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「ククク………なんだ、こりゃ………全部、わかっちまった」
寝室の奥に進めば進むほど見えてくる。
あるものは巧妙に。あるものは杜撰に。トリックが仕込まれていた。
「あー………そうか。だからツードさんを酩酊させる必要があったんだな。酔っ払ってれば、部屋の汚れなんかそこまで気にならないし。そこになにがあるのかなんて、気にもならないよな」
床、壁、天井───すべてを見渡して、笑いが止まらなくなる。
「ああ、スッキリした。お陰で全部繋がったよ。トリックとしてはお粗末だけど、こりゃすごい。こんなの見たことがない! 前代未聞だ! なんでこうなっちゃったのかなぁ。狙ってたにしても、こりゃあ………クックック」
床にしゃがんだワンスは笑い声を殺そうとするも、またひとつ見つけてしまい、さらに笑ってしまう。
こりゃあダメだ。と直感で悟り、誰かが声を聞きつける前に寝室から出た。なるべく自分が入った痕跡を消しながら。
「あー、笑った。こんなの、どんな小説でも書けないぞ。いや、見たことがない。なんの偶然かは知らないけど、事件前に戻れてよかった。俺からこれから書く小説は、もっと深みを増す。だとすれば………俺がこれからやることはひとつだよな」
ひとしきり笑い終えたワンスは廊下を行く。階段付近で声が聞こえた。
「ツードさん!」
「お? おお、ワンスではないか………ではない! お前、あれだけ寝ろと言っておいたはずなのに、こんなところでなにをしている!?」
勇者の凱旋を三十分以上は継続していたツードが偶然にも下にいたのだ。
声をかけずにはいられなかった。
「俺のことなんてどうでもいいんですよ!」
「ぅおっ!?」
段差を飛ばす勢いで駆け下りたワンスは、ツードに迫る。
「ツードさん。この前本で読んだんですけどね。飲酒後の運動は体に良くないんです。ああ………ほら、顔色もよくない。これ以上は本当に障ります。ツードさんこそお休みになるべきです!」
ワンスの瞳は、少年のように輝きに満ちていた。
それこそ、踏み込めば死あるのみという地雷原に、恩人を叩き落すしかないという欲望で満ちた目だった。
ツード・ナンバーズ。四十三歳。
ナンバーズといえば三代に渡り、企業を発展させた名前だ。
ツードは三代目として二代目を超越する勢いで仕事に没頭し、さらに地位と名誉を手にした。
国の重鎮、王も謁見済み。政治家とも強いパイプがある。
事業発展のためなら手段を選ばなかった。噂になっていた右肩上がりの企業があれば、目障りだからとマフィアに依頼して潰すような真似をした。
当然治安維持のため警察も動くが、そこのトップたちともすでに繋がりを得ていたため、金を握らせて黙らせた。
すべてが順風満帆で、満ち足りた人生のロードマップを進行し、いずれ国から称えられる存在となる。
それがツードのすべてだった。
だったのに───
やはりワンスは下衆でした。信じられます? こんなのが主人公なんですぜ?
で、次回からツードの回想に入ります。
笑えます。きっと。そしてなんと、まだ中盤だというのに型破りなこともします。でもそれでいいのです。誰が犯人なのか、きっと理解できます。




