三話 蘇る翼
『ノリと勢いを形にしてみよう計画』第三弾です。
やっと初戦闘になりましたが、次からは説明パートです。
三人でバラージへ向かう道中、飛伝さんはバラージでできる俺の現状への具体的な対応を説明してくれた。
「…まとめると、身体検査で実際に何が起きているのか確認、可能なら元の状態に戻す。戻せなかった場合、戸籍変更や再就学のサポート、望むなら就職活動も手伝うし、あるいは…あまりお勧めできないが、実験の被検体になる形で君を元に戻す方法を探る、バラージで職員として働く、以上が僕たちが君にあげられる選択肢だ。」
「なるほど。」
身体が戻らなかった場合の選択について、少し考える。再就学が一番妥当かと思ったが、ふと、ある疑問が浮かんだ。
「優樹はバラージの職員なんだよな?」
「そうだよ?」
「基本的には、異常の調査に向かうだけで、あまり複雑な事はしてないけど、それでも重要な役割なのは確かだね。」
「どうしてバラージに入る事にしたんだ?」
「ああ、それはね…」
優樹がこちらへ向き直り、口を開いた直後、正面のビル…いや、正面のビルの前の空間を突き破り、蜘蛛のような機械の怪物が出現する。
「はい?」
「何だと…!?」
「こいつ…どこかで…?」
俺は、こんな怪物なんて見た事がないはずなのに、異様に既視感があった。どこで見たのか考えていると、優樹に腕を引かれ、目の前の現実に引き戻される。
「うわっ!?」
突然考え事を始めた牧の腕を引っ張り、怪物の攻撃を間一髪で避ける。飛伝さんと話してた時もそうだったけど、牧の様子がおかしい、昨日まではこんな事…昨日?
昨日は確か…いや、今はそれどころじゃなかった。
「早く逃げるよ!!」
「あ、ああ、分かった。」
飛伝さんは怪物と交戦を開始し、それを見た俺と優樹は来た道を戻って逃げる。しかし、新しく現れた個体に道を塞がれる。
「ギィィィ…」
「まだいるのか…!?」
あまりの出来事に立ち止まってたら、立て続けに出てきた別個体に囲まれて、逃げ場が無くなってしまった。
「えっっと…どうしよう?」
「こいつら…!」
目の前の怪物が腕を振り上げる。飛伝さんが全速力でこっちに向かってくるけど、とても間に合わなそう。怪物が腕を振り下ろし、思わず目をつぶる。
…でも、どんなに待っても、何も起きなかった。恐る恐る目を開けると、そこには、怪物の腕を、片手で止める牧が立っていた。
牧が手に力を込めると、掴まれていた怪物の腕は、瞬時に粉々になった。
「馬鹿な…」
そこで我に返り、今起きてる事を確認するが、全く理解が追いつかない。
「えっ?えっ?何これ?あれ魔法解けてる?」
牧は完全にパニックを起こしていたけど、怪物がもう一度腕を振り上げた時、牧はいきなり大剣を手の中に具現化させて、そのまま怪物に叩きつけた。
「すごい…それどうやってるの?」
「分かんない!なんか頭にイメージが浮かぶからその通りにやってる!」
牧が怪物を一体倒したのを見て、他の個体も一斉に攻撃してくる。
「こんのっ!」
牧は、次々と襲い掛かってくる怪物に応戦するけど、どんどん数が増えて行って、次第に捌き切れなくなっていく。
「牧っ!」
「助けようにもこっちも数が…!」
どこからか湧いてくる怪物はヒデンさんの方にも攻撃してきて、牧に近づこうにも道を塞がれてしまい、どうすることもできないみたいだった。
「何か他に、何か無いか…?」
応戦しながら手を考えていると、倒した怪物の残骸の一つから、光が出ている事に気付いた。
「あれか…?」
剣で怪物をまとめて吹き飛ばし、その残骸に近づく。すると、光が残骸から出てきて、俺の手の中に収まる。光は徐々に弱まっていき、光を発していたそれが見えてくる。
「黒い…箱?」
「牧!後ろ!」
優樹の声で、俺はすぐに振り向く、するといつの間にか距離を詰めていた怪物が、こちらに飛び掛かってきていた。
「やっべ…」
咄嗟に剣を使って防ぐ。何とか押し返すが、流石に体力が限界になり、膝をつく。剣を支えに立ち上がるが、もう戦えるほどの体力は残ってなかった。
「ハァ…ハァ…こいつら…」
「ギギギ…」
怪物がもう一度腕を振り上げる。こちらも構え直そうとするが、剣を持ち上げた途端バランスを崩し、倒れてしまった。何もできずに怪物を見上げていると、
突然ズドンと轟音が鳴り響き、怪物が倒れる。倒れた怪物の頭部を見ると、そこには一本の矢が刺さっていた。
「…矢?」
「大丈夫ですか?」
後ろから声が聞こえてきて、振り向くと、大型の弓を持った女性が手を差し伸べてきていた。
「助かりました、ありがとうございます。」
女性の手を取り、何とか立ち上がる。呼吸を少し整えていると、怪物の群れを吹き飛ばしながら飛伝さんが駆け寄ってきた。
「遅いぞ青葉、何してたんだよ。」
「和兄こそ随分と手間取っていたみたいだけど、調子でも悪かったの?」
「制御装置の刀を忘れたんだよ、そんなんでいつも通り戦ったらマズイだろ。」
飛伝さんのその言葉を聞くと、女性は『そうだろうと思って…』と何か取り出す。
「はいこれ、持って来たよ。」
「おお、助かるよ。」
飛伝さんは女性に渡された刀を装備すると、右手を上に掲げて、詠唱を始める。
「ライジング:モード、起動!」
思ったより短かった、あと抜刀しないんだ。
「そんじゃ、さっさと終わらせますかね。」
飛伝さんはこれまでよりも速い速度で怪物に接近し、一撃で怪物を粉砕していく。
「まだあんな力が…」
「和兄が本気を出すと大抵周辺が更地になりますからね、制御装置を持ってない時は威力を抑えて戦ってるんですよ。」
「なるほど…」
俺が頷いていると、女性はハッと思い出したかのように話してくる。
「すみません、自己紹介がまだでしたね、私は飛伝 青葉、和兄の義妹です、気軽に青葉って呼んでね、よろしく。」
「木田 牧人です、よろしく…?」
後ろで飛伝さんが戦闘を行っているのにも関わらず、平然と挨拶をしてくる。
「あの、飛伝さん一人に任せていいんですか?」
「確かにそうですね…それじゃ、私も加勢してきます。」
青葉さんは弓を持って戦闘を開始する。徒手空拳で戦う飛伝さんと、弓と魔法を駆使する青葉さんは、見事な連携で次々に怪物を倒していく。
「牧、ここは二人に任せて逃げよう、二人なら動いてもステルス魔法は切れないから、ね?」
優樹はしれっと魔法を使っていたらしい、道理で攻撃されない訳だ。
「いや、まだ戦える。」
「無理だって、100m走で平均的な記録しか出した事ない牧の体力じゃもう戦えないよ。」
「…馬鹿にしてないか?」
「…いいから、ここは逃げよう?」
私のそんな制止を無視して、牧は私から少し離れ、大剣を構えて、自分の胸に突き刺した。…突き刺した?
『…???』
牧は自分に剣を突き刺した、この時点で相当おかしな事をしているけど、直後に起きた牧の身体の変化のせいでそれどころじゃなくなってしまった。なにせ、身体が完全に白いドラゴンになっているから。
「…牧?」
『ああ、俺だ…ってこれどっから声出てるんだ?』
「テレパシーだと思うけど…」
『そうなのか、まぁ、これならまだ戦えるな、よし。』
そのまま牧は怪物に突っ込んでいき、体当たりやブレスを駆使してあっという間に怪物を殲滅していった。
「あの子凄いね。」
「巻き込まれないように少し下がるか。」
こっちの倍以上のペースで怪物を撃退していく牧人くんは、かつてのドラゴンと変わらない強さを発揮していた。
この度は本作を見つけてくださり、ありがとうございます。
この作品を書いていると、削っても減らない話の長さにびっくりします。色々詰めたせいなのですがね。