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6『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信


 ついに来たぜ、とワクワクのふとん。

 本棚永久設置決定の大好きな作品の1つの登場です。


 『儚い羊たちの祝宴』

 米澤穂信


 いつ書こうかとうずうずしていました。

 最後の一行で背筋が冷える、耽美で背徳的、優美な文章を味わう暗黒ミステリ短編集です。


 知人から「おすすめ」と言って貸され、特にワクワク感もなく読み始めたんですが、読んでみたら一気読みしちゃうレベルで突き刺さる作品でした。その日のうちに書店へ買いに走ったものです。


 戦前から昭和初期かな、明確にはされていませんがそうした時代の情緒あふれる「The 上流階級」の名家と、それらの名門出身のご令嬢たちが集う大学の読書会「バベルの会」、そしてそれに何らかの形で関係している人間を主人公とした五編が収められています。


 ふとんが一番好きなのは……悩みに悩んで「玉野五十鈴の誉れ」かな……でも「儚い羊たちの晩餐」も大好き……決められないほど好き。

 短編集ですが全ての物語には大なり小なり関係があるので是非収録順に読んでほしいです。それがいいと思います。


 米澤穂信というと、多くの方が『古典部シリーズ』を思い浮かべることだろうと考えます。ふとんも読みました。それも勿論好きです。でも『儚い羊たちの祝宴』は衝撃と甘美さで断トツのフェイバリット。


 ごっつり耽美でダークなミステリ、人間が怖い系ホラーを読みたい方にオススメです。

 布教している身からするともはや「全人類読んで……」ってレベルの傑作。


 それでは、油断すると「もうこれ(エッセイ)読まなくていいからすぐ読んできて」って叫びそうなので自分を落ち着かせつつ、いつものように書いていきます。



【衝撃のラスト】


 一番の魅力でしょう。

 この作品が「暗黒ミステリ」なのも「人間が怖い系ホラー」なのもこの「衝撃のラスト」をもたらす構成があるから(まず前提に作者様のめっちゃすごい技量があるけども)。


 収録されている五編のどれも「え…………?」って背筋がサーッと冷える一文で終わるのですが、それがもう癖になるほど秀逸で見事なんです。ふとんが読んだどんでん返し系では断トツの1位。最の高。


 お話を読みながら、先を予想して「どうなるかしら」とそわそわし、それからの「え…………?」ですからね。この「え…………?」は勿論衝撃で声が出ない系の表現ですから。


 もう好きとしか言えない。語彙力が溶けます。



【優美な文章】


 全編、上流階級の人間とそれに関係する人間の視点で描かれますので、もう本当に文章が優美極まりないのです。言葉が柔らかで美しい、いちいち育ちの良さとか教養深さとか、そういったものがふんわりと薫る文章なのです。


 それ故に「衝撃のラスト」の衝撃が際立つと言いますか……優美なご婦人が急にエグイことを語るような感覚。優美なままにもたらされる衝撃がたまりません。


 ご令嬢らしい感覚であったり、上流階級特有の自然な選民思想であったり、使用人のそつのない仕事ぶりであったり……どれもたまらなく見事に描き出されていて、素晴らしいしか言えない。

 他にも時代を感じさせる大きなお屋敷の様子や「バベルの会」のご令嬢たちの会話の様子等々、どこもかしこも描写が素晴らしいのでございます。



【印象深い主人公たち】


 魅力的というより印象深い。その表現がしっくりきます。


 本作の登場人物は前述の通り上流階級の人間とそれに関わる者たちばかりなので、基本丁寧語で男女の別くらいしか口調に特徴がありません。

 しかしそれぞれの思想に思考、そういったものがそれぞれ違って人物の印象を作り出しています。それは生まれ育ちから来るものなので、人としての深みにも繋がり、忘れがたい人物像を構築しています。


 下手をするとネタバレに繋がるのでここはこれくらいで。



【教養を深めるチャンス】


 知識層でもある上流階級の令嬢たちが会員である読書会「バベルの会」が全編に関わっているため、作中には様々な書物が登場し、物語の展開に関わってくることもあって読みたくなるのです。


 お陰様でふとんは海野十三の『地獄街道』求めて全集を買うことになるわ、エドガー・アラン・ポーの『黒猫』を読んで猫好きとして悲しくなるわ、絵画鑑賞が趣味に加わるわ、日本画について学ぶわ、中国の食文化の歴史をさかのぼるわ……とにかく色々と影響を受けました。


 ……影響を受けたものにもネタバレに絡むものがあって全部語れていないので、上記以上にあると思ってください。


 元々、文学作品が登場する作品を読むとその登場作品を読んでみる癖があったのですが、『儚い羊たちの祝宴』にはそれ以外にも教養の種がいっぱいありまして。何でも試してみるというのは大切だなあと自分のことながら思うのでした。


 やはり純文学と言われるものや劇文学などの文学作品に手を出そうと思っても、何から読んだらいいのかとか迷いますもん。とっかかりがないとどれも「面白いのかなぁ?」ってなっちゃってなかなか手が出ないし。

 それならこういう現代の文学作品に登場したもので気になったものを読んでみる、そしてそこから広げていくという方法が良いのではないでしょうか。学びが深まるぜえ……



 以上、にしないと……ついに本エッセイ初2000字超えとなりましたので。


 さて、いかがだったでしょうか。少なくともふとんが激推ししているということは伝わったでしょう。興味は持っていただけたかなぁ。気になってくださっていると嬉しいです。


 本当に、読んで損はしないと思うので!

 個人的な言葉にはなりますが、読まなきゃ非常にもったいないと思います。


 それでは、今回はこの辺りで。


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― 新着の感想 ―
[一言] このエッセイがきっかけで、米澤穂信先生の小説を整理したんですけど、重複有りで三十冊もありました。なんと『氷菓』は五冊、どれだけ好きやねん、、、
[一言] わかりますわかりますわかります、小学生のころに米澤穂信先生にどはまりしてから、何回読み返したことかわかりません。アミルスタンの羊でしたっけ、僕はあれが一番ぞっとしました。でも、僕は『儚い羊た…
[良い点]  以前、活動報告でオススメしていただいた本ですね。  感想をお伝えしていなかったので、こちらに書かせていただきます。  まず、「衝撃のラスト」は本当に衝撃でした。  作者の筆力の高さに息…
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