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1-1 灰かぶりのエラ

「っっっあつっっ!!!」


「まぁみっともない声ねぇ」


「やだわ、新しいドレスが汚れちゃったわママ」


「何やってんだいシンデレラ!汚すんじゃないよ!さっさと片付けな!」


 顔にかかった粉のような熱い何かを払い、無理やり目を開ける。


 目の前には私を嘲笑うように見下す二人の比較的若い女と、怒りを露わにした中年の女。皆庶民的な服を着ているが、『ドレス』というから、一般的には上等な服を着ているのだろうか。


 とにかく、訳がわからず呆然としたまま三人を見上げる。


「ふふ、灰だらけね、エラ。まさにシンデレラ――灰かぶりのエラ――じゃない。ほら、お片付け手伝ってあげるわよ。」


 そう言った一人の年増の女は、バケツに入った黒く汚れた水をわたしの頭の上でひっくり返した。ザブリとそれを被る。呆気にとられて自分の成れの果てを見ると………恐ろしく汚らしい服を着ていた。継ぎ接ぎだらけの、古くゴワゴワとした生地が、汚れた水を吸って嫌な匂いを立ち上がらせる。


「―――なんで、こんな格好を……」


「はぁ?なんでって、あんたがなんの価値もないグズのシンデレラだからでしょう?」


「頭も腐っちゃったのかしらね」


「あぁやだ、私まで腐りそう。お母さま、お姉さま、もう行きましょう?」


「そうね。シンデレラ、ちゃんと片付けておくのよ」


 そうして三人は笑いながら部屋を出ていった。


 呆然としながらも、立ち上がり、口を開く。


「――――浄化、乾燥」


 さらりと嫌な匂いも汚れも消え、温かい風が優しく濡れた体や服を乾かす。もちろん、部屋もピカピカだ。


「………どういう、ことかしら」


 記憶を辿る。そう、ついさっき。婚約者の王子に婚約破棄をされ、覚えのない濡れ衣を着せられ、修道院に向かって……その途中で、野盗に襲われた。


 体を張って私を守ろうとしていた侍女の事を思い出す。その侍女には、まだ小さい子供が二人もいた。修道院で残りの人生を終える私を、身体を張って守る理由なんてない。守るべきものは、逆だ。どうせ、野盗の目的は『私の命』なのだから………そう思って飛び出したところまでは覚えている。


 恐る恐る周りを見る。古びた床と天井、レンガの欠けた暖炉、すきま風が揺らす建付けの悪い窓。


 ―――野盗に、ここに連れ込まれたのだろうか。いや、怪我は……?


 ふと、壁際の姿見が目にとまった。


「――――え?」


 そこにいたのは、古びた布を纏った、可愛らしい顔だった。先程使った浄化の魔法で、頭からかぶった灰らしきものは綺麗サッパリなくなり、薄汚れた髪の毛もその本来の金の輝きを取り戻していた。滑らかな頬の上には、はちみつ色に潤む甘い目が2つ。その庇護欲を誘うような可愛らしい目は、驚きを隠せず、大きな丸を形作っている。


 一体、どうして。


 呆然と見知らぬ『自分』の頬に触る。


 燃えるような赤い髪に、華やかで勝ち気な顔。出るところは出て、出ないところは出ない、しかし気品と力強さを感じさせる立ち姿のカサンドラは、そこにはいなかった。


「…………シンデレラ……エラ、と言ったかしら」


 角のかけた古い鏡に映る可愛らしい女は、そう呟いて鏡に手を触れた。指に伝わる鏡の冷たい感触、そして己の口から発する声からして、カサンドラは、自分が違う人間の中に入ったのだと確信した。落ち着いて考えると………この身体の持ち主の記憶が、断片的に浮かび上がってくる。


「なぜ、こんな下働きみたいなことを受け入れているのかしら。義母義姉とはいえ、同じ家族でしょうに」


 カサンドラは、一切理解できなかった。不遇な立場が不当であれば、自ら動き解決する。とにかく働く。それが、カサンドラのやり方だったからだ。


 ―――だから、レオンハルト様は、わたくしが嫌いだったのでしょうけど。


 言いたいことは言う。負けじと戦う。必要とあらば表裏問わず交渉や根回しを行い、自らが正しいと思う方向へ導く。それがカサンドラだ。だから、正義や平和を重んじる―――言ってしまえば純粋過ぎるレオンハルト王子とは、相性が悪かったのかもしれない。


 だからこそ、綺麗事では済まない事を一手に引き受け、お支えしようと思ってきたのだが。そんなカサンドラが受け入れられなかったのか、プライドを傷つけてしまったのか………王子が選んだのは、庇護欲をそそる純粋そうな令嬢だった。そう、このエラのような、優しく可愛らしい姿の令嬢だった。


 国外の要人もいる場での婚約破棄劇。もはや引き返せないことを悟った私は、真っ青な顔で立ち上がる国王様に首を振り、冤罪を受け入れ、そのままその足で修道院へと向かった。それが、国のために最も良い、選択肢だと思ったから。


 だけど―――エラ。あなたがこの酷い立場を甘んじて受け入れている理由が、私には見つからない。


 自分の中に残る、エラの記憶の残渣をかき集める。断片的な記憶の中に見える、不遇に立ち向かう、純粋な心。


 ………レオンハルト様のようだわ。


 チクリと胸を刺すその気持ちは、後悔なのか。


 ふるふると頭を振る。立ち止まるな、カサンドラ。いいえ、『エラ』。


 今、私にできることは―――


「よく分からないけど、わたくしは『エラ』になった。見たところ庶民のようだから、もう素のまま『私』がいいわね。エラがどこへ行ったのか分からないけど………環境改善して駄目な訳ないわ」


 そしてエラの頭の中を整理する。関係者、周辺環境、国の情勢――――


「………目指すなら、ご当主様の信頼を得るのが良さそうね」


 そして、カサンドラ―――エラは、可憐な顔に強気な笑みを浮かべ、颯爽と部屋を飛び出した。


お読み頂いてありがとうございます!


前作からも見に来てくれた読者の方々もありがとうございます。

今回は超王道ストーリーに転生してしまった悪役令嬢のお話です。

ぜひ最後までカサンドラの猪突猛進っぷりにお付き合いください!


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ぜひまた遊びに来てください。

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