魔王軍の襲撃
「た、助けてくれ!」
町に入ってきた方向から我先にと人々が走ってきた。このままでは進めないと別の道を探していたところで、左腕に巻き付いている羂索が垂れ建物の上へ飛んで行き、少しすると引っ張られあっという間に建物の上に移動する。
「こういう場合は建物の上が正解だな。いけるか? 仁太」
羂索の凄さに驚いているとサーガさんが下から飛び上がってきた。こないだの戦いでも風を巻き起こす技を使っていたし、元の世界の十人とはとても思えなかったが、転生すればチート能力を得るのは当たり前だったよなと気付く。
自分の状況を考えると転生ではなく転移であり、だからこそチートは無しなんだなと納得するも、この先もひ弱なままでは混乱の中抜け出すことすらできない。
「だ、大丈夫です」
「あんなに人が混乱して向かって来るなんてなかなかないから、驚いても恥ずかしいことじゃないさ。今のうちに深呼吸して落ち着こう」
「いえ、違うんです。サーガさんみたいに素早く人混みを出られるように、この先鍛えて行かないと駄目だと思って」
「鍛える必要がある、というのは敵と戦わなければならないからその通りだな。俺もこの世界に来る前は普通のサラリーマンだったし、来てからも力が強いだけだったから修行してここまでに成れた」
「僕も成れるでしょうか」
「正直な話をするが肉体的な部分は分からない。君の場合俺とは違い転移っぽいからな。そうなるとクロウがなにかしらしているとは思うが、確定的なことはいえない。まぁこの世界は広いから鍛錬での肉体強化が無理なら、別の手段を考えよう」
具体的に別の手段について聞きたかったけど、下の方から人の声とは違うものが聞こえ急いで下を覗き見る。
町中をコウモリの翼を生やした者たちが群れを成しながら歩いており、あれが知らせて来た者が言っていた魔王軍なのだろう。
魔王軍が来た方向を見たところ町の人の犠牲者は見えず、襲撃にしては随分と行儀が良いなと思った。
「おい、勇者とか言う奴はどこにいるんだ?」
「知らん。魔王様のご命令で町さえ襲えば出てくるからそうしろ、と言われただけだしな」
「他の人間と一緒に逃げたんじゃないのか?」
「俺に聞かれても困る……が、それはあるかもしれんから人間たちを追おう。お前たち、行くぞ!」
先頭を行く黒いトカゲが二足歩行しコウモリの翼を生やした者と、黒い牛が二足歩行しコウモリの翼を生やした者が、会話をしながら通り過ぎる。
どうやらこちらを見つけるためにわざと逃がしたらしい。このままでは町の人たちが危ないと考え立ち上がり待てと叫ぶ。魔王軍の視線がすべてこちらに向き足を止めた。
「なんだお前は」
「僕の名は萩野仁太だ! お前たちに聞きたいことがある! 天使彩乃をどこへ連れて行った!?」
「おやおや……姫様のことを知っているなら間違いない、お前が勇者だ! おいお前たち、アイツを殺せ!」
トカゲ人はこちらを指さしそう叫び、他の者たちがこちらへ向かってくる。先頭の二人以外は骸骨や腐りかけた犬、植物に顔が付いたような者たちそしてゴブリンなど、翼が生えてない者ばかりだった。
魔王軍でも位があり、あの先頭の二人は直属の部下なのだろう。彼らを確保出来れば天使のことを知れるに違いない。
羂索を使うにも先ずは他の者たちを倒して一対一の状況にしなければ、と考え飛び降りる。
建物の下に集っていた魔王軍たちは一旦下がったものの
「御親切に自分から下りて来てくれるとはな! 遠慮なく死体にしてやれ!」
牛の人の指示で襲い掛かってきた。武器を取ろうと腰を触ったが無く、そう言えば呼べって言われてたと思い出し
「剣よ来い!」
右手をかざして叫ぶと真上に炎の玉が現れ、徐々にそれは剣を形作りこちらの手に収まると同時に、炎を吹き出して魔王軍へ襲い掛かり数を減らしてくれる。
「チッ、魔法使いかよ。ノガミとかサガラの人間なのか? テメェ」
「僕の名前は仁太だ、テメェじゃない」
あの二人も消してしまったかと焦っていたところ、上空へ素早く逃げていたらしく翼を羽ばたかせながら下りてきた。
「あっそ。お前とは今日でお別れだからどっちでもいいや」
「そうはいかない。お前たちには天使のことを教えてもらわなくちゃならない」
「生きてここを出られると思うなよ! たかが人間風情が!」
トカゲ人は槍を、牛の人はハンマーを手にこちらへ襲い掛かってくる。どちから一人を残さなければならないので殺すわけにはいかない、どうやって戦えば良いか悩んでいると
「人間風情で悪かったな」
上からサーガさんが下りて来て牛の人の前に立ち塞がった。これで一対一になったぞと思い左腕を下から上へしならせ、羂索をトカゲ人へ投げつける。
相手はこれを知らないはずだもらったと思ったものの、なにかを感じたのか受けもせず飛び上がった。
「バーカ、ソイツはさっき雑魚どもへ使ったのを見たぜ!」
「あの連中はお前たちの仲間か!」
「仲間!? お前たちのような人間と仲間になる奴がいるかよ! 金塊を餌にこき使ってやってただけのことだ!」
ユーイさんを襲ったのもお前たちの仕業かと聞くと、町長の娘を攫わせ人質にしようとしたがそれがなんだと返してくる。
町を襲うだけの力と数があるのにもかかわらず、女性を人質に取るだけでなくそれを同じ人間にさせるなんて、人間同士争わせようと助長しているように思え許せなかった。
こんな奴を捕らえておいては何をしでかすか分からず、この手で斬らなければならないと考え羂索を引っ張り手元に戻した。
「どうした? 俺を捕らえなくて良いのか?」
「お前みたいな卑怯な奴は、この剣で斬って二度とこの町に来れないようにしてやる!」
「冗談にしては面白みがないぜ、小僧!」
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