メリンとの再戦
「はっはー! 元々空を飛べない人間が空中戦で私に勝とうなんて甘い甘い!」
何度か彼女との距離を詰め斬りかかるも、あと一歩のところで逃げられてしまいダメージを与えられずにいた。最初こそあと少しと思ったが、避けた時にメリンがニヤリとしたのを見て、わざと引きつけてから逃げているのに気付く。
なにか捉える方法は無いものかと考えながら追っていたところ、そう言えば羂索も一緒に追ってくれており、挟み撃ちに出来ないかと考え先行させる。
諦めたのかと煽られたものの、じっとその動きを見てタイミングを待った。黒騎士が撤退した今、同じ命令を下されたであろう彼女が撤退するとは思えない。
こちらは撤退してくれればありがたい状況なので、焦って追いかけ生命エネルギーを消耗する必要はなだろう。
浮遊しながら気を増幅させるべく目を閉じ丹田に力を入れる。ワーワー遠くから喚いていたが、聞こえたり聞こえなかったりしたおかげで、素早く集中状態に移行出来た。
短くも濃い時間だった先生との稽古の日々を思い出し、涙が出そうになるのを堪えつつ失ったエネルギーを補充し終える。
「ふざけるな人間!」
向こうも魔族とはいえ休まず飛び続けるのは厳しいのか、丁度終えたタイミングでこちらに向かってきた。
図らずも挟み撃ちの状態になったなと喜んだけど、このままただ斬っては羂索と衝突してしまう。
どうすれば良いかと考えた時に、気を両手に集中し斬りつけるとパワーだけでなく速度も上がる、という先生の言葉が頭を過ぎる。
恐らく事前に準備したのでは避けられる、一瞬で両手に気を集中させ斬らなければならない。
「逃げないなんて良い子だ! 苦しまないよう一撃で殺してあげる!」
腰に佩いた短剣を引き抜きこちらへ向かって突っ込んで来た。一か八かやるしかない、そう覚悟を決め剣が届く範囲まで待つ。
「死ね!」
「でやああああ!」
ここなら剣が届く場所に来た瞬間に両手に気を集中させ、剣を横へ薙ぎながら前へ出る。胴へ刃が進み決まるかと思ったものの
「くっ!」
あと少しのところで短剣で防がれ、そのまま飛び越えられてしまった。後を追おうと振り向いたがすでにこちらに斬りかかって来ており、今度こそと手に気を集め斬りつける。
タイミングは良かったが来ることを予想していたのか、何もせずに再度飛び越えて行った。もう一度来るはずと視線を向けるも、なぜか彼女は武器を構えずに立っている。
なにか話しでもあるのかと見ていたけど、手にしていたはずの短剣が無いことに気付く。一本は壊れたとしてももう一本あるはずなので、どこかに投げたり罠として設置したのかもと警戒しながら、動くのを待った。
「……お前のその武器も英雄はただ一人や原初の天使と同じ、聖剣の類か」
原初の天使は知らないが、英雄はただ一人は黒騎士がさっき自分の剣だと言ったものだ。
同じかと聞かれても効力が分からないので答えようもなく、正直にそのまま答えると無言でうつむき、しばらくして今日のところは見逃してやると言い始める。
理由はよく分からないが見逃してもらう必要はない、ここでお前を倒すと切っ先を向けた瞬間、彼女は目の前から消え去ってしまった。
姿を消しただけなら羂索で置けるかもと考え、左手首を振ってみたけどこちらへゆっくりと戻って来て、そのまま手首にぐるりと巻き付く。
相手は逃げたい時に逃げられて羨ましい、そう思いながら息を吐き改めて周囲を見ると、いつの間にか夕方に差し掛かっている。
この世界に降り立った時は昼間だったが襲撃を受けた。サーガ先生も夜に山にいるのは不味いと言っていたのを思い出し、急いで地面に下りる。
待ってくれていたユーイさんや町の皆に、待たせたお詫びを言った後でなるべく早く山を下りようと促す。
人数的には五十人程なので気軽に襲っては来ないと思うけど、中には子供やお年寄りもおり、呑気に夜道を歩く訳にはいかなかった。
聞けばこの先のスの国はそう遠くないらしく、さらに町長の指示で兵士を数名先に行かせてくれたと聞き、そりゃ子どもに言われるまでもないよなと反省する。
自分は殿を務めるので皆さんお先にと告げ、周囲を警戒しながら山を登りそして下っていく。こういう時にゲームだと襲撃が来るんだよなと思い、気を張りながら移動するも運良く何事もなく通過した。
共に並んで殿を務めるユーイさんは、仁太さんが戦ったことで野生の獰猛な動物やモンスターは、恐れて逃げたんですよと言われる。
十五歳の子どもを怖がったりはしないでしょうと笑うと、人間は年齢じゃありませんと力説された。
「見ろ! スの国だ!」
山を下り切ったのはもう夜で、樹脂が染み込んだ木の枝に火を起こして付けたいまつにし、警戒しつつ歩き続けてだいぶ経った頃に誰かがそう叫んだ。
少し飛び上がって前を見ると若干明るくなっており、ゆっくり近づいて行くと木で出来た塀と門が見える。
塀の上にいた兵士がこちらに問いかけて来たので、町長とユーイさんが説明すると慌てており門を開けてくれた。
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