二話 廻り出す運命
『ノリと勢いを形にしてみよう計画』第二弾の記念すべき作品です。まだまだ未熟な出来ですが、楽しんでいただけると幸いです。
あるところにひとりのにんげんがいました
そのにんげんにはしんゆうがいました
あるひにんげんとそのしんゆうはかいぶつにおそわれてしまいます
にんげんはひっしでしんゆうをまもります
かいぶつはにんげんなどかんたんにころしてしまいました
にんげんはねがいます
しんゆうをまもれるちからがほしい
目覚まし時計が鳴り、私は目が覚める。時計の針は9時を差していた。
近くに置いてあるスマホを見ると、牧からのメッセージの通知が来ていた。
『大変な事になった』
「どしたの?」
『何があったの?』
『翼と角と尻尾が生えた』
「…はぁ?」
『訳が分からないんだけど』
『とにかく見れば分かるから来て』
「相当困ってるなこれ…」
私はすぐに支度をして家を出て、牧の家に向かう。牧は私と同じマンションの3階に住んでいるので、大した時間もかからずにドアの前に着き、インターホンを押す。
「牧、来たよー。」
「待ってたよ、こんな事相談できるのはお前くらいだからさ。」
その時の牧の声はやけに高音で、こんなに高い声だったっけ?と疑問に思っていると、玄関のドアを開けた牧の姿が、全ての答えを出した。
「…何で女装してるの?」
「『女装』してるんじゃなくて、『女になった』んだよ。」
「何で?」
「俺が聞きたいよ。朝起きた時にはこうなってたの、服はお前から渡された女性用の服があったから困らなかったけど、それ以外が物凄く困るんだが。いやこの服に自分から袖を通すのも抵抗あるけど。」
「なるほどなぁ…あれ?じゃあこの胸も…?」
ここまでの話の通り、牧は今、私が牧に押し付けた渡した服を着ていて、普段女装してもらっていた時は胸部に詰め物をして完成度を上げてもらっていたけど、今はそれをする必要もないのに、大きさが『私の理想のサイズ』になっているのだ。
「…そうっぽい。」
「・・・。」
この時の私の表情は、牧曰くとても言い表せるようなものではなく、憎しみとも憧れともつかない異様な眼差しで、胸を凝視していたらしい。
それから数分経った後、一度部屋に入って、今後の事を相談することにした。
「どうしたらいい?『実は女装が趣味なんです』とか言って通すのは無理があるし、何より俺の精神が壊れる。」
「うーん…あ、そうだ。」
私は思いついた妙案を実行すべく、ある人に電話をかけた。
しばらくして、見覚えのある男性がやって来た。
「君が木田 牧人くんだね?…確かに女性になってるね…優樹の話だと、昨日までは男性だったんだよね?」
彼は俺の姿をもう一度確認し、疑問を口にする。
「…それ以外にも、角と翼と尻尾があるけど、これは元から?」
「今日からだね。」
「今日からだな。」
彼は頭を抱える、相当困っているようで、何かぶつぶつ言っていた。
「…の可能性もあるが…しかし…だとしてもやはり…」
10秒くらい独り言をつぶやいた後、結論が出たのか、こちらへ向き直って提案をしてきた。
「牧人くん、君さえ良ければ、僕の所属するバラージに来てくれないかい?」
「バラージ?」
俺は耳を疑った。唐突過ぎる提案だからというのもあるが、そもそもバラージは有名な都市伝説に出てくる『政府の秘密組織』の名前で、実在はしないと言われている。それに飛伝さんはアルカナの職員で…
…待て、何故俺は彼の名前と所属を知ってるんだ?
…この際横で驚愕してる優樹はガン無視する事にする。
「バラージの基地に来てくれれば、もしかしたら牧人くんの身体を元に戻す方法が分かるかもしれないし、分からなかったとしても、身分や戸籍の問題を解決できる。無理にとは言わないし、不安なら断ってくれてもいい。」
その提案に、俺はしばらく考え込んだ後、答えを出した。
「…行きます、俺をバラージに連れてってください。」
「ええっ!?そんな簡単に決めちゃうの!?」
「うるさいな、どうせお前もこうなると分かってて飛伝さんを呼んだんだろ。」
優樹は俺と飛伝さんのやり取りを終始黙って見ていたので、バラージについて知っていて、彼を呼んで起きる事はある程度予想できると考えるのは普通だろう。
…優樹はこの展開を予想していなかった顔をしているが。
「あはは、それじゃ行こう!」
しかしすぐに切り替えられる所が優樹の長所だ。
俺もすぐに準備して外に出ようとするが、ある事に気付く。
「…ちょっと待った。」
「どしたの?」
「…この格好で外出は嫌なんだが」
「何を今更…女装して外出するのは何度もやってるよね?」
「今回は、私が、是・非、着て欲しいと思ってた服に自分から袖を通しただけでしょ?」
「…そっちはおかげ様でな。」
「…優樹ちゃんって、意外といい趣味してるよね。」
滅茶苦茶引いてる飛伝さんをよそに、俺は翼を広げる(意識して動かすのは意外とやったらできた)。
「これだよ、これ。」
「あ、確かに、これ馬鹿目立つね。」
「外見か…じゃあここは俺の相棒から教えてもらった魔法で…」
飛伝さんが短い詠唱を行い、魔法を発動すると、俺の翼や尻尾が見えなくなる。
「…あれ?なんか変わった?」
「どうだい?」
「感覚が無くなった…?」
翼や尻尾があった場所に手を置くが、何もなく、しっかりと消えていた。
「これは認識阻害の改良版の魔法でね、実際に見えなくなる以外にも、物理的に触れる事も出来なくなるんだ。」
「一定時間経つか激しく動くと解除されるけどね。」
「へー、すごーい。」
「そこ、露骨にガッカリしない。」
「これならその服じゃなくても平気だろう?お兄さんは外で待ってるから、着替えてくるといい。」
そう言って飛伝さんは外に出る。ちなみにだが俺は今、過去に優樹が押し付けてきた女性用の服を着ていて、今着ている服は背中が開いているもので、前から見ると割と普通の服なのだが…
これを渡してきた優樹が変態である事がよく分かる。あるいは俺の考えが古いのかもしれないが…
「残念だなぁ、折角着てくれたんだから、そのままでいて欲しかったのに。」
「こんな事にならなきゃ着ないわ、この変態が。」
その言葉で優樹は閃いたらしく、とんでもない事を言った。
「ってことは、これからはこういうの着てくれるって事?」
天気は快晴、今日は仕事も休みで特にする事も無く、絶好の散歩日和。
しかし俺は運が良い事に、この日を暇人の最終手段である散歩で無駄にせずに済んだ。
友人が少し変わった困りごとを持ち込んでくれたのだ。
仕事で動くのは好きでは無いが、こういった小さなトラブルは大歓迎だ。
普段とは違う休日に心を躍らせつつも、二人の支度ができるのをのんびり待っていた。
そうやって外でしばらく待っていると、支度を済ませた二人が出てくる。
しかし優樹はやけに青い顔をしていた。
「どうしたんだ?優樹ちゃん、そんな幽霊でも見たような顔して。」
優樹は少しの沈黙の後、一言だけ返した。
「…牧のあんな怖い顔初めて見た。」
「じゃあ、準備も出来たんで、出発しましょうか。」
優樹とは逆にやたらと明るい笑顔の牧人くんを見て、俺は『優樹が何かやったな』とまとめた。
この事はもう考えない事にした。
この度は本作を見つけてくださり、ありがとうございます。
出来るだけ直感的に読めるように工夫していますが、読みやすさを意識したのは初めての取り組みなので、イマイチな部分も多い事と思います。不定期更新かつ長編の予定ですが、気力のある方は、最後まで応援してくださると、私が喜びます。