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「あ………あなたぁ!」
口を開いたのはツードの妻、スリールだった。
常時こんな感じで、猫なで声も炸裂させている。
スリールはツードに寄り添い、腕に手を絡める。
「いけませんわ。ほら、もうこんな時間」
スリールはホールの時計を示し、それから顔を寄せた。
ワンスもつられて壁の時計を見る。
そして驚愕の事実を知った。
なんとツードが爆死する一時間前に戻っていた。ありえない。が、現実は今、目の前にある。ゆっくりとではあるが、刻一刻とツードを死へと誘うように秒針が時間を刻む。
「今日はもうお酒はおよしになって? もう休まれてはいかがです? ね? そうしましょう。あなた、最近疲れが酷いと嘆いておられたではありませんか。せっかくお休みが取れたのですから。パーティーのことはなにも心配いりませんよ。また明日に続きをすればいいのですから」
激務に追われる大企業の会長ともなれば、一日の睡眠時間など短いに決まっている。抱えるストレスも常人の比ではないだろう。
そんな夫を見かねて、良妻たるスリールは決して無理をさせず、愛する夫の体調を優先した。
すると、ツードの娘であるフォームも加勢する。
「お父様。お疲れなのでしょう? 主催たるお父様が不健康な顔をされては、私たちも不安になってしまいます。どうぞお休みになってくださいませ」
良妻の娘も、愛する父を思いやることのできる器量を有していた。
比べてワンスの妹とくればどうだ。
ワンスが最後に顔を見たのは五年前。妹は当時十三歳。貧しい畑を耕すことしかできない両親を辟易し、喧嘩をするばかり。
結局都会へ憧れ、三つ歳が上の村長のドラ息子と「外に連れ出す」ことを約束して性交渉をし妊娠。出産をしたかどうかは知らないが、母体としては肉体が未熟ゆえ、最悪母子ともに命を落としているかもしれない。それこそ親不孝同然だろう。
穢れを知らないツードの娘、フォームは父親の健康を心配できる良い子だ。もしツードの娘ではなく、町娘であったら交際を申し出ていたかもしれない。
さて───とワンスは思考を切り変えた。
ここから先はすでに見ている。
良き妻と良き娘に心配されては、喜ばない男はいない。「そ、そうか?」とニヤニヤしながら退室を決めた。
もう知った未来だ。スリールとフォームの発言も、推理小説が好きな影響で、それが何気ない会話であろうと記憶できるようになっている。すべて合致。
そしてツードの発言もまた、
「い、嫌だ!」
「………うん?」
違っていた。
ツードは肯定しながら退室するも、なぜか知った未来とは異なる結果となる。
「わ、私はまだ寝ない! 寝てたまるものか!」
「なにを仰っていますの? フラフラになるまでお酒を飲んでいらっしゃるというのに」
「そうですよお父様。お体に障りますわ」
「うるさい! まだ寝てたまるか!」
ツードが拒否した影響で、スリールとフォームの発言が新規で更新されていく。
いったいこれは、どういうことなのだろうか。
始まりました。茶番劇。
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