3『夜の写本師』乾石智子
ふとんの本棚にはファンタジーが非常に多い。
そんな中から今回ご紹介するのはこちら。
『夜の写本師』
乾石智子
広大な世界観を戴く大地オーリエラントの歴史の中に生きる魔道師たちの物語の1つです。
乾石先生は、トールキン先生の次にふとんに与えた影響が大きい作者様かもしれません。
こちら、今回ピックアップした『夜の写本師』はシリーズ1作目。
2部の『廃墟シリーズ』のようにまとめてご紹介せず1作でご紹介する理由は、この『オーリエラントの魔道師シリーズ』が『廃墟シリーズ』と同じように同一の世界で繰り広げられるものでありながら、一つ一つの物語が歴史の一部一部を切り取ったものであるからです。
そしてふとんに与えた影響が大きすぎるからです。
そんなわけですから、このシリーズの作品についてはまた他の回でも取り上げますよ。
というわけで『夜の写本師』、好きなところ感じたこと、書いていきます。
【とにかく世界観がすごい!!】
これはシリーズ通して言えることですね。
オーリエラントという大地を舞台に、様々な国と、様々な文化、そして多様な魔法が生き生きと鮮やかに描き上げられている様は、ファンタジー好きさんにはたまらないものであると思います。
・国や文化
色々な文化を持つ色々な国が登場します。
帝国であったり、魔道師が建てた国であったりと、本当に色々です。
そこに生きる人々の生活には、その国特有の文化が息づいていて、どんな歴史を辿ってきた国なのか想像を膨らませたり物語の中で知ったりと、歴史書を読みつつその国に旅行するような楽しみがあります。
物語の始まり、主人公の世界は小さな村であることが多いです。
畑を耕し、家畜を育て、機織りをして暮らすような、平凡で穏やかな小さい村。
自然に囲まれて、鳥の声に混じって子供たちの駆け回る声が聞こえてきそうな雰囲気。
そうした小さな農村もしっかりと描かれているのです。
・多様な魔法
このシリーズには、文化の1つと言える多くの魔法が登場します。
『夜の写本師』だけでも「ウィダチスの魔法」「ガンディール呪法」「マードラの呪法」「ギデスディンの魔法」「エクサリアナの呪法」等、もう字面だけで素敵の予感がする様々な魔法が。
それぞれ名前がついて区別されているだけあって、どれもそれぞれ特徴を有し、得意不得意があり、魔法を行使する手順は多彩、そしてあるものは神聖にも感じられ、またあるものは悍ましい邪法であると、本当にそれぞれなんです。
手順もしっかり書かれていて、呪文や使用するものなども知ることができます。その内容も納得のいくものばかりで、作者様の想像力に感嘆。他にはどんなものがあるのかしらと次巻を読むのが物凄く楽しみになります。
このワクワク感、ファンタジー好きさんには伝わりますよね?
そして驚くべきことに『夜の写本師』の主人公が使うのは「魔法ならざる魔法」です。
それを行使する存在がタイトルになっている「夜の写本師」。魔道師ではなく写本師なのです。
主人公が写本師の修行をするところはとても楽しかったです。
読んでしばらくは写本師になりたいと密やかに思っていました。
紙やインク、書籍が好きならまず間違いなく魅了されるであろう工房と工程。美しく緻密で繊細、とても素晴らしかったです。
魔法じゃない魔法って? と思われることでしょう。
あんまり語るとこの物語の核心に触れてしまうので、気になるならぜひ読んでほしいです。
【人を描く】
やはりふとんねこは「人間」を描くファンタジーが大好き。
この物語には様々な人が登場します。そして懸命に生きて、時には死んでいきます。
成長していく主人公と共に、読者である我々はそんな人々に触れていきます。時には温かさに心を打たれ、時には熱湯のように憎悪を滾らせて、人との関わりを見つめていくのです。
そこには確かに血の通った人が描かれているのでした。
人の営みは尊く、繋がっているのだと感じます。
以上になります。
とても読みやすく、描写が美しい、上質で重厚なファンタジーです。
ふとんが目指す「読みやすさ」と「重厚さ」の両立の理想形ですね。
あと、飯テロもあります。現代的じゃないし、食べたこともないものなのにお腹が空きます!
絶対に手放せない、ふとんの本棚永劫設置が決定している傑作です。
これをお読みになっているファンタジー好きさん、ぜひ読んでみてください。
ほとんどと言ってもいいほどの多くの方が大満足することでしょう。
それでは、今回はこの辺りで。