転生ですわ!
【よって、ミハイル・プリンストンはローザ・ユースガルドとの婚約を破棄する!】
こちらに指を指し、声高に宣言するのはこの世界の主要攻略キャラである王子ミハイル。
その傍らにはヒロインであるリリィが、不安げに彼の顔を見上げながら、腕に抱きついている。
【そんな……こんなの、何かの間違いですわ!】
泣き叫ぶ、名指しされた悪役令嬢ローザ。
王子の命により、ローザは護衛騎士たちに取り押さえられ……。
の、はずだったのだが。
「……。」
当の本人は顔色ひとつ変えることなく、踵を返すとスタスタと会場を出ていった。
まるで、最初からこの展開を知っていたかのように。
「終わってしまいましたわね……」
ローザは少し、残念そうに呟いた。
ーこれはいわゆる断罪イベント。
恋愛シミュレーションゲーム、胸きゅんリリィの歌声。
魔法やらなんやらが登場する世界でヒロインであるリリィは庶民の出でありながらも希少な白魔法使いで更に聖女として歌声でなんちゃらかんちゃら。
とかいう世界観の中で攻略キャラと恋愛を楽しむというゲームである。
その悪役令嬢として、ローザは役割を終わらせたのだ。
「もう定められたテキストを読み上げる気にもなりませんでしたわ……」
思えば過去世、胸きゅんリリィをプレイし、いつの間にか気づけばこの悪役令嬢へと転生し、それから3年、この断罪イベントまでの日々を粛々と過ごしてきた。
わりと適応力があったのか、自分でも驚くほどスムーズにこなせたとローザはこっそり自負している。
別に死ぬわけでもなし。悪役令嬢ローザはストーリー通りにここで退場。その後はゲーム内でも触れられていなかったがまあ、一応貴族だし、断罪され退学になったとしてもそれなりに暮らしていけると踏んでいた。
ーーが。
「……?なんですの、これ」
断罪会場の敷地から一歩出た瞬間。
突然空から一筋の光がローザの元へと差し込んだ。
「……!?」
自分の体がじんわりと光に吸い込まれていくのがわかる。
「きゃ……キャトルミューティレーションですわーーー!!」
ローザは叫んだ。しかしその声は誰にも届くことなく光と共にローザは消えた。