6話 獣人族の呪い
これから二、三日ほど投稿時間が今くらいになりそうです!(汗)
ちょいとリアルの方でお引っ越し作業中でして……。すみません!
「まおーさまー! ばいばーいっ! また明日ねーーーーー!!!」
空に昇る太陽が傾きかけるような、けれどもまだ夕方とは言い難い時間帯。
ロナはわたしに向かって手を振り、バカでかい声で別れの挨拶を叫んでいた。
もう片方の手を引いているのは、あの子の母親だ。きっちりした時間にロナを迎えに来た。
それくらい当然だろうと思うけれど、これまで数多の戦争を人類と繰り返してきたわたしは、子を適当に扱う親を五万と見てきた。中には身代わりにして逃げようとする者もいたほどだ。
そう考えれば、ロナの母親は好感が持てる。決められた時間ピッタリにやって来たし、弁当箱に入ってた卵焼きはかなり美味しかった。料理の腕も確かだ。
「ふぅー……あぁぁ……疲れたー」
まあ、何でもいい。とりあえずは人間のガキとの戯れ仕事も一日目が終わった。
これがあと一年も続くって考えたら絶望的だけれど、よくわからない達成感みたいなものは感じてる。
これが労働の喜びというやつなんだろうか? 人間相手にして? はぁ、なんか情けない話……。
そんなことを考えながらため息をつき、部屋の中に戻ろうとした時だった。
「げ……」
突如、いつかに見た光が目の前に浮かび上がる。
創造主だ。
ナイスバディ(怒)な女が目の前に現れた。
「お疲れさまでしたエルシャラ。よかったですよ。人の子相手によく働けていたじゃないですか」
「そんなこと言われたって全然嬉しくないわよ」
「うふふっ。ツンデレさんですね」
「違うっての! あと、ツンデレの意味も少し違うわ! わたし、あんたなんて全然好きじゃないんだからね!」
「ほら、ツンデレさんじゃないですか」
「ちがーうっ!」
頭を抱えて叫ぶわたし。
疲れてるのに、さらに創造主の相手もしないといけないとか、いったいどんな拷問なんだろうと心底思った。
涼しそうにクスクス笑う姿は、まるで悪魔だ。
「はぁ……。……あのねぇ、わたしは見ての通り疲れてるのよ。ちょっとは気を遣ってあげようとか、そういうのないわけ?」
「あら。私としては充分気を遣っているつもりなのですけれど?」
「どこがよ! ただ弄んでくれてるだけじゃない! いっそう疲れたわ!」
「うふふっ。私の隠してるこれに気付かないほど、一日中一生懸命だったということですね」
「……は?」
何を言ってるんだろうこの女は。
怪訝な表情を作り、首を傾げていると、創造主は『あるもの』を見せてきた。
「じゃん。これです」
「――! え、あ、そ、それっ、おおおおお酒!?」
「はい。初仕事も上手くこなしましたし、ご褒美をあげます。一緒に中に入って飲みましょう」
「あぁぁぁ、そそそ創造主様っ! ありがとうございましゅっ! ありがとうございましゅぅぅっ!」
わたしは尻尾を丸め、靴を舐めるかの如く創造主の足元にすがるのだった。
〇
「ぷっはーっ! うぅぅーん、最高っ! お酒が全身に染み渡るわぁ~!」
「これが労働後の喜びというものです。よく覚えておきなさいね」
「それはもちのろんよ! はぁぁぁ、美味しいっ!」
創造主が用意してくれたのはお酒だけではなかった。
おつまみとして、お肉とジャガイモを一緒に煮たものとか、海の幸の酢の物とか、ピリ辛に浸けた野菜をスティック状にしたものってな感じで、何品か料理も出してくれたのだ。この時だけは創造主が女神様に見えてしまった。本当に最高。
「城の中で食べる料理もどれも美味しかったけど、さすが創造主様! 常識はずれな美味しさね!」もぐもぐっ
「ふふっ。そうですか。それはよかったです」
創造主はお酒を飲む姿も、料理を口に運ぶ姿だって上品だった。
わたしも魔王の威厳を保つために料理マナーくらいは心得てるけれど、それでも簡単には出せない上品さみたいなものがある。さすがといったところだ。
「……ところで、エルシャラ。少し私からお話があります」
「ん? 何よ? 園児が増えるとか、そう言う話? 今やめてよね。せっかく気分いいんだから」
「そうではありません。少女ロナについてです」
「ロナについてぇ?」
グラスに入ったお酒を飲み干し、口元を拭きながら疑問符を浮かべる。
「あのガキがどうしたって言うの? なに? やっぱり奴隷として扱ってもいいとか?」
「エルシャラ、今私は真面目な話をしています。いいからちゃんと話を聞きなさい」
「な、何だってのよ……?」
真剣な眼差しで見つめられてしまった。しかし、ほんとに綺麗ねこいつ……。
「あの子の父親の話、あなたはしっかりと聞いていましたね?」
「え? ああ、勇者をしてるっていう、あれね」
創造主は静かに頷く。
「ロナは、父親が自分と母親の元に戻ってくると信じ続けています。しかし、実際は――」
「――戻ってこないわよ。きっと」
「ええ。恐らくそうでしょう」
創造主がそう言ったのを聞き、またわたしはグラスに口を付け、お酒を飲む。
そして、一つ息を吐いた後に続けた。
「満月の夜に出ていって、それっきり。ここらの話でそれなら、たぶん、獣人族の呪いか何かでしょ」
「さすが魔王ですね。いきなり飛ばされた地でもそれがわかるのですか」
「当たり前よ。いったい何年わたしが戦ってたと思ってるの。ここは、ルデアノ王国領の森林地帯を拓いた場所。匂いと、人の感じからハッキリわかったわ」
「なるほど。では、当然ながらロナの父についても察することができるわけですね」
「そうね。この近辺は、人間以外にも獣人が森の中で文化を築いたりしてる。バカな話よね。満月の夜に外を出歩くなという教えもなかったのかしら」
……と言ってみたものの、言いながら思い出した。
ロナは、父親がよくオオカミを倒していたと言っていた。
大方、自分の力を過信しすぎていたのだろう。つくづくバカな話だ。
「人は完璧な生き物ではないのですよ。エルシャラ」
「……そうね。どうやらその通りみたい」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………っ」
「私の言いたいこと、わかりますね?」
「もぉぉぉぉ、めんどくさいわねほんとにぃ! わかったわよ! 助ければいいんでしょ、助ければ!」
「そういうことです。ロナの父親を捜索し、助けてあげてください」
ということになった。
また仕事が増えた。わたしはその事実にガックリし、一瞬だけお酒の美味しさを忘れてしまうのだった。




