本物の魔族
復興を終えた町の人たちと他愛ない話をしつつ、楽しく共に昼食を食べ終える。魔族たちの襲撃はこちらを狙ったものだったので、町そのものへの時より被害は少なく、復興は順調に進んでいるので誰もが表情は明るい。
お客さんが前のように戻ってくれればな、そう誰かが言うと場は静まり返ってしまう。建物の修復が終わったとしても魔族に襲撃されやすいとなれば、観光客や仕事を求めてくる人などは好んでここには来ない。
皆の不安を払拭してあげられたら良いんだけど、魔族を一掃するには時間も実力も足りず、何も出来ない自分の不甲斐なさに憤ることしか出来なかった。
こういう時異世界物の小説のように、チート能力があればなと思わずにはいられない。
「皆さん、これまでも力を合わせて魔族たちの侵攻を防いできました! この間は不意を突かれましたけど、こうして犠牲者も無く復興も順調なのですから、前を向いて諦めずに行きましょう!」
お通夜のような雰囲気を打開しようとユーイさんは席を立ち、努めて明るい声で皆を鼓舞する。彼女の行動に対し皆同意する言葉を呟くも、はいそうですかと前は向けないだろう。
勇気を出して立ち上がったユーイさんの気持ちに応えるため、とにかく空気を換えるためにと何も考えず席を立つ。
「あー、えー、皆さん初めまして萩野仁太です」
気の利いた言葉など突然出てくるわけもなく、皆の視線が注目したことでさらに頭が真っ白になった結果、挨拶をしてしまった。
場はまた静まり返ってしまいやってしまったかと冷や汗をかくも、少し間があってから突然隣にいたサーガさんが椅子から転げ落ち、その音が響き渡ると少し間があってから徐々に笑い声が出始める。
やがて笑い声は大きく多くなり暗い雰囲気が吹き飛んでいく。挨拶しただけで終わってしまったので、なにか気の利いたことを言おうと考えていたものの、転げ落ちたサーガさんに座るよう促された。
笑いが収まると皆自分の中で整理がついたのか、落ち込んでいてもしょうがないから頑張ろう、そう口々に言い合い昼食は終わる。
勇者と呼ばれているのに魔王軍を何とか出来ず、演説も無力と良いところ無しだなと落ち込んでいたものの、サーガさんから天然だろうけどよくやったと褒められた。
ただ挨拶しただけですと肩を落としたが、それが良かったと言われる。明らかに滑ってたしサーガさんが転んでくれなかったら駄目でした、そう告げるも挨拶があったからこそ生きたんだと慰められた。
生かされたの間違いですよと返していたところ、ユーイさんがこちらに来たので何も考えずすみませんというも、私こそ大したことも言えずにすみませんでしたと謝られる。
「励まそうとした二人が落ち込んでどうする? 他の皆は前向きに頑張ろうとなったのだし、急いで良いこと言おうとしなくとも、必要な時に良いことが言える。失敗だと思うなら次に生かせばいい。今は出来ることを精一杯やる時だ」
立ち上がって頭を下げようとしたが、サーガさんも立ち上がりユーイさんとこちらの間に立ち、そう促してくれた。
確かに言われたように失敗だと思うなら次に生かし、根本的な原因である実力の無さを解消するために、今は稽古をすることが第一だ。
熊のリアルなマスクを被り上半身剥き出しにスラックスという、冗談のような恰好をしている人だけど、凄い大人だなと尊敬する。
これまでサーガさんと読んでいたが尊敬の気持ちを表すためにも、これからは先生を付けるべきじゃないだろうか。
「そうですねサーガ先生! 早速稽古をお願いします!」
「サ、サーガ先生?」
「はい! 自分にとっては先生ですから!」
「え、えぇ……」
体を少し反りながらサーガ先生は嘆く。先生という言い方は不味いですか? と問うも、そうじゃないけどと歯切れが悪い。
先生も事情があるしあまり聞いても悪いので、拒否されないならそのままにしようと思い、行きましょうと促した。
ユーイさんに見送られ中庭に出ると早速剣を呼び出し稽古を始める。サーガ先生から腕の振りや足の運び方など指導を受け、早速その通りにしてみたら斬りつける時は力がしっかり入り、回避行動もしやすくなった。
稽古なので手加減をして斬りつけられているからかもしれないが、自分としてはこれまでの戦いを思い返しても、今の方が攻撃も防御も出来ている気がする。
剣の稽古も始まった日から数日間立ったある日の朝、稽古を始めようと中庭に出た時に突然
「皆さーん! おはようございます! 魔王軍の襲撃ですよ!」
建物も揺れるくらいの大きな声が山の方から飛んで来た。ご丁寧な襲撃の挨拶だなとサーガ先生はぼやきつつ、山へ向けて走り出したので後を追う。
「サーガ殿、仁太殿!」
町の北門へ赴くと塀の上にいた兵士から声を掛けられ、見ると手招きして来る。門の脇の扉が開き、中から兵士が出て来てこちらへどうぞというので、後に続いて中に入り階段を上って行くと塀の上に出た。
「凄いな」
唖然として唾すら飲み込めずにいたものの、サーガ先生が鼻で笑いながらそういうと唾を飲み込めるようになる。
目を擦り改めて見たが、森と町までの間にある草原の境目には、ゴブリンや狼っぽいものに蜘蛛などの敵が埋め尽くすようにいた。
「やっほー! ごきげんよう勇者と元勇者……いや、おはようございますでしたね今は」
こんな数を相手にどうしたらいいのか戸惑っていると、少し離れた先に黒く大きな炎が現れそれは徐々に形を変える。
炎はやがて蝙蝠の羽を生やし黒いマントを羽織った、左右の米神から角の生えた青髪の少女になり、口を開きニヤリと笑うと尖った犬歯を見せた。
「驚いてくれて良かった。数だけは驚いてもらえるように用意して来たからね」
「お前も魔族か?」
サーガ先生が問うと相手はそれを聞いて爆笑し始める。何が面白いのが分からず首をかしげているこちらを見て
「ごめんなさいね勇者。だってあの人可笑しなことを言うんだもの」
「なにが?」
「なにがってお前も魔族かって言葉よ」
「改めて聞くけど君は魔族じゃないの?」
「違うのよ違うの。私たちこそが本物の魔族なのよ。あなたたちが倒したのは木っ端も良いところ。調子に乗られたら困るから、ちょっとだけ本気を見せに来たの」
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