11『陰陽師』夢枕獏
置き場所の関係で、どんどん厳選されているから現在の本棚には本当に好きな作品しかない……
そんなわけで今回はこちら。
『陰陽師』
夢枕獏
語彙力が溶けて「ほんとすき」しか言えなくなるタイプ。
実写は野村萬斎様が最高、優勝。
短編も長編も読みやすく、移り行く四季を感じさせる情景描写は美しく文章の雰囲気も匂やかで、あと擬音がとても好き。つまりは大大大大好きな作品です。
ささ、そんなこんなでいつも通りやっていきましょう。
【主人公組の関係性愛おしい……】
有名すぎて説明は不要でしょうが、本作の主人公はかの有名な陰陽師・安倍晴明。そして十訓抄「博雅の三位と鬼の笛」でよく知られる源博雅です。
この二人が京の都で起こる奇怪な事件を解決するのがメインの物語なのですが、その二人の関係性がですね、たまらなく愛おしいんです……尊いとはこのことかと言いたくなるのよ……
いつも持ち込まれる問題についてお話を聞いた後「れっつごー」みたいなやり取りをするんですがそれがこう、信頼感とか仲の良さとか、そういうものがさらっと短いやり取りの中で伝わってきて好き。
あと、どの巻だったかその「れっつごー」のお誘いに「いけない(しょぼん)」というのがあったときは驚きつつ、新鮮で「はわわ」としたのを覚えています。
このお決まりのやり取りが本当に素敵。毎度やってねこれからも、と思っています。
他にも、縁側でお酒を飲み、季節ごとがらっと表情を変える庭を眺めているときの会話。
お互いをよく分かっている感や、その上でする花の触れ合うような戯れ感とか……
関係性萌えってこのこと……? といつも食い入るように読むふとんです。
二人の酒盛りだけでも毎秒読みたい。
【四季の描写の美しさ】
本作、主人公組が酒盛りをしているシーンで始まり、そして終わるという回がほとんどなのですが、その際庭を眺め、そこに咲く四季の花々、飛び交う虫たちの姿を見て、しみじみと季節の移り変わりや命の美しさ、わびしげな儚さなどを感じる様子がよく描かれております。
その庭がね……目に浮かぶようなのです。
そこに響く博雅の笛の音、時折訪れる蝉丸様の琵琶の音。それらを想像するともう、雅やかでたまらなくなるのです。想像力があって良かった……と、その夢のような景色を噛み締めるのでした。
こんなふうに情景を描けたら、と筆をにぎにぎいつも思います。
【読みやすい】
多分、中高生でも難なく読めて、楽しめると思います。
中高生、陰陽師にハマる時期あるでしょ。蟲毒とかの知識をつける年頃でしょ(偏見)
おふざけ偏見はさておき、『陰陽師』は夢枕獏先生の作品の中で一番万人が読みやすい作品じゃないかと思っています。『キマイラ』とか『沙門空海』とか先生の作品は色々読んだけれど、ふとんの感覚としてはそう。
若いうちに読んでおいて、大人になってから少し成長した感覚でもう一度読むと更に楽しめるかも。
そういう物語は多いですよね。どれも感情の機微とか人間関係の複雑さとか、成長の過程で学んだ「覚えのあるもの」が捉えられるようになるから更に楽しめるのかなって思います。子供の純粋な心で表層に見えるものをじっくり楽しむのもまた一つの味わい方。そして子供の目では見えなかった深層を抉り出したり、掬い出したりして噛み締める楽しみも同じ。物語の楽しみ方は人それぞれです。
【古文と日本史の学習に活きる】
まあ、超絶部分的ですけれど。学生向けのおすすめポイント。
自分が勉強していた頃が懐かしい……(ふるふる)
何かしらが足掛かりになると他の部分もやる気になることありますから大事。
特に主人公の一人の博雅。十訓抄の「博雅の三位と鬼の笛」なんて高校生古文の教科書の最初の方に収録されていることが多いですよね。勉強した記憶のある方もいるはず。今はどうなんだろう……?
勉強の動機なんて不純でいいんですよ。結果を出せば誰も文句は言えません。
圧倒的才能不足で壊滅的だった数学と物理以外は「創作の種ェェェェー!!」と気合で良い成績をとっていたふとんが言うのです。信用せよとは言いませんがちょっと気にしてみて。こういう趣味に結び付いた動機で学習したことは長年頭に残りますから復習も軽くで済みます。成績も維持しつつ趣味に走れる。おいしいとこだらけ。
以上です。好きな作品ばかりを書く本棚エッセイですが、その中でも一等好きなものの話になると長くなっていけませんね。
本当にオススメの作品なのでぜひ読んでみてください。
それでは今回はここまで!