初めての対人間戦
どちらの背中に乗るかとなったがサーガさんは上半身裸だったので、女性物でも上着を着ているこちらに乗ることになった。
サーガさんに先導され山道を下りるも、行く先々でこちらを狙うような視線を感じる。まだ夕方でも無いけど見たところ文明も発達していないようだし、借りた異世界物にあったように人間の方が弱い環境なので、動物やモンスターのテリトリーの方が広いのだろうと思った。
しばらく走り続け麓に差し掛かったところでサーガさんは、他の人はどこへ行ったのかと突然女性にたずねる。彼女が運転していた可能性を考えたが、倒れ潰されていたのは馬車の客室の出入り口なので、それは無いと思った。
「実は気付いたら私一人客室に取り残され、何があったのかと外に出たところで下敷きになったのです」
力なく答える女性に対しサーガさんは一緒にいた者とは長いのか、と続けて質問する。馭者も警護の者も家に仕えて一年くらいだと女性は答えた。
今の状況では不用心でしたなとサーガさんはたしなめる。突然の不運に見舞われた上に、家の人間に裏切られた人に対して冷たいなと感じ、そのまま伝えたところ命に係わる問題だからだと言った。
腑に落ちずどういうことなのか聞いたところ目の前を指さされ、その方向を見ると鎧を着たガラの悪そうな人たちが、群れを成して剣などの武器を持ち待ち構えているのが見える。
「お前のいた世界……いや、少し前までの日本とは違いこの世界は平和ではない。泥棒など当たり前だし犯罪者やその組織の方が強い。こんな世界を救うために戦った勇者が居るというのだから呆れる」
自嘲気味に言うサーガさんに対し違和感を覚えた。まさかその勇者がサーガさんなのだろうかと思いたずねたが、はぐらかされる。
他人には聞かれたくないこともあるだろうと考え、今は深く追求しなかった。見たところ勇者くらい強そうに見えた彼に対し、犯罪者やその組織が強いと嘆き、被害に遭った女性を注意するのは違うのではないか、と抗議する。
「そうか……そうだな、では順番を正す為にもアイツらを倒そうじゃないか。出来れば一人は捕らえたい、いけるな?」
行けるかどうかは今は問題じゃない。目の前で悪いことをしようとしている連中がいて、自分が何とか出来るなら戦うと決めた。
幸い先ほど力を与えられているので、早速攻撃を仕掛けるべく羂索を軽く頭上で振り回してから、相手へ向けて投げつける。
悪い顔をした連中はヘラヘラしながら見ていたものの、悪い奴を捕らえる物だと教えられた通り、群れの中へ入ると誰かを縛り上げたようで強く引っ張られた。
「よくやった仁太! そのまま離すなよ!」
「はい!」
三鈷剣を手に敵対者たちへ斬り込んで行く。相手は縄の先を見て慌てふためき、中には逃げ出す者も出てくる。
どうやら捕らえたのは彼らのリーダー格らしいとサーガさんは言い、残った者たちに殴り掛かっていった。
抗議した手前、彼に負けないように頑張ろうとするもとにかく強く、あっという間に倒してしまう。
特に体から湯気のようなものを出した後で拳を突き出し、風を巻き起こして五、六人吹き飛ばしてしまったのは圧巻だった。
結局サーガさんがほとんどを倒してくれ、偉そうなことを言ったくせに大したことも出来ず、申し訳なくてサーガさんに謝罪する。
若いうちはそれで良いと思うぞと笑いながら言われたが、戦えるようになって増長したかもしれませんと改めて謝罪した。
「まぁ誰しもそんなものだよ。俺もこの世界に来て戦えるようになったり、成長して強くなったばかりの時はそりゃもう上から目線だったからな」
腕を組みながら頷き理解を示してくれる。この世界に連れて来たであろう人物は、今のところ良いことを一つだけしてくれた。
サーガさんを自分の教師役にしてくれたことだ。こんな生意気な学生に怒ることも無く接してくれるなんて、器が大きいなと思いつつ自分の狭さにゲンナリする。
彼に何があったのか知らないのに、言葉だけで非難するなんて情けない。
「さぁ落ち込んでいる暇はないぞ? 早く町へ移動しよう。お嬢さん、町はどこかな?」
どうやら態度にも出てしまったらしく、またしても気を遣われてしまった。子ども子どもしている自分に打ちひしがれながら、女性が指さした先へ向かい縛り上げた人を引きずって移動する。
縛り上げた人に関して誰か知っているかとサーガさんが聞き、女性は少し間があった後でよく見たら警護してた者だと言った。
この分だと馭者もグルだろうなと思うと気が滅入るけど、サーガさんが例外でこの世界は基本悪い人たちが多いのだろうなと認識する。
良い人たちの方が稀少な世界を見たら、たしかに世界を救うために戦った勇者は堪らないだろう。
「お前たちなんて恰好をしてるんだ……ってユーイ御嬢様!?」
麓を過ぎ森を駆け抜けて行くと林道が見え、安全を期してそちらへ移動した。道なりに進んで行くと草原に出てその先に石の塀が見える。
町に入るには検問があるらしく他の馬車たちと同じ列に並んだ。やがて順番が来ると鉄と思われる鎧兜を着た二名に止められ、身なりを確認されていたところで背中の女性を見てそう叫ぶ。
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