黒い鎧はどこの人
「凄まじい増悪の気を感じたな……あんな奴が敵に居たとは知らなかった。今戦えば勝てたかどうか……こちらに何もせず撤退してくれて良かった」
そう言ってサーガさんは安堵したように息を吐く。禍々しい感じがしたし雰囲気的に強いんだろうなとは思ったけど、サーガさんほどの人が言うならとてつもなく強いのだろう。
異世界人でチート能力もある人を不安にさせるなんて、この世界の人なのだろうか。
「二人とも大丈夫ですか!?」
気になってサーガさんに思ったことをそのまま問いかけ、それはと言いかけた瞬間に左の方から声が飛び込んでくる。視線を向けて見るとユーイさんがこちらに向かって走ってきていた。
十字架が先に付いた杖を両手で持っており、救援に駆けつけてくれたのかと考え感謝を述べる。
「いえ、私が来た頃にはもう敵は居なかったので何も。ナイフが仁太さんに飛んで来たを見て、急いで魔法を使って防いだくらいで」
救援に来ようとしてくれたのは当たりらしく、しかも魔法を使えるということにも驚く。彼女が言う”くらいで”のことが生死の分かれ目だったので、九死に一生を得たレベルだった。
「反応出来ていなかったので危うく死ぬところでした……命の恩人ですマジで。本当に助かりました!」
「マジ……というのはなにかの称号ですか?」
「あ、いや、マジというのはですね真面目から元は来てまして、その後色々あって本気と書いてマジと読んだりですね……説明している場合じゃないですね。すみません、間一髪だったところを助けて頂いたのに変な言葉を混ぜてしまって」
サーガさんが同じ世界から来たと聞いて、普通に向こうの言葉を話してしまったが通じる訳もなく、感謝を伝えるのに雑だったと反省する。
ユーイさんはこちらの返答を聞くとツボに入ったらしく、口に手を当てて笑った。そんな言葉があるのかと思われたんだろうなと考え、自分も面白くなってしまい笑ってしまう。
「おーいユーイ!」
彼女が来た方向から親父さんたちも走って来て合流する。町に入ってきた魔王軍はすべて倒したことと、率いていた魔族から聞いた話を伝えると皆驚いていた。
兵士の一人がこちらが引き渡した男を急いで見に行ったものの、直ぐに慌てて戻ってくる。また襲撃でもあったのかと思っていたが、どうやら牢屋に入れていた男が死んでいたらしい。
胸に突き刺さっていたナイフを抜こうとしたところ、煙のようになって消えてしまったと言い、サーガさんを見ると頷いた。
あの黒い鎧は男を始末するために混乱に乗じて入り込み、目的を告げた後でこちらをついでに攻撃してきたのだろう。
用意周到だなと思いつつトカゲの魔族の言葉を思い出す。天使の名を出した時に姫と言い、知っているなら勇者だと言っていたが、なぜ功績も上げてないのに勇者と呼ぶのだろうか。
魔王ゾンアークという人物も気になるが、勇者とこの段階から相手も言い始めたのが気になる。ユーイさんの親父さんが教えてくれた古い本もでっち上げなのに、敵まで乗ってくるなんてどういうことなんだろう。
胸騒ぎを感じながら親父さんたちに連れられ、町の人たちが逃げているという屋敷へ移動した。屋敷に入ると集まっていた人たちはこちらを見るなり駆け寄り、握手や抱擁をして喜びを表し大きな歓声を上げる。
皆にもみくちゃにされ身動きが取れなかったものの、ユーイさんが止めに入ってくれて解放された。
炊き出しとして準備していたものを宴会料理にしようとなり、皆で準備を進めていく。
魔族の襲撃があったというのに皆パワフルだなぁ、そう準備する皆を見ながら驚いているとユーイさんに
「皆これまで襲撃されては壊され奪われ、去って行った後に戻って復興しての繰り返しでした。今回は仁太さんが倒してくれたから皆こんなに元気なんですよ」
そう教えられる。良いことをしたなと思い照れていたが、サーガさんも戦ってくれたので自分一人じゃないっすと慌てて訂正した。
皆で準備をし終えて席に着き、いざ会食となった時にユーイさんの親父さんが席を立つ。咳払いを一つした後で今回の戦いの説明と感謝、そしてここステートの町の町長でハジマという名前だ、と自己紹介を受ける。
「仁太殿にはしばらく町に逗留して頂き、周辺のことなどを知っていただければ幸い。我らも勇者殿に負けぬよう頑張って復興しようではないか!」
あまり勇者と言わないでほしいなと思いつつ、皆が盛り上がる中サーガさんに逗留するんですかと小さな声で聞くと、この世界の事や地形も分からんし少しの間なと言われた。
出来れば修行もお願いしますと頼むともちろんと言ってくれたので、感謝しサーガさんと共に料理を楽しむことにする。
宴会も大分進み酔っぱらって寝る人も増えて来た頃、町長かこの屋敷の部屋を使ってくれと案内され、そこで就寝することとなった。
―お前は偉い奴だからな。小さい頃から一人でこんなところまで来て。俺には真似できない。
「良太!?」
屋敷の中の一室を借り、ふかふかのベッドに入ると目を閉じうとうとしていたところに、突然幼馴染の良太の声がする。
ベッドから上半身を起こし探したが良太が居るはずもなく、もう一度寝ようとしたが見れば朝になっていた。
どうやら夢だったらしい。それにしても昔の何気ない良太の一言を思い出すなんて、どういうことなんだろうか。
答えが見つかるような展開にはいくら考えてもならず、どうにもすっきりしないままベッドから出る。着替えようとしたところでユーイさんの服を着ていたのを思い出し、この格好のまま皆の前にいたのかと思うと顔が熱くなった。
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