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産業革命の影響で、より良い景気をもたらした時代。
貧富の差が露骨めいて社会で浮き彫りとなり、巨額の富を得た者のおこぼれをもらうべく労働者たちが集う。
そんな富める者が所有する、とある山奥の別荘にて。
ツードという富豪が、何者かに殺されるという事件が発生した。
その日はツードの生誕を祝う会を身内で慎ましやかに行うという、なんら疑うこともなく、そして普通に翌日の朝日が拝めるささやかな日常であったはず。
だがツードは死んだ。前日は首都に所有する大きな館で、政財界のトップや同業者のトップらが集い盛大なパーティーを行ったが、まさか翌日の誕生日が命日となるなどツードは考えもしなかっただろう。
別荘は巨額をかけて建築したものであり、ツードもなんらかのイベントでよく使っていた。
工場丸々ひとつ入りそうな敷地面積に二階建ての館。時代の最先端をいくような画期的な造りを貪欲に欲するかのごとく、毎年改装を行っては訪れた名の知れた著名人たちの度肝を抜く。それを可能とするほど成功を収めたのだ。
ツードは自室で死んだ。
密室殺人だった。誰も訪れない部屋が───木っ端微塵に消し飛んだ。
その日は生憎、台風を思わせる豪雨が叩き付けていたため、館の全焼は免れる。
誰もが主の、兄の、夫の、父の死別を悲しんだ。一通り悲しみ終えると全員で冥福を祈った。
ところがそこに、救世主とばかりに異を唱える者がいた。まさにイレギュラーたる存在だった。
彼の名はワンス。本職は技師だが、推理小説好きがここぞとばかりに猛威を発揮する。
「みなさん。落ち着いて聞いてください。これは単なる事故ではありません」
いきなりなにを言うんだコイツ。
全員が白い目を向けるもワンスは怯まない。
「これは───他殺。とあるトリックを用いた殺人事件です!」
誰もが「もう黙れよ部外者」と心のなかで侮蔑する。
無理もない。
ワンスはツードの身内ではなかった。偶然呼ばれただけの技師だ。それも生産するのはどれもパッとしないアイデアで、売上だって日々食っていけるのがやっとなくらいの。つまり貧困者。この場にいることが一番相応しくない部外者。
「先程現場を見て参りました。そこで、気になることは多々あったのですが、最終的に決定打となったトリックを見破ることに成功しました。これは粉塵爆発を用いた事件です。………そして、犯人もすでにわかっています。あなたですっ」
ワンスが指をさす方にいた犯人は動揺する。
全員が驚きを隠せなかった。
「証拠ですか? よろしい。実はあなたの部屋も見せてもらいました。すると、ベッドの下から出てきたのですよ。小麦粉が付着した衣服がね。あなたは小麦粉をあの部屋に仕掛け、拡散するように仕掛けた。火種となるのは、ツード様は愛煙家ですので、葉巻に火を付けた時。部屋は爆散し、ツード様は骨まで残らぬほど砕けた。これが真実です」
ここまで言うと、犯人は膝から崩れ落ちる。誰もが信じられないといった顔を向けた。
「あなたが犯人だったのは、残念です。ツード様にとっても。しかし犯してしまった罪は消えない。これからあなたは罪と向き合わなければならない。お辛いとは思いますが、お立ちください。ご自身の罪を償って、それから新しい人生をグベアッ!?」
ワンスは犯人を説得し、新しいスタートを切らせるべく手を差し伸べる。
だが、直後に背後に重たい衝撃を感じた。
脇腹辺りが酷く熱い。
なんだ? と振り返りながら熱の原因を確認する。
脇腹には深々とナイフが突き立っていた。シャツが赤く染まっている。体が酷く冷えて、そして意識が遠のいて───
桐生落葉と申します。
この度、初めての推理小説に挑戦しました。
しかし、なんとなんと。先にトリック書いちゃった。名探偵ワンスも死んじゃった。
つまり、普通の推理小説ではないということです。
色々と違和感があるでしょう。それが正解です。
さて、死んだのに次があるかって………タイトルをご覧ください。ここからが本番です。
先んじて申し上げます。これはコメディサスペンス! そう、コメディが付きます。これ重要。
これから始まる三つ巴どころか四つ巴の、普通ではない推理をお楽しみください。
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