独白・自供 1
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西暦一九九九年。長野県。
北原夫妻から預けられた娘の■■ちゃん。十三歳。極度のシャイネス。会話がまともに成り立たないことも多々あるが、ここでは一切の記録をありのままに綴ることとする。なお、本人のプライバシーに関する情報は秘匿とする。
「■■ちゃんは、お母さんが好き?」
この質問に対して、■■ちゃんは一分半以上の無言を貫く。回答を得られないと判断したため、次の質問に移行する。
「じゃあ、お父さんは? お父さんは好き?」
こちらの質問に対しても同様に一分半以上の無言であったため、質問を変える。
「学校は楽しい?」
■■ちゃんは県立■■■■中学に通っている。入学して二か月後の現在六月に不登校となり、北原夫妻からカウンセリングの依頼を受け、■■■病院に通院後、セカンドオピニオンにて当院を受信。現在に至る。
質問から二十八秒後、■■ちゃんは瞬きをひとつする。洟をすすると、口から息を漏らした。それからも回答は得られなかったため、次の質問に移行する。
「■■ちゃんは、何か困っていることはある? 学校のことや、家族のこと、友達のこと、なんでもいいから、あれば教えてくれるかな?」
右手の指をほんの少しだけ動かした。空中にあるキーボードをたたくみたいに、上下に微細に動かす。■■ちゃんのリアクションが大きくなってきた。ここからは、言葉を選んで慎重に質問を重ねる。
***
「彼女を殺したのは、私です。私が殺しました」
薄暗い灯のこもる室内では、細かい埃と光が私たちを遮っている。男が取調室にてこうもあっさりと自白をしたのは、自責の念にかられてのことだろうか。それとも、もっと他に別の理由があるのだろうか。
「最初に■■ちゃんを見たのは、七月八日の朝八時ごろでした。通学中の彼女を見たんです。一目惚れでした。四十三歳にもなって中学生に恋なんて、頭がおかしいと思うでしょうね。でもね、私の気持ちは本物だったんです。本物です」
眉間にしわを寄せないように心掛けているのに、我慢ができなかった。「続けて」奥歯を噛み締めたい気持ちをぐっと堪えて、男の自供を聞き続ける。
「はじめは■■■■■のテストのために、朝早く出かけていたんです。あれは大変な作業ですから、朝から憂鬱でした。いえ、私はずっと前から憂鬱だったのです。もうずっと、青い空を見てきれいだと思うことはなかった。何もかもが灰色で、悲しくて、涙が私の意思とは関係なく溢れ出すのです。ああ、話を戻しますね。とにかく私は朝から■■■■■の準備と、それに加えて■のやつと同じ現場だということもあって、鬱屈としていました。現場に向かう運転の途中、車から学校に向かう■■ちゃんを見つけました。■■ちゃんは、決して美人という子ではなかったと思います。個人的な主観になりますが。どちらかというと幸の薄そうな、物静かで、大人しく、自己主張が苦手そうな、■■に耐性が低そうな、儚げな、背が低くてふくよかで、友達が少なそうな、かわいそうな子のように、私の目には移りました。そして思ったのです。この子は私と同じだと。私と同じように、灰色の世界の中で生きているのだと」
呆れてものも言えないとはこのことかと、私は憤りと共にくだらないことを考えていた。
「そして思ったのです。この子を救ってあげなければいけない、と」
つづく