悪夢の中で
「でりゃああああ!」
サーガ先生と魔王との攻防の隙を突き、地面を蹴って飛び上がると剣で斬りつける。正直自分がダメージを与えられるとは思っていないけど、こちらにも注意しなくてはならなくなれば隙が出来、先生の一撃が入ればなんとかなるはずだ。
そう考えて斬りかかったものの、左手の人差し指だけで防がれてしまい、残った右手と足で先生の相手をし始めた。
コンピューターではなくまったく別の人間二人の攻撃を、ミスもせずさらに先生だけを見て魔王は捌き続ける。
「どうやら君たちの絆を甘く見積もっていたようだ。こんな勝算のない戦いに身を投じて来るなんて、余程サーガくんに対する信頼が厚いと見える。しかしそれだけに残念だよ……君が正しく導いていればもう少しどうにかなったのにねぇ」
本気で可哀想にと思っているらしく、悲しく辛そうな顔で魔王は嘆く。さっきまでならそれに対して対応したり考えたりもしたけど、今はそんな余裕もない。
なんとか少しでも相手の隙が生みだそうと、無い知恵を絞りながら攻撃を繰り返していた。
「仁太! 落ち着いて相手の動きを見るんだ!」
しばらく攻撃しているとサーガ先生が声をかけてくれる。今でも目を凝らしながら攻撃を行っているが、もっと見ろということなのだろうか。
考えながら先生と目が合い、なんとなくそうではない気がした。相手でなければ誰を見れば良いのだろうと思った時、ひょっとしたらサーガ先生の動きを見て、それに合わせて攻撃を行えということではないかという考えに至る。
「ほう! 少しは動きを変えて来たか! ありがたいよあのままだと欠伸が出てしまうところだったのでね」
余裕の魔王は無視して攻撃を続けたところ、即席ながらもなんとかコンビネーション攻撃が行えるようになった。
攻撃と攻撃の隙間を無くし相手に休む暇を与えないようになれば、いずれ脳が疲れ処理能力が落ち隙が出来る。
彼が神ならこの方法は無意味だろうけど、神ではなく魔王なのだから疲れることもあるだろう。完璧な存在であるならば既に願いは叶えているはずだ。
「ん?」
「喰らえ! 牙王風神拳!」
待ちに待った隙が訪れた。魔王はなにを感じたのか突然上へ視線を向ける。サーガ先生が気を高めたのを感じ即座に距離を取ろうとするも、完全に離れる前に先生は技を放たれた。
凄まじい突風と共にかまいたちが発生し、魔王を飲み込む。一瞬の隙を見逃さないために至近距離から放たれたので、こちらも巻き込まれるのは確定している。
ダメージを少なくしようと腕を交差させてた瞬間
「なんだ、ただの流れ星か……残念。仁太くん危ないよ?」
魔王はなんとこちらと先生の間に立ち、先生に背を向け微笑みながらそう言った。なにが起きたのか分からず唖然としていると、サーガ先生の技から発生したかまいたちや突風は、魔王に当たることなく見えない何かを滑るようにして散っていく。
「さぁ、もう町の者たちの避難もあらかた済んだことだし、君たちももう十分だろう? 僕もそろそろ飽きて来たからね、お終いにしよう!」
後ろを向いて先生に告げた後で、こちらをもう一度向くと音が鳴る。なにかと思ったが直ぐに腹部に激痛が走り、見れば魔王の右足が腹にめり込んでいた。
「駄目だよ仁太くん。君は勇者かもしれないし大きな素質はあるけれど、僕相手に防具なしで立ってたら下手をすると死んでしまうよ?」
嘔吐すまいと堪えていたものの咳込んでしまい、次第に目の前の景色が歪み始める。たった一撃であっさり戦闘不能にされてたまるか、そう気合を入れ堪えた。
「良い気合いだ。異世界に迷い込んだ不動明王の力を得ているとはいえ、君の剣技は短期間にかなり成長しているし、なにより戦闘のセンスが想像以上に良かった。黒騎士くんが君のことを嫌いなのが分かる気がするよ」
戦いの終わりを告げるかのように魔王は褒めてくる。まだ終わっちゃいないと抵抗しようとしたが、腹部の激痛に答えるだけで精一杯で指一つ動かせなかった。
「さぁ、サーガだっけ? 君の時代はこれで完全に終わりを告げる。誰にも知られぬまま死んだ方が君も都合が良いだろう? どうせ奥さんたちもこのまま行けば僕が殺すことになるし、どっちが先かみたいなもんさ」
「まだ終わった訳ではないぞ、魔王!」
「終わったんだよ。君のさっきの技は全力だろう? それとも仁太くんから離れフルパワーで打てる準備をさせてあげようか? やってみるかい?」
「お前でも耐えられないからそうやって挑発しているんだな?」
「わかった、わかったよ! お願いを聞いてあげるから待っててくれ」
魔王はこちらから離れ空高く移動し、その間にサーガ先生は気を高める。湯気は地面に付きそうなほど大きく凄まじい力を感じた。
今度こそ魔王はお終いだと思ったものの、とうの魔王は欠伸をして米神を搔いている。先生との全力の攻撃をものともせず、今度は最大出力で技が放たれるというのに余裕なままだった。
あんなに強いサーガ先生が手も足も出ない相手に対し、僕はどうやって戦ったら良いのか分からない。先生には絶対勝って欲しいと願いながら見守る。
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