甘いものが欲しいですわ!
「甘いものが食べたいですわ!」
今日も今日とて優雅にカップを傾けお茶を楽しんでいたローザが言った。
「なにか心当たりはございませんの?」
その肩には使い魔となったコダマがちんまり座っている。
側近A「は。なにぶん我々は甘味の摂取を必要としておりませんので……」
側近B「栄養素としては貧弱ですからね」
「食を楽しむという感覚はございませんの……?」
ローザが魔界に来てそこそこの日数が経っているが、どうもこの世界では食の文化を重要視していないようだ。
ローザはとにかくそれが不満だった。
側近A「我々は極端に言えば口から摂取せずとも生きていけますゆえ、なにぶん理解し難いといいますか……」
「食事というのは生活を豊かに彩ってくださいますのよ?味覚はあるのだから楽しめるはずですのに」
側近B「ふむ……」
側近Bは顎に手を当てなにか考えているようだ。
側近B「魔王さまは元は人間でいらしたわけですからね……人間と感覚の近い者なら、この魔界での食事の楽しみ方とやらを身に着けているかもしれませんね」
「!確かに……!」
側近B「この間のドワーフたちに聞いてみましょう。きっと人間に近い文化を持っているはずです」
「すぐに出かける用意を!」
ローザ一行は喜び勇んで早速ドワーフたちの集落へと向かった。
「おじゃましますわー!」
勢いよく登場する魔王ローザに面食らうドワーフたち。
もちろんドアは破壊された。
「あら。失礼」
ドワーフA「……いえ」
側近A「すまん!間に合わず……」
ドワーフB「いい。後で直す。気にするな」
側近B「いつもすまない……」
未だに己の力を自覚していないローザは手下たちにとっては最早破壊神と化していた。
「今日はあなた方に聞きたいことがあって来ましたの!」
ドワーフA「は。聞きたいこととは」
「あなた方。……甘いものはお好き?」
尋ねながらチラ、と横目でドワーフたちを見やる。
予想外の質問だったらしく、ドワーフたちの頭の上に?が浮かんでいた。
ドワーフA「はあ。甘いものですか」
ドワーフB「まあ……たまには食う……よな?」
ドワーフC「そうだな。まああれば」
ローザの瞳がギラッと輝く。
「やはり!」
ドワーフ「!?」
「あるんですわね!?こちらでも甘いものが!」
ドワーフA「!?え、はあ……まあ……」
「教えてくださいます!?」
ドワーフB「え、な、なにをで……」
「甘いものですわ!一体なにを食べておりますの!?」
ローザの必死さに引いているドワーフたち。
それでも魔王のご質問だ。答えないわけにはいかない。
ドワーフA「……えーと。そうだ。ちょっと残ってたよなアレ」
ドワーフB「あ、ああそうだな。ちょっと今、持ってきますので」
もうローザのわくわくは止まらない。
フンフン鼻息荒く待っている。
ドワーフB「おまたせしました。こちらです」
ドワーフはローザの前に皿を差し出した。
スティック状の、半透明で弾力のあるなにかが数本乗っている。
「……」
ーなにかしら。これは……。
見たことのない色、形状。
原材料が予想できない。
「ええい!ままよ!」
わからない。わからないが、とりあえず食べてみよう。
ローザはそれを勢いで口にした。
「!あら!」
ローザの目がギョロッと見開く。
「甘い……甘いですわ!」
久方ぶりに感じる甘み。甘美な刺激にローザの脳が痺れる。
「なんですの!?これは!」
ドワーフA「ゴブリンの脳みそを干したものです」
ローザは全部吐き出した。