査の為に大樹町に滞在していました。
空港の格納庫などをお借りして作業を行う事は出来るようですが、耐空検査を行える施設は日本でもこの大樹町だけという話を聞いた事があります。そうなると、飛行船は北海道滞在を避ける事は出来なかったという事になります。
そんな、飛行船にとって重要な場所が、自分の住む北海道にあるという事が個人的に何だかとても嬉しかったですね。
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私自身、なぜ、時間もお金もかけて追っかけをしたり、こんなふうにネット上で語るほどに飛行船が大好きなのか、その理由は自分でもよくわからないというのが本音です。
子供の頃に初めて実家の前で見た時の衝撃、その時に私が飛行船に強く強く心を奪われて、言ってしまえば、飛行船に恋をしたのだと思うのです(割と大真面目に言っていますけど笑)
その時の事が、大人になってからの私を突き動かしていたのは間違いないと思っています。
飛行船を見た時に感じるワクワクは、無条件で、平等で、誰もを童心に返らせると思っています。
船体に書かれている文字は宣伝と言う目的でつけられているものでしょうけれど、飛行船は宣伝よりももっと大事なものを乗せて飛んでいる、私は心からそう思います。
大変長くなりましたが、まだまだ長くもなりそうなので、この辺りで強制的にしめようと思います。
私が知っている飛行船に纏わるお話を綴って来ました。
私の拙い言葉だけでは全ての魅力は伝わらないので、いつの日か是非直接見て頂ける機会があったら……と、心から願っています。
この場所に書く内容が、過去の鑑賞を振り返るものじゃなく「リアルタイムレポ」になる日が来る事を夢見て……笑
最後までお読み下さった方がいらっしゃいましたら、ここまで本当にお付き合いありがとうございました。
もしまた機会があれば、今度は私自身が実際に体験した出来事や思いなどを綴ってみたいと思います。