対決! トカゲの魔族
翼を大きく広げ一旦上へ向かって飛び、少しして止まると勢いを付けて降下して来る。今背を向け距離をとればあっという間に追いつかれ、強烈な体当たりを受けてしまう。
防具も持ってない状態でそんなものを受けたら間違いなく死ぬ。どうしたら良い?
「死ね小僧!」
瞬きする間に目の前まで来てしまった相手に対し、球技大会で対戦した野球部の投げるドッジボールの玉が重なり、とっさに横へ飛んで回避した。
「な、なぜたかが小僧が俺の突進を、あの距離まで詰めたのに避けられる!?」
後方へ暫く飛んでから旋回し上空へ戻ると止まり、こちらを見下ろしながらそう叫んだ。球技大会で受けた球の速度に似ていたから避けられた、なんて説明したところで伝わらないだろう。
まさか異世界に来て一番最初に役に立ったのが体育の授業だった、なんて思っておらず意外と役に立つもんだなと嬉しくなる。
「おのれ……今度こそだ!」
もう一度上の方へ飛び再度降下してきたが、今度は先ほどよりも高い場所から急降下してきており、ドッジボールの玉では駄目だと思った。
ならばと野球部の体験入部をさせられた時に、学校のエースが投げた球を相手に重ね
「くらえ!」
剣を立て左足を上げて曲げ構え、タイミングを合わせて振り抜くと
「な、なぎ!?」
相手は見慣れない動きに対応できず、三鈷剣の平たい部分が顔に直撃し、一回転しながら通り過ぎていく。
刃の方を向ければ良かったと後悔しつつ、相手は無事では済まないだろうし今がチャンスだと考え、転がって行った先へ走る。
相手は先の方の通路に大の字で寝転がっており、気絶しているように見えた。このまま一気に距離を詰めて斬ればそれで終わりになるだろう。
剣が悪以外斬れないというデメリットがあるのは本当に助かる。命を奪うことになったとしても、悪以外の誰かを斬るなんて正当化しようがない。
明確な悪以外は斬れないのだから、迷うことなく剣を振るうことが出来た。
「これで……!」
「馬鹿め!」
地面スレスレに切っ先を向けて走り、剣が届く範囲になったところで動かしたところ、突然体が浮き上がる。
見れば尻尾を使って体を上へ持ちあげていた。切り上げは空振りになったものの、せめて尻尾だけでもと思い斬りかかる。
「甘いなぁ小僧……だが甘い今だからこそ息の根を止める! 我が魔族の為にもな!」
地面から尻尾が離れぐるんと一回転し、尻尾をこちら目掛けて振り下ろしてきた。動きがスローモーションのように映り、直撃は免れないかと思って受ける覚悟をする。
「もらっ……なに!?」
あと少しで直撃というところでなにかが飛んで来て、避けきれずにそのまま当り吹き飛ばされて行った。
「なんとか間に合ったようだな」
「サーガさん!」
後ろで戦っていたはずのサーガさんがそう言って来たと言うことは、飛んで来たなにかは例の牛の人なのだろうと思ってみると、先の方で巨体が転がっている。
助けてくれてありがとうございますとお礼を言うも、まだあのトカゲが残っていると返され、たしかにその通りだと緩んだ気を引き締め直した。
辺りを見回すと牛の人が転がっている場所から少し離れた、お店の中からトカゲ人が右肩を掴みながら出てくる。
「な、なぜ俺たち隊長クラスがこうも簡単にやられる……!? この町にはそんなやつはいなかったはずなのに」
「強い奴が居ないからこの町を狙ったのか!? なんて卑怯な奴だ!」
「戦争に卑怯も何もない! 互いの陣地を命を懸けて取り合っているのに、お行儀よくやってられるかよ!」
「卑怯者には幸運の女神は微笑まない!」
「女神なんぞ知るか! 魔王様こそが絶対であり神なのだぁ!」
トカゲ人は目を見開き真っ赤に染め、縦長の瞳孔を大きく開くとこちらへ向け走ってきた。サーガさんが前に出ようとしたので、ここは自分がと声をかけ全速力で相手へ向かう。
彼は自分が担当すると決めた相手だ。最後まできっちりやり遂げなきゃこの先戦っていけない、そう考え剣を右肩に寝かすようにして担ぎながら、相手との距離を詰める。
「ぐ……くそぅ……魔王ゾンアーク様に栄光あれ……!」
攻撃が届く範囲に来たところで剣を思い切り振り下ろしたが、相手は腕を交差させて受けようとした。
防がれたかと思いきやそのまま剣は相手を両断し、最後を悟った彼は魔王の名を叫び粒子となって消えていく。
「仁太、御苦労だった」
「いえ、この剣があったからこそ勝てたんです。僕の実力じゃない」
「剣は勿論だがそれを振るう君の能力も無ければ、この世界に来たばかりの人間が魔族に勝てないだろう」
「あれが魔族、ですか」
「この世界に魔族は居なかったはずなんだがな。人が開拓するために自然に踏み込んだ罰なのかもしれん」
サーガさんが教えてくれたが、ここは他と比べるとまだ人が開拓して間もない地方らしく、未知の病気や生き物が数多くいるようだ。
山を二つくらい超えたところにヨシズミという国があり、そこはかなり繁栄しているという。
「仁太、すまんがあの牛をその剣で刺してもらえるか? 俺では完全に消せないんだ」
ヨシズミ国について聞こうとしたところ、遮るように牛の人の事を頼まれる。三鈷剣は特別なんだなと改めて感じ、頷くと牛の人へ近付く。
振り被り斬ろうとしたものの剣から炎が出て来て牛の人を包み、あっというまに粒子へ変え消し去った。
サーガさんと二人で周辺を捜索し、魔王軍が居なくなったのを確認した後で、今度は町の人たちの捜索を開始する。
「あぶない!」
町の中を移動していると声が飛び込んで来た。なにがあったのか見回していたところ、横から尖ったものが飛んでくる。
剣で弾くには遅く腕で受けようと交差したが、キン! という音だけでダメージは受けなかった。見ると地面にはナイフが落ちていて、誰かがこちらをねらっていたようだ。
魔王軍の生き残りかとナイフが飛んで来た方向を見ると
「あの程度の奴を倒したくらいで調子に乗るな」
薄暗い建物の陰に黒い鎧に全身を包んだ者がおり、憎しみを込めた声でそう告げながら陰へ身を沈めて消えてしまう。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。