積み重ねる日々と現れる新たな魔族
サーガさんの厳しい指導を受けながら試行錯誤を繰り返し、陽が沈んだ頃に夕飯ですとメイドさんから言われ稽古は終了する。
朝食と同じように皆で夕食を取った後、薪で沸かした風呂に入って就寝した。文明的に日本では無いから風呂は入らないのではと思ったものの、シャイネンよりはるか東にあるシン・ナギナミの人たちにより、お風呂の文化とか醤油が伝わったとユーイさんの授業で知る。
聞いた限りシン・ナギナミは日本に近い文化と地理のようで、異世界に来てもお風呂に入れることに感謝した。
翌朝の朝食後からはサーガさんの提案で町の復興に参加する。人々と交流しこの世界を肌でじかに感じるにはうってつけだ、と朝の稽古前にサーガさんに言われた。
手伝うことで邪魔にならず皆さんの為にもなるのであれば、是非協力させてくださいと答え参加する運びとなる。
幸い怪我人は逃げる途中で出たくらいだったけど、襲撃時に街を出て帰ってこない人もおり、人手が足りなかったらしく歓迎された。
建物の修繕に参加して欲しいと言われて分かったが、やはり建物の上に飛び上がって登れるような人はおらず、皆梯子を掛け登るか中から上がっている。
羂索に慣れるようサーガさんから言われ、建物の上に登る際は先のとがった部分を放り投げて刺し、抜けないのを確かめてから引っ張りつつ登って行った。
不思議なことに稽古したりこうして登っていても、今のところ疲れはしても筋肉痛にはなっていない。
異世界の先輩であるサーガさんに聞いたところ、自分もそうだったと教えてくれる。
「仁太の経緯を聞く限り転生とは違うが、転移しただけとも思えない。さすがのクロウでも一つや二つサービスしているだろう」
意見を聞きそうであれば良いなと思った。移動や荷物運びに羂索を使用しているものの、以前と持てる量も変わらず引っ張る強さや速さも変わらない。
資材運びをしていても他の人より力が強いようには思えないし、走るのも遅いくらいなのでチートが無いのは確定している。
元の世界に帰ったら凄まじい筋肉痛に襲われ動けなくなりました、なんてことが無いと良いなと思いつつ、復興の手伝いに精を出した。
「大変です! 資材調達組が襲われました!」
朝は稽古から始まり、ユーイさんから勉強を教わったあとで復興を手伝い、日が暮れると稽古をして終わる。
一週間ほど繰り返しの日々が続いたある日のお昼、町の店で昼食を取っていると東の方から兵士が走って来て、救援を依頼してきた。
サーガさんと顔を見合い頷くと急いで昼食を掻き込み、飲み込む間も惜しんで立ち上がり走り出す。知らせてくれた兵士は驚いたのか遅れて来て追いこすと、こちらですと先導してくれる。
町の東門の前に兵士たちだけでなくユーイさんもおり、現場はどこですかと聞くとどうやらまた山の中らしい。
山に縁があるなと思いつつ兵士たちと共に森に入り、山道を登っていくと中腹で馬車が横に倒れており、近くに魔族ではないモンスターと指示を出す人間が見えた。
指示を出している人間たちは髪がもさもさし鎧も掛けたりしていて、こないだ襲ってきた悪い顔をした連中と似た雰囲気をしている。
こんな状況で人間同士が戦わなければならないのか、と悔しい思いつつやめろお前たちと叫びながら駆け寄った。
指示を出していた人間たちはこちらを見て驚き、モンスターに攻撃するよう指示を出す。
こういう場合、先ずは指示を出している人間を止めるべきだなと思い、先の方にある木の上に羂索を投げ突き刺し、縮めと叫ぶとこちらを引っ張りながら縮み始める。
一週間の手伝いと稽古で得た具体的なことと言えば、羂索が伸び縮みしてくれることを発見したことくらいだった。
悪を追う機能だけでなく通常時も助けてくれるなんて、ホント素晴らしい助っ人だなと感激しながら刺した木に着くと、先を抜き直ぐに他の木の下の方へ投げそちらに移る。
「剣よ来い! ……火焔斬!」
飛び降りても平気なくらいの位置に来た時、近くにいたゴブリンを三鈷剣を呼んで飛び掛かって斬り、さらに横にいた巨大なムカデに対して火焔斬を放つ。
「く、くそっ! お前ら俺たちを護れ!」
馬車の周りにいるモンスターを倒していたところで、指示を出していた人間たちはそう命令をしたが、誰もそれを聞かずにこちらに向かってきた。
反応を見て本当に人間の指示に従って行動しているのか、という疑問が浮かび上がる。他の誰かが人間の指示に従うように言ったのではないだろうか。
魔王軍として考えれば指示を出す人間を護るよりも、勇者を倒す方が優先なのは間違いない。魔王の命令かと思っていたところで、山の上の方から木が揺れるほどの雄叫びが聞こえてきた。
「仁太、気を付けろ! 恐らく魔族だ……凄い気を感じる」
敵を吹き飛ばしながらこちらに来たサーガさんは、山の上の方を指さしながらそう告げる。視線を向けるとその場所から煙が上がった次の瞬間、なにかが空を飛んでくる音が聞こえた。
「皆急いで離れて何かにしがみ付け! 吹き飛ばされるぞ!」
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