異世界人と異世界人
「君、こんなところで裸でどうした? 追い剥ぎボブゴブリンかティサウルスにでもやられたのかな?」
目の前のとんでもない人物は優しくたずねてくれた。見た目は不気味だが良い人なんだなと感じ、先ずは自分の名を名乗ることにする。
「あの、自分は萩野仁太と言います。信じられないかもしれませんが」
名乗り終えた後で、この世界に来る前に話していた相手に言われた通り、別の世界から来たことと天使彩乃という少女も共に来たが、途中ではぐれてしまったことを伝えた。
「……そうか……君もか……失礼、名乗るのを忘れていた。私の名前は……そうなだ、サーガとでも呼んでもらおう。訳あって本名は名乗れんが、君と同じ異世界のそれも日本から来た人間だ」
サーガさんの自己紹介は衝撃的だったものの、僕の世界とか言っていた人が彼を教師役に選んだ理由に納得する。
来たと言っても信用ならないだろうから、そう言って元の世界での話とここに来る経緯をしてくれた。明らかに自分の知っている話だったので安心する。
彼は自分の話をした後で天使彩乃のことを聞いて来る。知る限りの情報を話したが詳しくないのですぐ終わってしまい、ここに来た経緯となぜ自分に異世界から来た、と言ったのか聞かれた。
「……あの野郎、俺に借りが山ほどあるのを忘れすぎだろ」
腕を組みながらサーガさんは空を見上げつつ憤る。しばらくしてから視線を戻し、アイツに言われたからではなく恩人の娘さんだと思うので、君と共に行動し彼女を助けると言ってくれた。
感謝の言葉を述べつつ頭を下げる。通学中に読んでいた異世界物では、同じ世界から来た人は最後の方にしか出てこず、最初は手探りだったので同じかと思っていたのでほっとした。
サーガさんから暗闇で話していた相手から、チート能力をもらったとか聞いていないかと聞かれるも、元仲間が作ったボディの話をしたところ首を振る。
何か不味いことを言ったかと思ったが、どうやらサーガさんも来た当初は多少アップしていたものの、世界には強い人たちが多く恩恵をあまり感じなったらしい。
「誰か! 誰か助けて!」
アイツは神様のくせに本当に雑だとサーガさんは吐き捨て、僕の世界と言っていた人は神様だったのかと知り驚いていると、下の方から悲鳴が聞こえてきた。
天使かもしれないと思い体が自然と声へ向けて走り出す。うっそうと生い茂る森を駆け抜けていたところに、再度悲鳴が聞こえその方向へ向きを変える。
木々の間を走り抜けていると山道が現れ、そこになにかの下敷きになった金髪の女性とその手を引っ張る、緑色の肌をした腰蓑のみを履いた人がいた。
女性は明らかに嫌がっており、手を引っ張るのを止めろと声を上げながら近付く。緑色の肌をした人はこちらを見ると右手だけは無し、口笛を吹き始める。
何をしているのかは分からないけどその手を離せと言うも、ニヤリとしてから何かの言葉を発し笑った。
異世界に来たから言葉が分からないのか、そこくらいはチート能力を付けてくれよと憤りつつ、女性を助けるべく緑色の人の手を取ろうとする。
「ギャグェウ!」
突然上の方から叫び声が聞こえ、その方向を見ると何かが飛んで来た。ゆっくりとスローモーションのように見えたそれは、手を取ろうとした人と同じ姿をしており、違うのは右手に斧を持ち振り被ってこちらに来ていることだ。
やられる、直感でそう思った。天使を助けるどころかどこにいるかすら分からない、こんな序盤で死ぬなんて笑い話にもならない。
冗談じゃないぞ……絶対に彼女を助けるまで死んでたまるか!
―少年、力を欲するか?
声が聞こえると突然周囲が暗闇に閉ざされる。まだ相手がこちらにも来ていないのに死んでしまったのだろうか、と慌てていると
―もう一度問おう。少年、力を欲するか?
どこからか低く威厳のある声がした。前にこういう空間で話した神様とは違うようだ。問いに対して力が欲しいです、そう正直に答える。
普通の人間より上に強化されても簡単に殺されてしまう世界なら、武術の経験もない自分では何度死んでも天使を助けられないだろう。
本当なら少しずつ鍛えていくのが正しいのだけど、ここで死んではそれも出来ない。悪い神様とかそういうのでなければ、是非力を貸してほしいと願った。
―お前の願いは聞き届けた。その代わり条件がある。人によっては難しいかもしれないが。
間を開けずに条件を教えて欲しいと伝えたところ、条件は三つあると言われる。ひとつは人助けをすること、もうひとつは悪しき者を倒すこと、さいごのひとつは悪いことをしないことだ、と提示された。
自分に出来る範囲では人助けはすると約束し、悪しき者の見定めがわからないが分かる範囲での対処を約束、悪いことをしないのは親の教えで自分に返ってくるのでしない、と答える。
―それで構わない。お前の心根は見ていたが、我が力を貸すのに申し分ない少年とみて声を掛けた。ならば契約の証として我が剣を貸そう。
暗闇の中で漂っていると突然、目の前に金色に輝く不思議な形をした剣が現れた。剣の鍔と手を持つ部分の一番下である柄頭に、牛の角のようなものが付いている。
―剣の名は三鈷剣。悪しき者しか斬れぬ故、気にせず振るうがよい。剣で斬れたものこそが悪なのだ。
言葉が終わると剣は輝きを強くし暗闇を塗りつぶしていく。白く塗りつぶ終えたところで、剣はこちらの目線の高さに手で持つ部分である握りを見せてきた。
持てということなのだろうと感じ、握るとあっという間に元の景色に戻り、斧が振り下ろされる寸前に戻される。
え!? どうしたら良いんだ!? と大混乱に陥っていると
―火焔斬
頭の中に声が聞こえ
「火焔斬!」
そのまま口に出すと剣に炎が宿り、上段の構えを体が勝手に動いて取り相手を斬りつけた。
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