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2話 これじゃあ強制労働じゃない……

「そんな……嘘よ……嘘でしょ……」


 創造主からとんでもない指令を言い渡されたわたしは、あれから一時間ほど経っても現実と向き合えずにいた。頭を抱え、ベッドの上でorz状態。


 会話した後にこれからの生活を行っていく上での注意点とか、補足情報の書かれた紙が天井からハラハラと一枚落ちてきたんだけど、そこにはこんなことが書いてあった。


――――――――――

魔王エルシャラへ


冒険者幼稚園の先生になり、これからあなたはこの建物、および周辺を切り盛りしていかなければなりません。登園児童は既に決まっています。


それと、園内を見回ってみればわかると思いますが、あなたがここで生活するための部屋や家具、これからやってくる児童たちに向けての遊具や部屋は充分に与えられています。


ただし、食事や水などはすべて自給自足。つまり、あなた自身でどうにかしなければならないです。幼稚園の周辺は森ですから、そこで獣を狩ったり、木の実や植物を集めてどうにかすることです。


あ、そうそう。森を抜けたところには小さい村が存在します。そこで何か買うのも手と言えば手ですね。お金なんて全部城にあると思いますが(笑)

――――――――――



「(笑)じゃないわよ! あんたが奪ったんでしょうが!」


 読んでた最中に思わず叫んでしまった。



――――――――――

最後になりますが、ワープが使えないなら足で城に帰ろうなどという気は起こさないことです。


その気になれば、あなたは強大な魔力を駆使し、城に帰られると思います。それを見越して結界を範囲的に敷かせていただいています。ですので、あなたは絶対にここから出ることができません。私がいいと言うまで、その役目を終える時まで、ずっとここにいてもらいますからね。


それでは、また何かあれば呼んでください。


P.S

ちなみに城にいたあなたの配下たちには事情を既に説明しています。みな、喜んでいたのでご心配なく。もしかしたらたまに園に訪れるかもしれないので、その時はしっかりと迎えてあげてくださいね。

――――――――――


「何でなのよおおおおおおお!」


 何もかも目論見を見透かされて対策され、挙句の果てにルーメリア達にもわたしは見捨てられたらしい。


 ほんと、なんでこんなことに……。


「……もういっそのこと、征服活動を再開させる……? そうすれば城の中に戻れそうだし……」


 口に出し、考えてみるけど、やっぱりそれもそれで普通に嫌だった。


 冒険者たちがわたしの城に来がちだった時、なんだかんだ神経を研ぎ澄ませなきゃいけなくて城の中でダラダラ過ごせなかったし、城の中のものを盗まれたりしたことが多々あった。


 それに、わたしが倒されることはあり得なかったけど、配下の者たちが倒されたりすることもよくあった。


 そういうところはもう見たくない。大陸に派遣してた配下たちにも同じことが言える。


「はぁ……」


 ため息をついた。


 どうしたって今はあの創造主を納得させるほかないみたいだから。


 そのためには、わたしのいるここ『冒険者幼稚園』なる場所で活動しないといけない。


 訳がわかんないわよ。魔王であるわたしが、人間のガキたちに魔王の恐ろしさを伝えろって……。


「人間のガキは嫌いなのよ……。うるさいし、わがままだし、すぐ泣いて喚き出すし」


 ……それはあなたもでしょう?


「うるさいわね! わたしは魔王だからいいの! 人間みたいに矮小で貧弱な存在が生意気であっていいわけ――って、え? え!?」


 どこからともなく声がした……ような気がした。


 キョロキョロと辺りを見回してみるが、何も反応はない。


 けど、さっきのは間違いなく創造主の声だ。もしかして、どこかから見てるんだろうか?


 ……だとすれば、仕方ない……。


「もぉ……こうなったら、徹底的にガキどもを恐れさせてやる。で、人間のガキたちはいったいいつからここに来るのよ?」


 独り言っぽく何者かに問いかけてみるけど、返事はない。もしかしたらあの創造主が答えてくれるのかもと思ってたが、どうも奴が出現するのはきまぐれっぽい。ムカつくなぁ……。


 とまあ、色々と解せないことはあるものの、とりあえず、わたしは今いる建物の中や周辺を見て回ることにした。



「小さいテーマパークみたいなところね、ここ」


 これが全部を見て回った感想だ。


 建物自体は人間が使ってるところを何度か見たことのある、木造づくりの平屋。


 全部で部屋の数は七つ。もちろんこれはわたしの部屋を含めたものであり、一つ一つに『お遊部屋』とか、『お昼寝部屋』とか、『食事部屋』みたいな感じで入口のプレートに書かれてあった。


「ぜーたくねー。人間のガキにこんないい環境用意してやらなくていいでしょ」


 いっそのこと改造して、わたしが一人で過ごすための家にしてやろうかとも考えた。冗談だけど……。


「トイレに、手洗い場、キッチンに、お風呂は……わたしのだろうけど、色んなもの揃え過ぎよあの創造主。いったい何人のガキをここに呼ぶつもりなのよ……」


次は外だ。


 外には簡単で小さいグラウンドと遊具があった。


 一度だけ人間の魔術学校でこんな感じのものを見たことがあるけど、それよりもだいぶ小さい。外の方は建物内よりも質素な気がした。


「なるほど、あの創造主、建物に力入れすぎて外の方はめんどくさくなっちゃったわけね。ったく、しょうがないんだから……って、ん? あ!」


 ブツブツ独り言をぼやいていると、また空から紙が降って来た。



――――――――――

外が質素に見えるのは、できるだけ森の方にも足を向けさせるためです。

魔獣が出ますので、あなたが子どもたちを引き連れて勉強させに行きなさい。魔獣は魔王の手先のようなものと教えるのです。グラウンドは飾りのようなものです。

――――――――――



「はぁ……。はいはい、そういうことね。めんどくさ……」


 っていうか聞いてたの? さっき返事してくれなかったし、今は完全に自由だって思っちゃってたわよわたし。ゆっくりもできないじゃない。


『聞いているに決まってるでしょう? めんどくさ、とは何ですか。めんどくさ、とは』


「うぇ!? あ、じょ、冗談よ冗談! ていうかびっくりするじゃない! 心の声も読めるのあんた!?」


 どうやら心の声もお見通しらしい。


『当たり前です。それと、別に驚かせるつもりはありません。最初に言ったでしょう? 私は見ていると』


 なんというか、監視付きで働かされてる感がすごい。魔王だぞわたし……。


『一応、建物と周辺には目を通しましたね?』


「ま、まあ……」


『あなたはこれから約一年ほどここで過ごします。ちゃんと規律ある生活を送り、園児たちと接するのですよ? いいですね?』


「ちょっと待って今一年って言った?」


『ええ、そうです。冒険者見習いの子たちと一年間ここで過ごすのです』


 げんなりした。


 そりゃあまあ一年って言えば、ゲームしたりお菓子食べたりしてダラダラしてるとすぐに経っちゃうような時間だ。


 けど、それは城の中で過ごしてたらのこと。わたしは今回ここで一年を過ごさないといけない。ゲームもお菓子も、世話をしてくれる配下だっていないのだ。そんなところで一年。


……どう考えても無理でしょ……。


『それだけわかれば、もう今日は早く寝て明日に備えるのです。夕食は用意したのですか?』


「いや、まだだけど……さすがに早くない?」


『早くありません。明日は太陽が昇り始めるのと同時に起きるのです。服装もエプロンを付けて先生っぽくするのですよ。ほら、シャキッとして』


 言われるがまま、気だるげに動いた。


 何度も言うけど、ほんとにわたし魔王なのに何してるんだろう?


 何度も自問自答を繰り返しながら、夕食確保のため、森へと向かった。


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