必殺技に耐えられるようになるために
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―あなたにこんなことを言うのは失礼だと承知しているが、敢えて言わせてもらう。彼に突然あの技を教えるのはどうかと思うな。
―我は仁太を低く見てはおらん。この先必ず必要になる故教えたまで。お前こそ仁太に対して酷いのではないか?
―本当は自分で目覚めて欲しかったんですけどね。敵対者が余計な手出しをしなければ、あの戦いで強制的に目覚めたんですよ?
―町の民すべてを犠牲にしてか?
―人間というのは不便なんです。絶望し悲しみに暮れどん底に落ちなければ、超えられないものがある。
―我に人間を説くとは……。
―僕はどん底を見て立ち上がり今がある。彼の素質を信じているという意味では、あなた以上だと自負しています……期待しているよ、仁太。
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「お、目が覚めたか仁太!」
「あ、おはようございますサーガさん……他に人は?」
俺が入ってくるまで誰もいないぞとサーガさんに言われ、首をかしげる。誰かが話し合いをしていた気がしたが、たしかに見回してもどこにもいない。
勘違いかなと思いつつ再度部屋を見ると見覚えがあった。どうやら気を失ってしまった自分を、以前も寝かせられていた部屋に入れてくれたようだ。
サーガさんにお礼を言うと小さく頷き、近くにあった椅子を寝ているベッドの近くに寄せて座る。
「仁太、目が覚めて本当に良かった。倒れる前に放った技による後遺症で、一時心臓が停止していた」
衝撃的な事実を聞き背筋が凍った。まさか心臓が止まるなんてと驚愕していると、サーガさんからあの技は今は極力使わないでほしいと言われる。
なぜですかと聞くと今の仁太には生命エネルギーが足りない、いつ死んでも可笑しくないからだと説明してくれた。
今回心臓停止したからですよねと言うも、あの技はすべての悪を葬るに足る技であり、生命エネルギーが足りていれば言葉通りになっていたという。
まるで自分が打ったことがあるような感じで話すサーガさんに対し、この力の正体を知っているのかと尋ねると知っていると答える。
剣を出した時から引っ掛かっていたがやはり知っていたんだと思い、詳しく話を聞こうとするも教えられないと断られた。
いずれ必要があれば自ら名乗られる日が訪れるだろうから、俺からその件に関しては言えないと話す。今後は力に関してはしっかりとアドバイスなどを行い、迦楼羅炎を打っても死なない様に鍛える方針だという。
黒い鎧の奴に言われたからではないがと前置きし、仁太が自分のところに来た意味を考えた結果、気を操る技術を教えることにすると言ってくれる。
迦楼羅炎を打ちまた倒れたことで呆れられたかな、と思い諦めかけていたので、とても嬉しくて声を弾ませながら感謝の言葉を口にした。
「気を操る技術を教えるのは仁太の生命エネルギーを増加させ、迦楼羅炎などの技を上手く使えるようにする為でもある。修得は厳しいが頑張っていこう。まぁその前にまずはゆっくり休んでくれ。俺は復興の手伝いなどをしてくるから」
ありがとうございますと返し、サーガさんが部屋を出て行くのを見送ってから寝転がる。黒い鎧は良太なのかと一瞬頭を過ぎったものの、今はそれを解決する術は無いと頭を振った。
何より強くならなければ気圧されてまともに会話も出来ない。だらしない自分を恥じつつ目を閉じる。
次に目が覚めたのは、ユーイさんが心配になって声をかけてくれた時だった。見れば外は真っ暗になっていて驚く。
気を失う以外でこんなに寝たのは久し振りだなと思いつつ、起きようとしたところお腹の虫が盛大になってしまう。
ヤバいと思ってお腹を押さえるよりも早く、ユーイさんは笑い始める。そんなに可笑しいかなと始めは思ったけど、段々と自分でも面白くなり二人でひとしきり笑ったあとで、食堂へ向かい夕食を取った。
あとから食堂へ来た町長や町の人たちに、よくやってくれたと褒められ照れ臭くなる。こんなにも大勢の人に褒められたのなんて、生まれて初めてだった。
食事を終え皆それぞれの場所に戻って行き、自分も部屋に戻り嬉しい余韻に浸りながら就寝する。
「では先ずへその下で呼吸するところから始めるぞ!」
翌朝にサーガさんが帰ってくるとそのまま修行が始まった。気を操る技術の初歩の初歩ということで、呼吸方法をマスターするようだ。
しばらく専念した後は剣の稽古も行われる。一朝一夕で気を操ることは出来ないので、すべて並行して行っていくと言われた。
確かに技術を覚えることばかりに集中しては、魔王軍との戦いもおぼつかなくなる。理解はしていたものの、これまで以上に稽古は厳しくなり終わる頃にはへとへとになった。
復興も一段落するとサーガさんに連れられ森に出るようになる。自分との稽古だけでなく、実戦もこなして行こうと言われ、剣を手にモンスターたちとの戦いも始まった。
一対多数にならないようサーガさんがコントロールしてくれたけど、真っ向勝負となると相手の方が素早く、先手を取られ防戦一方になってしまう。
圧倒され傷も日に日に増えていったものの、自分の中の野生というかそういうものが研ぎ澄まされ、徐々に先手を取られない様になっていく。
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