15『皇女アルスルと角の王』鈴森琴
作者によっては「こっちの作品は刺さるけどこっちはあんまり」ってこともあるよね。
そんな呟きと共に本日も本棚からお届け。
『皇女アルスルと角の王』
鈴森琴
表紙が素敵でつい表紙買いした思い出。挿絵もあるよ!
若干SF風味のファンタジーです。
世界観としては、人類と、優れた能力を持っている人外が生きる世界と言ったところ。
この世界観自体は作者さんの『忘却城シリーズ』と共通で、そっちの読者だと世界観の広がりが目に見えて楽しいのかなと思います。そしてこの言葉からお察しの通り、ふとんねこは『忘却城シリーズ』がしっくりこなかったタイプです。残念。
そのためこの世界観を掴みきれている自信はありません。本作の中で人類の七系統に関する詳しい解説もなかったような気がするので、世界観の根幹を詳しく語れはしませんが、ファンタジーに慣れていれば「そういうもの」として把握しやすい出来栄えなので問題なし。
主人公は第五系人の帝国の第三皇女アルスル=カリバーン・ブラックケルピィ。
レディ・がっかりと陰口を叩かれる皇女様です。幼少期に受けた心理検査「Nテスト」で「人外類似スコア」を出してしまうし、無口で自信がなさげだしで、父帝にはがっかりされ通し。かなり可哀想な感じです。
そんな彼女が父殺しの冤罪をかけられて、父の実家であるブラックケルピィ家に送られるところから始まる壮大なファンタジー。自信がなくて、俯いてばかりだったアルスルが気高く強く成長していく姿が胸を躍らせます。
それではいつものように推しポイントをあげていきましょう……と思いましたが書き始めたら最高の萌えポイントの話が長くなったのでふとんびっくり。
本作の推しポイントがそこに集約されていたとも言えるので、もうあまり気にせずその点に重きを置いて語っていく回にします。
【人外関係の設定がエモすぎる】
ともかくとして人外ですよ!!
『忘却城』の方に出てきたっけ……かなり前のことで記憶がない。
この世界観における人外は、動物の姿、人語を解する上話す、不思議な力を使える、野生人外は王を戴いている、等の設定がございます。
イヌ、ネコの人外は人間による遺伝子の操作と長年の訓練によって、不思議な力は使えず、種としての人外王を持たず、寿命は短く百年ほど、そして人間に友好的でパートナーとして共存しているという設定も。野生人外の攻撃を退けるのに一緒に戦います。犬と狩りに行くのと雰囲気は一緒。
フェロモンキャンディの設定も非常に良きでした。結構科学的で、ファンタジーではあれど、どちらかというとSFの雰囲気が強かったかも。
とにかくモフモフ!! 人間より大きなモフ!!
ふとんもネコ人外と暮らしたいです。
そして主人公アルスルの設定で一番目を引く「人外類似スコア」のお話。
これは心理テストのようなものの結果として、彼女の思考が人間より人外、つまり動物に近しいことが判明したという意味になります。アルスルはネコ科類似でした。
信仰とかそういうものよりも、己の生存を重視し、生きる上で必要なのは愛や友情よりまずは食糧である、という判断をする思考回路です。
興味深い設定だな……と思いました。
それから人外の不思議な力について。
アルスルが送られたブラックケルピィ家には予言の力を持つ豹の人外リサシーブがいました。アルスルは彼との交流で予言を受けたり、成長のきっかけを掴んだりします。
彼はとある理由から馬の人外王である走訃王の角に貫かれて、ブラックケルピィ家に囚われているのですが……ネタバレ防止にここまでにしておきましょう。
人外王って言うのもまたエモいですよね。
第五系人の大陸には六つの地域があって、その一つ一つに人外王がいて、それに対応する大貴族がいて、という感じ。ブラックケルピィ家の管轄である西域の人外王が、人を食らい、幻術を使う馬の人外走訃王なんですね。
走訃王とアルスルの設定とやり取りが耽美でね……
湿度のある執着の感情や振る舞いっていうんでしょうか、そういう雰囲気が非常に上手く描かれているなと思いました。
耽美だと思って買ったんじゃないので、予想外耽美にハッスルした記憶があります。
人外は動物の姿をしているので、挿絵を眺めるのも楽しかったです。
動物の絵って、人間の絵よりも巧拙が如実に表れるじゃあないですか。
本作のイラストレーターさんは非常に上手で、見ていて幸せになりました。
レディ・がっかりだったアルスルの成長を、壮大なファンタジーの中で見届けることができるのでファンタジー読者さんには非常にオススメです。
とまあ、人外の設定がエモすぎてこのようなご紹介となりました。
本作は、もしかすると作者さんの『忘却城シリーズ』のスピンオフ作品なのかもしれないのですが是非是非続きが読みたい内容でした(スピンオフとは明記されていない)。
というかこのエモすぎる世界観をもっと味わいたいです。
今回のオススメ、いかがだったでしょうか。
それではまた次回の本棚で。