暇ですわ!
ズシン……ズシン……
あたりに地響きが鳴り渡る。
魔王ローザの足音である。
これでも未来の王妃として礼儀作法は一通り教えられている。
歩く姿は凛としてまるで気高い一輪の花のよう。
しかしいかんせん姿かたちはパワー型魔王である。
しゃなりしゃなりと歩くその姿は不釣り合いで不気味でしかない。
「まあ。あれはなんですの!」
キラキラした目でローザが駆け寄る。
どうやらこの一帯は畑作地帯のようだ。
側近A「薬草畑のようです。魔物によってはこうして栽培や加工などしているようです」
「魔物といっても様々ですのね!」
久しぶりに見る新しいものたちにローザの心もウキウキである。
「まあ、このような世界でも花が?見たことのない花ですわ」
傍らに咲く小さな花に心をとられるローザ。
足を揃え優雅にしゃがみ、花に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。
側近A「……魔王さま、魔王さま」
「?なんですの?」
側近A「もう少しなんとかなりませんか」
たまらず側近が耳打ちする。
側近A「あの、魔王さまのお姿はとても威厳がありまして。その姿でその仕草はちょっとギャップがありすぎますというか……」
側近B「圧倒する恐怖心というのも下々の者には重要でして。威圧感など、支配者としての力を見せつけてやることも役割のひとつでございますれば」
「ううん。なるほどですわね」
ローザは考えた。
支配。威圧。そうだ。悪役令嬢として散々やったことではないか。
「ちょっとそこのお方!」
畑作中の魔物に声高に声をかけるローザ。
「こんな小さな畑でチマチマと。まったく。効率が悪いとは思いませんの!?」
魔物A「え、で、ですが自分ひとりではこれで精一杯で……」
「ふ!まったく困ったものですわね!」
ローザは嘲笑った。
「側近!」
側近A「はっ」
「人材を派遣します。今何人ほど出せますの?」
側近A「魔王さまの望むだけにございます」
ローザはにんまり笑った。
「では農地をこの5倍!増やしましょう。そして水路を引きますわ!このままでは効率が悪すぎますの!」
側近A「は!」
このくらい、わたくしの力でなんとでもなりますわ!と高らかに笑う魔王ローザ。
まずはその口調をやめてくれとは思ったがとりあえず黙っておく側近たち。
さてこれで権威は主張できたかな、と満足げなローザの耳元で。
ブンッ!
羽音が聞こえた。
ー!!これは刺すタイプの虫ですわ!!
ローザは素早く判断した!
彼女は虫に刺されるとひどく腫れるタイプであった!
「イヤッ!」
ローザは腕を振り虫を払い除けた!
その風圧たるや。
ーーブゥンッッ!!
木々を薙ぎ払い岩岩を吹き飛ばし。
その軌道にあるものすべてを無に帰して、更地にしたのであった。
「……」
側近A「……」
側近B「……」
周囲に居た魔物たちもその威力に怯えている。
ローザは無事、魔王としての力の誇示に、成功したようである!