対決、熊の魔族! 放たれる炎の必殺剣!
「ォオオオオオオ!」
モンスターたちは自分が抑えますので、その間に避難をと一緒に来ていた兵士たちに告げたものの、あっという間に雄たけびを上げながら何かが落ちてくる。
「ぎゃああああ!」
指示を出していた人間たちのいた場所に落ちたようで、轟音と共に悲鳴が辺りに響き渡った。振動でこちらもモンスターもバランスを崩し倒れてしまう。
「ぐへへ、失敗しちまった」
落ちた衝撃で発生した震動と砂煙が晴れ巨大な熊が現れる。右目を斬られて出来たような十字傷のあり、黒い鎧を着て背中から少し羽が見えていた。
間違いなく魔族だと分かり剣を構えるとこちらを見ながら笑い、下敷きにして潰れた人間たちを踏み潰しながら立ち上がる。
「お前が勇者か……随分と小さい上に弱そうだなぁ。そっちにいる奴が勇者ならまだやる気も出たんだけどなぁ……まぁ良いか! てめぇら人間と話す時間は勿体ねぇ! さっさと死んでくれや!」
人間を物以下として扱う連中に与した結果が圧死とは、彼らはそれで満足だったんだろうか。改めて考えてみれば自分は武器を与えられたお陰で戦えているが、そうでなければ最初のゴブリンとの戦いで死んでいただろう。
特別な武器もなく力もない彼らが、目の前にいる抗いようもない圧を発する魔族に強要されたなら、家族を護る為などの理由で与せざるを得ないのかもしれない。
この世界はユーイさんの授業で人間はヒエラルキーの下の方なので、魔王軍と生活圏が近ければ強要される可能性があるかもと教わった。
突如現れた魔王軍を見たサーガさんは、人が開拓するために自然に踏み込んだ罰なのかもしれない、そう言っていたの思い出す。
「どうした? 怖気づいて手も足も声も出ないか?」
仮にもしそうだとしたら、人間が悪であり魔族は自然から見れば善なのだから、三鈷剣で彼らを斬れるわけがない。
「いや考えていたんだ。お前らは自然の使いなんかじゃない、ただの魔族だってな……剣よ、来い!」
迷う必要も怯える必要もない、この剣は悪なら誰であれ斬れる。天使を助けるためにもこの剣を信じ、ただ悪を倒すだけだ。
「ふん、小難しいことをいいやがって! 俺たちとお前たちは食うか食われるかの関係ってだけだろうが!」
両手を打ち鳴らした後で、踏み潰した人間たちの遺体を後ろ足で蹴り飛ばし身を屈め、こちらに向かって突っ込んで来た。
甘く見たつもりは無かったけど、巨体なのに小動物のような素早さでこちらの目の前まで来ており、相手は歯を剥き出しにしながら笑みを浮かべ、爪をこちらに向けて振り下ろす。
―仁太、偽・火焔光背だ
「偽・火焔光背!」
頭の中に声が聞こえ、剣を貸してくれた人の声だと分かると直ぐに復唱する。背中が突然明るくなると同時に押し出され、相手へ突っ込んで行く。
「なん……がっ!?」
爪を掻い潜り勢いのまま顔目掛けて頭突きを食らわせた。予期していない動きがカウンターとなったようで、そのまま堪えきれずに熊の魔族は膝から崩れ落ちる。
―今だ、降魔火焔斬
「降魔火焔斬!」
背中から剣に縁の濃い炎が宿り、それを右肩に担ぐようにして構えた後で、思い切り振り下ろした。
「ぎゃああああああ!」
熊の魔族は真っ二つになって絶命し、体は炎によって粒子となり風に流されて消える。新しい力を貸して頂いたことに心の中で感謝していると、徐々に気が遠のいて行ってしまう。
まだ敵が居るかもしれない、もってくれと懸命に願ったが叶わず意識を失っていく。悔しい思いをしながらも、あれだけの強敵を大した訓練もせず年月も重ねていない子どもが、一撃で倒せるのだからそれなりの代償があるよな、と最後は納得して目を閉じる。
「大丈夫か? 仁太」
声を掛けられハッとなり目を開けた。授業中に寝てしまったのかと思って焦り、辺りを見回すと馴染みのない部屋で、しかも右に熊の顔がある。
また気を失いそうになるもその熊が慌ててこちらに近付いて来たが、人間の体をしていたのを見てサーガさんだと思い出した。
目が覚めたら元通り、何て願うのもありがちなことだなと思いつつ、すみません動転していてと彼に謝罪し上半身を起こす。
熊の魔族を倒した後で二日ほど眠っていたらしく、心配になって声をかけてくれたようだ。眠りが浅く寝られても最高八時間なのに、二日も眠り続けていられたなんて凄いなと自分に感動しつつ、あれから大丈夫でしたかと尋ねると問題無いという。
強奪された資材は無いし運んでいた人たちは全滅だったものの、それ以外に被害は出ず追手も来なかったので上出来だろうと評価する。
救援に行った人たちから犠牲者が出なかったのは良かったけど、技を放った後倒れてしまったのは不味かったなと感じ、謝罪をするも笑われてしまった。
「仁太、焦ってはいけない。勇者とか言われているが、昨日までただの十五歳の少年だぞ? それが他の大人も叶わないような敵を一撃で倒したのだ。倒れたあとくらいなんとかせねば、他の者の顔も立つまい!」
サーガさんの言葉と豪快な笑い声に暗い気持ちは晴れたが、一撃で倒せたのも自分の鍛錬によるものではないのでと否定すると、それは誰もが分かっているそれこそが勇者の力なのだという。
「あの力は選ばれた者のみが使える特別な力であり、誰もが出せるものではない。力を使い魔族を倒してくれる仁太を支えることこそ、我々大人の役目なのだ。倒れたくらい気にしないでくれ」
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