スの国の国王
門が開いた先はたいまつの火があちこちに掲げられ、まるで昼間のように明るい。国と聞いていたのでガッチリとした建物が並んでいるのかと思いきや、木の家が多く道も舗装されておらず剥き出しになっている。
ユーイさんの授業で聞いたけど、二年前に戦乱があり更地になっていたようで、ここに住んでいるのは元々の住民では無い人が多いという。
ジン・サガラと暗闇の夜明けの戦いの最終戦がここで行われた地と教えられ、英雄ジン・サガラってどんな人ですかと聞くも、先生もユーイさんも詳しく教えてくれなかった。
ここから先はその英雄が存在していた地域だし、ご飯食べたりする中で聞いてみようと思う。生まれた場所も分からずある日突然現れ、数年で英雄になり未曽有の危機からヨロヅ地方を救った彼は、勘だけど異世界人な気がする。
異世界に自分がいるだけでも驚きなのに、もし同じような人が居るならその足跡を知りたい。早速先導してくれている兵士に聞いたところ、熱を込めて彼の知る限りのジン・サガラを語ってくれた。
記憶喪失でヨシズミ国にすい星のごとく現れた彼は、傭兵団暗闇の夜明けから国を救い、さらには国の汚職も見つけ潰したらしい。
その後シャイネンでも大きな事件を解決し、ネオ・カイビャクへ招かれそこでも英雄の血族である、ノガミの危機も救ったという。
一冒険者、最低ランクから英雄にまで上り詰めた、今を生きる人々の夢でありあこがれです、そう兵士は目を輝かせて話す。
そうなのかと相槌を打ちつつ聞いていたところ、前から別の兵士が駆けて来て国王がお待ちですと促され、話してくれていた兵士と並んで先導する。
どうやら立場が上の兵士らしく、先ほどまで饒舌だった人は黙り込んでしまった。残念に思いながら歩いていると大きな木の家が現れる。
家の前に着くとここが国王が住む家ですと言われ、町の皆は宿舎を借り上げてくれているらしく、そちらへ先ほど話してくれていた兵士が先導して行った。
残った後から来た兵士に案内され家に入り、国王に謁見するため部屋に通される。書類が山積みの机からこちらに出てきた人は、豪華な服を着て偉そうな人ではなく、茶色のシャツにスラックスという普通の服を着た、頭髪が少し寂しい口髭を蓄えた優しそうな人だった。
国王の名はヤマナンというそうで、二年前の戦乱終結後に竜神教やヨシズミ国から信任を得て、国王になったという。
町長とユーイさんは顔を見合った後にこちらを見る。自分に対して説明してくれたのかと思い、なぜそうしてくれたのかと尋ねたところ、記憶喪失だと聞いていると教えてくれた。
ユーイさんは覚えがあるらしく、あーと声を上げて手を打つ。彼女が竜神教というところに報告したので、そこからヤマナン国王に伝わったのだろう。
国王は君が記憶喪失の勇者だと聞いた時、ふと友人のことを思い出してねと言う。国王ほどの人物の友人となれば、先ほど兵士が話していた英雄ジン・サガラに違いない、そう思い尋ねるとそうだと答える。
「彼は一般に伝わる以上の物凄いことをやってのけた男だ。この地方だけでなく本当にこの世界を救った。私が彼を友人と言って良いか分からないが、残された者として彼が命を懸けて守ったものを守りたくて、国王なんて柄でもないことをやっている」
聞けばヤマナンさんも冒険者として活躍し、最高峰であるゴールドランクまで到達したと聞き、感嘆の声を上げるも怪我で引退したから凄くないと言われた。
こんな危険な世界で最高峰まで上り詰めて生きてるんですから、僕からすれば驚愕ですとつい言ってしまった瞬間、自分で不味いと思い手を口で塞ぎ笑顔で誤魔化す。
「ふふふ、やはりこれも何かの縁かもな……名は何と言ったか?」
「……萩野仁太です」
「そうか、ではジンタ・ハギノまたはジンタのみで名乗ると良い、その方が違和感なく通る」
そう言われ国王も何か知っているのではないかと思い聞くも、口に人差し指を当てて首を横に振られる。言葉が通じるので名前も聞こえの良いように変換されているのか、と思いきやそうでもないらしい。
驚くべきはそれを同じ異世界人からではなく、この世界の人から忠告されたことだ。国王は色々知りたいのならシャイネンに行き、ニコ様やゲンシ様に聞くのが一番良いと教えてくれた。
さらに今シャイネンにはジン・サガラの師匠である、ゲンシ・ノガミ様もいると言われ、行ってみようかなと思い始める。
今の段階では魔王には全く歯が立たない。サーガ先生を失った今、稽古を付けてくれる相手も居らず、どうやって勝てばいいか分からなかった。
先生の仇を打つ為にも天使を助ける為にも、強くならなければならない。他に当ても無いので行ってみようと決め、早速行ってみますと告げると一枚の紙を渡してくる。
見るとそれはシャイネンまでの生き方が記されており、それを見ながら道に刺さっている道標を辿れば、迷わず行けると思うと言われ感謝の言葉を述べながら頭を下げた。
国王からさらにもう一枚紙を手渡され、これはと聞くとゲンシ様への親書だという。ステートの町の人たちは、シャイネンで今後の方針が決まるまでスの国で保護しておく、と記したものらしい。
「これで君は私の使者としてゲンシ様に自然と会える。よく相談してみると良い」
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