行く手を阻む黒騎士
魔王の言葉からして追っては来ないだろうけど、部下たちは見逃すかどうかは分からない。なにより先に逃げた町の皆が心配だとユーイさんに話すと、山を越えてスの国へ行くと教えてくれる。
このまままっすぐ走れば良いか聞いたところ、良いですと短く答えたのでその通りに走った。今は別の事を考えながら走っていた方が気がまぎれる。
草木生い茂る山道を登りもう直ぐだと言われ丘に出た瞬間、光の眩しさに目を細めたと同時に殺気を感じて飛び退く。
「やっと来たか勇者……ほう、これはこれは。女連れとは呑気なものだな」
「黒騎士……!」
相手の言葉より早くこちらへ振り下ろされた剣に対し、腰に佩いた三鈷剣が飛び出して防いでくれた。
眩しさに慣れ目を開きつつ攻撃したのは誰かと見ると、例の黒騎士が剣を構えている。彼の後ろには町の人々が見え、怪我は無いか心配したものの無事なようでホッとした。
見逃すはずはないよなと思いながらも今は戦いたい気分だったので、ゆっくりとユーイさんを下ろし剣を構える。
「やはり剣にこだわるか……いや、それしか教わっていないのなら無理もない」
「相変わらず何を言っているのか分からないが、戦いに来たのならつべこべ言わずに始めよう」
「同情してやっているのだからもう少し喜んでもらいないな。こんな差がある状態で勝ったところで何の意味もないが、任務とあらばやらねばならぬ」
「魔王は見逃す感じだったが?」
「それはそれ、これはこれだ。魔王様にお前が叶う可能性は一ミリもないが、対抗し得る力の素質が無い訳ではない。部下としては万全を期して排除するのが正しい、そう言う者も中にはいるのだよ」
「お前じゃないのか?」
「魔王四天王の一人であるセレマからの命令だ。私は魔王様と同様、ゴミムシを潰して楽しむ趣味などない」
会話を続けていてもキレて自分を見失ってしまいそうなので、そうなる前にこちらから斬りかかった。あっさりと剣で受けられ鍔迫り合いが始まり、剣越しに凄まじい力を感じるが負けてなるものかと押し返す。
「良い気迫だ。師を亡くしたばかりで意気消沈し、戦うこともしないかと思っていたが、杞憂だったな」
言葉を発しながらゆっくりと力を入れ、徐々に押し負けこちらに刃が迫ってくる。三鈷剣は平気だとしても相手の刃は防げない。
見ればその剣自体は白く所々に金の装飾がしてあり綺麗だが、纏っている黒い気は邪悪そのもので、触れてしまうとただでは済まなそうに感じた。
「どうした? このままでは私の剣、英雄はただ一人がお前の身を引き裂いてしまうぞ? 気を操る技術を習ったんじゃないのか?」
余裕なのかヒントめいた言葉を口にする。気を操る技術は習ったがそれに何の関係がと思った時、サーガ先生の拳を思い出す。
体から沸き立つほど増殖した気を拳に集め強化しており、今回の場合は力で押し負けているので、同じように拳に纏わせれば押し返せる気がした。
「そうだそうだ! やるじゃないか即興にしては!」
子どもを相手にするように言いつつ、さらなる力を込めて返してくる。魔王も強いがコイツも底知れない強さだ。
最初に見た時に先生も危険を感じていたし、そんな相手と今ここで戦って勝てるのか?
「うぉおおおお!」
「良いぞ、声に出すことは何事も大事だ」
弱気を振り払うため声を上げて押し返したものの、あっさりとまた元の位置に戻された。なにか打開する方法は無いか? 今この場で出来ることは無いかと考えた時、左手の羂索が動き出す。
「チッ! 気付かれたか!」
「良いアイテムを持っている。それにしてもこれはどういう冗談だ? メリン」
黒騎士を拘束するのかと思いきや横へ移動し、その先を見ると例の青髪の魔族の少女がいた。
拘束するには至っていないものの追尾しており、今被害は出ていないものの何をしてくるか分からないので、なんとか対処したいところだが手が離せない。
「勇者、悪いが興が削がれた。今日は引き揚げるからあとはアレと遊んでくれ。まぁ勝てるかどうかは知らんがな」
あともう少しで刃が相手の体に届くところまで押していたものの、言葉が終わると凄まじい力で押され吹き飛ばされる。
これは不味いと急いで身構えたものの、視線を他へ向けながら剣を鞘に納めると景色に溶けて消える。
見ていた方へ視線を向けたところ、メリンが羂索と追いかけっこをしていた。ユーイさんに対し町の皆の警護をお願いし、メリンを追うべく地面を蹴る。
気を回復させていたので浮遊に成功し、そのまま移動を開始した。
「おや、黒騎士を殺してくれたのかい!? 勇者様!」
最初に現れた時に彼に蹴り飛ばされた恨みからか、嬉しそうに聞いて来るも自分で勝手に帰ったと告げると、使えない男だねお前もアイツもと罵られる。
魔王軍に使えないと言われるのは本望だと返すも、そんなんだから師匠を殺されても尻尾を撒いて逃げるんだと返してきた。
こちらの理性を失わせる作戦なのは分かっている、分かっているが腹が立つ。腹から声を出し苛立ちを発散しつつ、メリンとの距離を縮め斬りかかる。
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