8話 事件発生
さてと、父親を連れて帰って来るとは言ったものの、どうやってそれを成功させようかしら。
幼稚園の一日が終わり、夕陽が窓から差す部屋の中。
わたしはエプロンを着けたまま、一人で腕を組みながら考えていた。
結局、最後までロナには父親が生死の危機にあるということを言わなかった。
あの母親もそうしてるみたいだし、わざわざわたしがそれを言ってやる必要はない。サッと動いて、ササッと解決させればいいのだ。
「にしても、今さらながらなんで魔王であるわたしが人間のためにこんなことしてるのかしらね、ほんと……。アポロンウルフとか、めんどくさいわねぇ……」
ふぅ、とため息をついて、ぐだぁ、と椅子の背にもたれかかる。
天井を見上げていると、毎度おなじみ例の声が聞こえてきた。
『今日も一日お疲れさまでした。そして、よく父親の件を引き受けましたね、エルシャラ』
「あんたが引き受けろって言ったんでしょ? 何も言われてなかったら、見て見ぬふりしてたに決まってるじゃない。めんどくさい」
『そうですか? なんだかんだ、あなたは引き受けていたと思いますが』
「やめてってば。人間相手にそういうのないし。別にもうむやみに殺そうとは思わないけど、だからって助けようとも思わないのよ、わたしは。ていうか、今日はあんた姿見せないのね」
『実体化しないと寂しいですか? どうしてもと言うのなら、実体化しますが』
「はいはい。別に寂しくなんかないわよ。ただ、昨日は姿見せて、なんで今日は姿見せないのか、単純に気になったの。あんたの弱点把握に繋がるかもしれないからね」
『ふふっ。相変わらず素直ではありませんね。あと、私に弱点なんてものがあるとお思いで?』
「……ないから探してるんじゃないの……」
『そうですか。うふふっ。では、引き続き頑張ってくださいね。魔王エルシャラ』
ムカつくわね、こいつ……。
苛立ちが募りはしたものの、今は創造主に腹を立ててる場合じゃない。
アポロンウルフの住処に今から入ろうとしてるのだ。そっちのことについて考えないと。
『それにしても、あなたほどの者がいったい何をそんなに腕組みしてるのですか? アポロンウルフは確かに獣人族の中でも高位に位置しますが、所詮獣人は獣人でしょう? 敵ではないはずです』
「創造主らしからぬ発言ね、それ。あいつら、人間より学習能力が高いのよ。時間が経つごとに自分たちの戦闘戦術の向上だったり、呪術強度を上げたり、色々余念がないの」
『それくらい知っています。それを踏まえても、あなたならばどうにかできると言っているのです』
「………………」
『……? エルシャラ?』
「…………慢心ね」
『? 今、なんと言いましたか?』
「べっつに。まあ、とにかくわたしはあんまり怪我とかしたくないのよ。全滅させたいわけじゃないし、できる限り楽してロナのバカな父親を持って帰りたいの。わかった?」
『本当に根の部分が改善しませんね。呆れていますよ、私は』
ため息をつき、しょうがない、みたいに言う創造主。
改善なんてするつもりはないに決まってる。何があろうと、わたしはダラダラ暮らしてやるのだ。
今のこの冒険者幼稚園とかいう監獄から解放されたら、また城でぐーたらしてやる。
そこは絶対変わらない。変えたくない。絶対。ぜーったいに。
「まあ、そういうわけだから。そろそろわたしは晩ごはんでも食べるわ」
『そうですか。では、私も意思分身を一度本体に戻すことにします。色々、頑張ってくださいね』
「はいはい。もう戻ってこなくていいわよ」
『残念ながらそういうわけにはいきません。また来ます。では』
と、創造主と別れ、冷蔵庫の方へ向かっていた時だ。
いきなり部屋の窓がガンガン叩かれた。
荒っぽく、乱暴な感じ。いったい誰だ? 夜闇も出てきたってのに。
「何なのよ? 誰? 魔王様の部屋の窓を乱暴に叩いちゃいけないって――」
「助けてください! ロナが! ロナがっ!」
「――!?」
そこにいたのは、必死な形相で訴えかけてくるロナの母親だった。
明日の投稿ですが、もしかしたらできない可能性があります。前に報告した通り、引っ越しお最中でして、明日、体も引っ越し先へ運びますので、その関係で時間が取れるか怪しい……って次第です。把握お願いします!