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1-2 

 だがそんなワンスに転機が訪れた。


 人生に一度、あるか無いかの究極の二択。


 ある日、簡単な修理の依頼を受けて、自身では完璧の出来だと称するも客は満足に至らず、そして若く後ろ楯もなく無名であったため舐められ、逆に値切られてしまった。


 ガクリと肩を落として憔悴するワンスは、昼食の安価な硬いパンを湯でふやかして食べるのが好きという変わった嗜好をしていたため、ホームレス集団の焚き火を借りて煤けた鉄鍋で湯を沸かしていると、路地裏で喧騒が聞こえたため気になって足を運んだ。沸騰した湯で満たされた鉄鍋を掴んたまま。


「おい、おっさんよぉ。この世に未練はあるかぁ?」


「もしあるんだったら、利口にしてた方が身のためだと思うぜ」


「そうだなぁ。とりあえず、宝石や指輪の類はここで預けて行ってもらおうかねぇ。なーに。心配すんなって。あとで返すからさぁ」


「俺たちゃ別に、あんたを恨んでなんかないんだぜ? むしろ善意の塊なんだよ、塊ぃ。この通路の奥じゃ、ヤベェ連中がジュエリーチェックしててな。見つかったら没収される上に殺されちまうんだとよ」


「おー。なんて優しいんだろうなぁ俺たちは。あんたがそうならないよう、助けようってんだから」


 数人のギャングたちが、中年男性に集っていた。


 口々に被害者の身の心配をするようではあるが、要するに強盗だ。それにしか見えない。


 現に被害者の男は怯えていて、断ったら殺されると直感で悟り、黄金の指輪を外そうとしている。


 こういう時は見て見ぬふりをするのが最善であるとワンスは知っていた。伊達に五年をこの町で過ごしてはいない。ああいう非社会的勢力はどこにでもいる。警察とも繋がり(パイプ)があるだとか。


 因縁を付けられれば商売にもならない。ワンスはそそくさと去ろうとした───次の瞬間。


「おっ!?」


 なんとも運が悪かった。


 石畳のタイルの、ちょっとした隆起した部分に躓いて大きく全身を躍動させた。ついでに変な悲鳴まで漏らす醜態。


 ズチャ。ガツン。と、まず体を打ち付けて、最後に鍋を打ち付ける。そんなことをすれば大きな音が鳴る。


「………ぁあん?」


 終わった。とワンスは悟った。


 ギャングたちが素敵なスマイルを浮かべてワンスを見ている。


 絡まれる。逃げなければ。助けを求める被害者の男のことなど構っていたら命まで危うくなる。


 急いで立ち上がり、湯を張った鍋を手に踵を返そうとして、とある違和感に気付く。


 五秒後のことだった。




「おぎゃぁあぁぁぁああぁあぁあぁぁああああああああっっっ!?」




 かの有名な聖者の生誕時だってこんな汚い泣き方はしない。そんな絶叫が響き渡る。


 なんということだろうか。偶然の出来事だったにせよ、この不運を嘆かずにはいられなかった。


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